10月16日の「国消国産の日」から花産業を考える | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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「国消国産(こくしょうこくさん)」
聞きなれないことばです。
国消国産は、国産農産物の消費拡大に加えて、食料安全保障を重視して、JA全中がつくったことば。

日本農業新聞の解説(2023年8月9日)



画像 日本農業新聞(2023年8月9日)

 

「地産地消」の語順に合わせ、「国産国消」でないのはなぜか?
地産地消は、地域で生産された農林水産物をその地域で消費しようとする取り組みのこと。
対して、国消国産は「国民が必要とし、消費する食料は、できるだけその国で生産する」という意味だ。
この考え方の順序に基づき、「消」が先に来る語順を採用している。

食料安全保障の危機感から、2020年にJA全中が提唱したのが「国消国産」だ。
「国産国消」の語順では、「国内で生産した食料を国民が消費する」という意味になる。
国産消費拡大には有効なメッセージになるが、海外に頼る農産物の輸入が難しくなっても、現状の自給率では国民に必要な食料を供給しきれない。
食料安全保障の観点からは、メッセージが不足する。
「消費」を意味する「消」が先に来る語順には、もうひとつの狙いも含まれている。
消費者のニーズに応えて農産物を生産・販売する「マーケットイン」を広めることだ。
作ってからどう売るか考える「プロダクトアウト」と対になる手法で、JAグループが自己改革で重視している。


10月16日は、世界の食糧問題を考える日として国連が制定した「世界食糧デー」であることから、この日をJA全中が「国消国産」の日としたそうです。

「国民が必要とし、消費する食料はできるだけその国で生産する」はまったくそのとおりです。
「食料」を「花」におきかえてもおなじことです。

JAグループは、
これまでは「プロダクトアウト」であったが、これからは「消費者のニーズに応えて、農産物を生産・販売するマーケットイン」を重視するという反省のことばでもある。

マーケットインの「消費者のニーズに応える」はわかったようでわからないフレーズ。
消費者はもはや白米を腹いっぱい食べたいとはのぞんでいない。
朝はトーストにコーヒー、昼はラーメンかうどん、夜にやっと白米。
それも量が減った。
中学生や高校生の食べ盛りでないかぎり、お茶碗一膳で十分という日本人が多い。

その変化が見える化したのが、農家の宿泊つきの研修会。
各種の全国大会や、産地の研修旅行など。
以前は和風旅館、
懇親会は浴衣に着替え、大宴会場でそれぞれにお膳。
仲居さんが給仕、お酌に走りまわる。
いまはホテル。
懇親会は立食。
ビュッフェスタイル。
和食もあれば、中華、洋食、サンドイッチにピザ。
めいめいお皿とビールグラスをもって歩きまわる。

大きな変化が朝食。

もちろんビュフェスタイル。
農家の半数近くは洋食派。
パンにサラダ、ハムにチーズ、スクランブルエッグ、コーヒー、ジュース、ヨーグルト。
シリアルを食べる農家もある。
納豆に卵かけごはん、みそ汁は少数派。

それが消費者ニーズとすると、JA全中はそれでも、消費と関係なく米をつくるのでしょうか?
消費者ニーズというならば、消費者がのぞんでいる国産小麦をつくらねばならないのでは。
消費者がのぞむのは、たんに国産というだけではなく、消費者・生産者の納得価格も必要です。

ひるがえって花産業の「国消国産」。
「日本で消費する花はできるだけ日本で生産する」は成りたたない。
国産だけでは需要を満たす数量が足りないし、花の種類も足りない。
国産が減ったから、輸入で補っている。
国内で生産できない種類だから輸入する。
国内で生産すると価格が高くなるから、安価な外国産を輸入する。

現在の品薄単価高は、国産が減っているのに、輸入が増えないため。

輸入があるから、消費者に供給できる種類が多彩になる。
もともと花はグローバル産業、「メイド・オン・アース、花は世界を駆け巡る」

 

2019年11月24日「メイド・オン・アース、花は世界を駆け巡る」

https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12548110863.html
 

消費者はもちろん、花店、市場・仲卸は輸入にこだわり、違和感がない。
輸入は、「外国」という48番目の都道府県産の花。

唯一、「国消国産」を掲げて生産拡大をめざしているのがサカキ・ヒサカキ。
「神さま・仏さま・ご先祖さまには中国産ではなく国産を」
しかし、消費者に国産をすすめるには安定供給が必要。
国産サカキ・ヒサカキはまだそこまで至っていない。

カーネーションは消費が伸びている数少ない品目(図1)。

 


図1 2022年のカーネーションとバラの生産量を2000年と対比

   国産は農林水産統計、輸入は植物検疫統計のデータを宇田が作図

 

2022年の消費量(国産生産量+輸入数量)は2000年対比、全切り花は32%減。
バラは57%減。

それにもかかわらずカーネーションは3%増、

カーネーションとバラのちがいはなにか?
輸入量の差。
国産は両者ともに激減。
カーネーション62%減、バラ59%減。
しかし、カーネーションは国産の減少分を輸入がカバー。
バラは輸入が増えるどころか、減少。
カバーできなかった(図2)。



図2 カーネーションとバラの生産量(2022年)

   引用は図1とおなじ

 

ただしカーネーションは、「庇(ひさし)を貸して母屋を取られる」状態。
国産が減った分を輸入がカバーした結果、輸入率は66%。
一方、バラの輸入率は16%。

もはや国産カーネーションは絶滅危惧種の貴重品。
カーネーションこそ「国消国産」活動が必要。
といっても、国消国産はJAが取り組む活動で花は対象外。無関心。


また、植物、動物、野鳥などの絶滅危惧種、あるいは絶滅種は国が保護、あるいはトキ、コウノトリのように国が復活させてくれるが、カーネーション農家はだれも助けてくれない。


カーネーションはもちろん、花農家はみずからの力で輸入からシェアを奪いかえし、生きのこるしかない。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.398  2023.10.8)

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