円安で切り花の輸入は減ったのか? | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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宇田 明が『ウダウダ言います』、『まだまだ言います』に引き続き、花産業のお役に立つ情報を『もう少しだけ』発信します。

切り花の高値が続いています(図1)。
花業界の最近の常套句。
「円安により輸入が減ったから、仕入れ値があがった。」
たしかに、

日本農業新聞市況欄では、2022年の切り花単価(赤折線)は過去5年平均値(青折線)を大きく上まわっています。



図1 切り花市況(日本農業新聞アグリネット市況)

   2022年の切り花単価(赤)を過去5年平均(青)と比較 

 

うたぐり深いのが、技術者あがりの性(さが)。
つねにエビデンス、数字でしか納得しない。
そこで、

今回のお題は、円安により切り花輸入は減ったのか?

いつものように長文駄文、グラフがいっぱい。

適当に読み飛ばしてください。

円安では輸出は増え、輸入は減るといわれています。
先に、円安で切り花の輸出は増えたのかを検証しました。

2022年10月30日「円安で切り花の輸出は増えたのか?」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12771864738.html

2021年は、コロナ禍にもかかわらず生鮮切り花の輸出が前年より大きく増えました(6億円→11億円)。
2022年も輸出は増えています。
ただし、2022年の伸びが円安効果かどうかは、いまのところ明らかではありません。
為替の影響より、2020年に輸出相手国ダントツ1位に躍りでた中国の購買力と、輸出を担っているいちば、仲卸などの業者の営業努力の結果と考えるのが妥当でしょう。


では切り花の輸入は?
まず、市場への輸入切り花の入荷は減ったのでしょうか?
図2は、

東京都中央卸売市場花き部6卸売業者の1月から10月までの入荷数量。
2019年のコロナ禍以降のデータ(葉もの、枝ものを含む)。
いずれの年も1月から10月までの10か月間。

 


図2 国産と輸入切り花数量の推移(各年とも1月~10月)

   東京都中央卸売市場花き部6卸売業者

 

2022年(1月~10月)の入荷は、国産切り花5.54億本、輸入は1.45億本。
輸入切り花は、コロナ禍で激減しましたが、2021年からは順調に回復しはじめています。

2022年がとくに減ったということはありません。

前年比では、コロナの激風にみまわれた2020年は19%減(図3)。
2021年から回復しはじめ3%増、ことし2022年は2%増。
このように市場の輸入切り花の入荷量は、円安にもかかわらず、これまでのところ増えています。



図3 国産と輸入切り花数量の前年比(東京都中央卸売市場花き部6卸売業者)

 

つぎは、市場入荷量ではなく、国内に入ってきた輸入切り花の総量(葉もの、枝ものを含む)。

いつもの植物検疫統計。
輸入切り花は、2021年までの10年以上13億本で大きな変化がありません(図4)。

 


図4 国産・輸入切り花数量の推移

   国産:農林水産統計花き編 輸入:植物検疫統計

 

一方、国産は着実に?減りつづけています。

農水省は、中国産サカキ、ヒサカキは実数ではなく、1/20にした1束を1本と計算して輸入切り花数量としています。

本ブログでも農水省の方式を用いています。


コロナ禍以降の輸入切り花数(各年1月~10月)が図5。
2021年の9.93億本に対して2022年は9.77億本。

 


図5 輸入切り花数量の推移(各年1月~10月)(植物検疫統計)

 

前年比では、2022年は2%減(図6)。
これは円安の影響でしょうか?



図6 輸入切り花数量の前年比

 

切り花の輸入国は49か国。
コロナ禍、円安の影響は国ごとにさまざまのはず。


輸入国ベスト3は、中国、コロンビア、マレーシア。
この3か国にベトナムを加えると輸入量の約70%。
4か国の輸入数量が図7。

 


図7 主要国の輸入切り花数量の推移(各年1月~10月)

 

これを見ただけで、4国のちがいがよくわかる。
中国は、コロナ禍の混乱も円安も超越して、輸入切り花は激増。
コロンビアは現状維持でふんばっている。
マレーシアが激減。
ベトナムが急増で、ベスト3入りが視野に入ってきた。

そのことは、前年比を見れば、よくわかる(図8)。
2022年(1月~10月)、
中国10%増、
コロンビア1%増、
マレーシア10%減、
ベトナム8%増。



図8 主要国の輸入切り花数量の前年比(各年1月~10月)

 

コロナ禍前の2019年比がさらによくわかる(図9)。

 


図9 主要国の輸入切り花数量の2019年比(各年1月~10月)

 

中国はコロナに関係なく急増。
2022年は2019年比21%増。
輸出も中国がダントツ1位、
輸入も1位、しかも恐ろしいような増えかた。

中国なしには日本の花き産業は成りたたない。

中国との間合いの取り方は、花産業だけでなく、日本の産業全体の問題、安全保障の問題。


コロンビア2019年比、3%増。
コロナ禍を克服。
マレーシアが2019年比36%減。
マレーシアはどうなっているのでしょうか?
ベトナムは2019年比24%増。
これからはベトナムが重要な輸入国。
キク、カーネーションはばっちりでしょうが、バラではケニアに代わる生産国になれるでしょうか?


以上のデータから、
マレーシアをのぞくと、円安であっても輸入は増えつづけています。
輸出とおなじように、輸入切り花を取りあつかう業者の営業努力の成果といえるでしょう。

国内価格が高くなったのは、
国産が減りつづけていること、

入荷が不安定なことの影響が大きい。


生産者は輸入が減って市場価格が高くなることを期待してはならない。
敵失に活路をみいだす、いつかは神風が吹いて大逆転、
日本人のDNAにしみついた思考回路。
それに頼っていては、国産切り花は減りつづけるばかり。
消費の変化、小売の変化、いちばの変化に対応することが国産復活に必要です。


宇田明の『もう少しだけ言います』(No.354 2022.11.27)

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