枝ものの「山採り」を考える | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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静かなブームといわれる枝ものの生産と市場入荷の現状、生け花花材としての枝ものについて考えてきました。

前回は、

「生け花流派が求める伝統花材を、通常の生産園芸で対応することはむずかしい」ということを報告しました。
2023年5月21日「生け花流派は枝もの伝統花材に柔軟な対応をしている」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12803714000.html


生産園芸が伝統花材の対応がむずかしい理由を、文化庁の調査報告書がまとめています。
・曲がった枝などの華道用の伝統的な花材は、市場の一般的な規格と一致しない
・ニーズはあるものの必要量が少量であるため、通常の流通や生産では採算が取れないので、市場に出回らない

令和2年度生活文化調査研究事業(華道)
文化庁地域文化創成本部事務局

https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/seikatsubunka_chosa/pdf/93014801_04.pdf

生け花流派は、伝統花材の不足をどのように対応しているのでしょうか?
文化庁の報告書では

「類似の花材で代用する、新たな輸入花をとり入れる等、生け花流派には柔軟に対応する動きがみられる」

しかし、品目的には代用品で対応したとしても、枝ぶりなど芸術性を求める花材は、栽培品ではなく山野に自生する自然木の山採りに依存せざるをえない。

ただし、花産業はグローバル。
日本だけで考えていたら見誤る。
中国輸出で大ブームのドウダンツツジ、アセビなどの和ものの枝もの。
チャイナパワーがいつまでも日本からの輸入をだまって見ているわけはない。
中国は広い。
適地はどこにでもある。
ドウダン、アセビにとどまらず、生け花流派の伝統花材など(儲かると考えられる品目)はすでに植えられ、日本へ輸出するのは時間の問題でしょう。


それまでは、生産園芸になじまない生け花流派独特の枝ものは、山採り専門の業者に注文するシステムがつづきます。

生け花流派に限らず、枝ものや植木類では山採り業者に依存している品目が多い。
そのことはネットを見ればわかる。
「山採り」をウリにした枝ものや植木類がなんと多いことか。
その代表がドウダンツツジ。



画像 ネットでは山採りをウリにしている枝もの、植木類が数多くアップされている(その一例)

 

販売業者は山採りの特徴を次のように語っています。

自然樹形の美しさを味わいたい方へおすすめ
標高1000mの山地から 山採りの天然ドウダンツツジ

家の垣根のドウダンツツジとは違い 

山奥にのみ自然樹形する深山ドウダン 
その枝振りは涼やかでとても美しい

発送前に良く検品致しますが 山採り生花の為 虫食いや縮れ 葉落ちの場合もございます 
枝ぶりの個体差はありますのでご了承ください

山採りの特徴は、ほかの雑木とともに競り合って伸びる環境から、下枝が少なく、畑で作られたものよりもすらっとした樹形になることです


環境保護、持続的農業が優先される時代に、山採りはイメージがよろしくない。
価値観は時代とともに変わる。
昔はあたり前?だったことも、いまではセクハラ、パワハラ、モラハラ・・・、
許されない。


山採りもそのひとつかもしれない。
イメージが悪い。
山採り=山盗り?
自然破壊?

ただし、

山採りの是非を自然保護の観点だけで論じることはできない。

里山は人の手が入らなければ、生態系を守ることができない。
里山が荒れたのは、

人間が、炭、まきや下草、きのこ、山菜などを採りに入らなくなったからといわれている。

この考えかたから、

山採りした植木を売って里山を守る「山採りビジネス」活動を実践しているグループもある。

https://livingsoil.jp/projects/satoyama-value



画像 山採りした植木類を販売して里山を守る「山採りビジネス」活動

 

里山保全や自然保護は重要ですが、法律順守はすべてに優先。
私有地であれば地権者、

国有林であれば林野庁の許可を得たうえでの山採りであることはいうまでもない。
さらに、

林野庁は、植木の山採りで掘りとったあとは、森林保護のためコナラなどの広葉樹の苗を植えるように指導している。

山採りの是非について、愚ブログで論ずるには重すぎるテーマですので、スルーし、生産園芸としてできることを考えます。


①園芸にできないことはない
日本の園芸パワーをはすばらしい。
山野に自生している植物はすべて栽培できる。
栽培によって生産性が高まり、品質が安定する。


かつては山採りだったサカキ、ヒサカキ、シキミもいまは栽培が主流。
若松、門松は山採りと誤解している消費者は多いが、すべて畑で、たねからはじまる栽培です。



画像 ヒサカキの栽培圃場(定植2年目、鹿児島県種子島)

 

とはいえ、うまい米がとれる地下水が高い水田地帯ではムリ。
畑、果樹園などなら問題ない。
ドウダンでもアセビでもつくれる。
問題は、コストと品質(枝ぶり)。
植えてから収穫までの年数、枝を切ってから次に切るまでの年数、そして華道家がもとめる枝ぶり=芸術性に仕上げる技術。


②伝統花材は中山間のシニアビジネスに有望
徳島県上勝町の高齢者による「葉っぱビジネス」とおなじように、木の枝を切って出荷することは日本中どこでもできる。

 


画像 徳島県上勝町の高齢者による「葉っぱビジネス」

 

山採り業者とちがい、他人の山に入る必要はない。

遠くまで出かける必要もない。
自宅周辺や道ばた、防風林、部落共有林、里山は葉っぱや枝ものの宝庫。


地元直売所に出荷するのであれば個人で十分、

市場出荷するならグループ。
とりまとめるリーダーが必要。
また、「価値」を伝える市場担当者が必須ですが、枝ものの目利きは絶滅危惧種なのが問題。


③生産・流通・小売の社会的責任
時代の変化を指摘しておかねばならない。
つくる側、売る側ともに社会的責任を問われる。
花店で扱う商品についても、合法性はもちろん、倫理性、加えて持続可能性をも問われる。


小売が街の花屋だけなら、知らなかったですんだことも、いまは巨大スーパーが花を売る時代。
そのスーパー・量販の枝もの販売量が年々増えている。


山に木を植えるなど社会貢献に熱心なイオンは、全国津々浦々にある花売場で山採りの枝ものを扱っているのでしょうか。
山採りにはどう考えているのでしょうか?



 

社会的責任を問われるのは消費者もおなじ。
伝統的な花材の供給を山採り業者に依頼している生け花流派、その枝ものの出自には関心がないのでしょうか。
それはドウダンツツジ、アセビなど枝ものの輸出を振興している農林水産省花き振興室もおなじです。


山採りでひとが山に入ることが森林の保全になるという考えかたがあることは理解できます。


それはそれとして・・・
生産園芸の役割は、消費者(この場合は生け花流派)が必要とする花材を栽培し、供給することです。
そのための栽培技術はまったく不足しています。
市場を軸に、生産者、花店、技術者が一丸となっての取り組みが必要です。

 

農業協同組合新聞のweb版(JAcom 無料)に、

コラム「花づくりの現場から」を連載しています。
https://www.jacom.or.jp/column/

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.379  2023.5.28)

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