生け花流派は枝もの伝統花材に柔軟な対応をしている | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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京都生花で3年ぶりにひらかれた春の大展覧会「京の花絵巻・枝ものサミット」から、2回にわたり、枝ものについて考えてきました。


1回目は、枝もの生産の現状。
2023年4月30日「『枝ものサミット2023』いま枝ものが熱い」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12800701465.html
 

2回目は、生け花流派の現状から枝ものを考えました。
2023年5月7日「生け花花材としての枝ものは花産業の縮図」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12801734973.html
 

今回は、生け花の伝統花材としての枝もの生産を考えます。

華道の現状と問題点は、文化庁がくわしく調べています。
令和2年度生活文化調査研究事業(華道)
文化庁地域文化創成本部事務局

https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/seikatsubunka_chosa/pdf/93014801_04.pdf
 

華道の問題のひとつに、

枝ものなど「伝統花材」の入手がむずかしくなっていることがあります。
報告書から抜粋します(青字)。


〇必要性
・伝統花材は華道に欠かせない。
・立華や生花等の伝統的な花型では、特殊な花材が必要で、入手できないと挿せなくなる。
・花材などから季節感を感じる情緒を育むのも大切であり、四季折々の花と器が調和することによって花の美しさが現れる。
・伝統花材を守ることは、伝統的な花型を継承していく上で、また安定した稽古の実施や、華道を理解する上でも必要。


〇現状
・使用する多種な花材が入手困難で、地元の花屋にも流通しておらず、山野でも摘むことも困難なものが増えてきているため、稽古に支障をきたす。

〇必要な取組
・伝統花材を再評価
・入手できる先の情報収集など、花材を使用する側の工夫
・入手困難を前提として、早めの手配や予約、身近な環境で調達
・花き農家の支援・育成


〇華道家が入手困難としてあげる品目
・山採り品として、コブシ、ナツハゼ、ナナカマド、マツなど
・水生植物として、カキツバタ、コウホネ、ハス、スイレン、ショウブなど
・枝がまっすぐな規格品ではなく、曲がった枝などの規格外品


では、生け花流派が求める伝統花材に生産者はどのように対応すればよいのでしょうか?

①伝統的な生け花花材は生産園芸になじまない
生け花流派が求める伝統花材を、通常の生産園芸で対応することはむずかしい。

 

そのことは文化庁も報告している。
・曲がった枝などの華道用の伝統的な花材は、市場の一般的な規格と一致しない
・ニーズはあるものの必要量が少量であるため、通常の流通や生産では採算が取れないので、市場に出回らない


生産者だけではなく、花屋さんも伝統花材にはなじみがない。
・稽古用消費額が減ったことで、花屋には生け花の世界は近くて遠い存在になっている。
ハナラボノート2018年9月18日
https://hanalabo.net/2018/09/27/ikebana-kazai-nousui/
 

確かに、

産地には、市場から生け花流派の展示会で必要だからといって、
「茎が曲がったキクで草丈が110cm」といった注文がくることがあります。
本数は?と聞くと14本との返答。
これでは産地は対応できません。


また、手に入るとしても、金額が高ければ、流派の展示会など金に糸目をつけない場合をのぞいて、花材費が決まっているおけいこ用には使えないでしょう。
「生け花花材マニュアル」には、ナツハゼについて池坊のコメントがあります。

「金額が安ければ、もっと使うことができるのですが‥」。


さらに品目だけでなく、枝ぶりなどそれぞれ流派の芸術性を求められると、生産者も目利きでなければなりません。

それは生産性、効率性、収益性を重んじる生産園芸にはなじみません。

やはり、生産園芸とは別の、流派の注文をうける業者などの特殊な業界が供給することになります。


②生け花流派の柔軟性
嵯峨御流は千年以上、池坊は550年以上の歴史があるそうです。
伝統を守るだけではこれだけ長く流派を続けることはできなかったでしょう。
時代に合わせた花材を使いこなす柔軟性があるから、長く存続しつづけられたのでしょう。


その証拠に、生け花流派が、意外と多くの新しい花材をつかっていることが、前回紹介した「いけばな花材マニュアル」からみてとれます。 
平成27年度農林水産省「少量花材安定供給体制構築支援事業」
実施主体FAJ



 

 

よくつかう枝ものとして、池坊、小原流は、アカシア、ユーカリ、スモークツリー、いわゆる洋種枝ものもあげています。


切り花や葉ものではさらに最近に導入された品目や、輸入品がよくつかわれています。
たとえば、
切り花では、

アルストロメリア、アンスリウム、カスミソウ、カラー、カンガールポー、クルクマ、グロリオサ、サンダーソニア、スイートピー、スターチス、ソリダゴ、チューリップ、デルフィニウム、トルコギキョウ、バラ、カーネーション、ヒマワリ、ヘリコニアなど。
葉ものでは、

オクラレウカ、カークリゴ、ドラセナ類、フィロデンドロン、モンステラ、レザーファンなど。

生け花には伝統花材が必要ですが、手に入らなければ流派が続けられないわけではなさそうです。
そのことを、文化庁調査の、華道の団体、流派に対するアンケート(n=395)でも示しています(図)。



図 文化庁「生活文化調査研究事業」アンケート

   Q 「華道を次世代に伝えていく上で守り続けていく必要がある」と考えられる要素は?

   n=395 (団体4、流派102、支部289)、3点選択

 

Q 「華道を次世代に伝えていく上で守り続けていく必要がある」と考えられる要素は?
1位は、流派に伝わる花型や技(86.6%)
2位は、華道における自然観、精神性(77.7%)
3位は、花展や生活の場面における実践(64.8%)


「伝統花材や道具類(はさみなど)」は最下位(6位)で11.9%にすぎません。

華道のかたちや技術、自然観、精神性などが守られれば、花材や道具などの具体的なモノはそれほど重要でないことが読みとれます。


実際に、伝統花材の不足についての対応として、

文化庁は
「類似の花材で代用する、新たな輸入花をとり入れる等、柔軟に対応する動きがみられる」ことを報告しています。

はいえ、生け花流派としては、あればあったほうがよいのは、あたりまえ。
かくして、山採りを生業とする専門業者が活躍することになる。

次回は、たいへん重いお題ですが、枝ものや植木類の山採りについて考えます。

 

農業協同組合新聞のweb版(JAcom 無料)に、

コラム「花づくりの現場から」を連載しています。
https://www.jacom.or.jp/column/

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.378  2023.5.21)

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