円安で切り花の輸出は増えたのか? | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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円安が進んでいます。
それも急激に。
1ドル150円をも突破しそう。
バブル期の80円を経験していると、円安は日本が貧しくなったようで先行きが不安。



画像 急激に進む円安

 

円安になると輸入品は値上がりするが、輸出は競争力を増すといわれています。
であるのにニュースは輸入品の値上がりばかり、

輸出へのメリットは話題になっていない。
花業界でも円安により輸入切り花が値上がりし、また入荷が減ったために、花の仕入れ値が上っています。
円安がプラスになるという花の輸出は増えているのでしょうか?


今回のお題は、

財務省貿易統計から、円安で切り花の輸出が増えたのかを検証します。

グラフが多いので、適当に読み飛ばしてください。

貿易統計の切り花は、「生鮮切り花」とプリザーブドなどの「加工品」にわかれています。
2021年は、生鮮切り花が11億円、加工が4億円でした(図1)。
別に、植木・盆栽等が69億円あります。

 


図1 切り花輸出額の推移(財務省貿易統計)

 

以下、生鮮切り花(枝もの、葉ものを含む)について検証します。
生鮮切り花は、2020年はコロナ禍で停滞していましたが、2021年には急激に回復。

 


図2 生鮮切り花の輸出額上位3か国(中国、米国、香港)の推移(財務省貿易統計)

 

その理由、
2019年までは生鮮切り花輸出のけん引役は米国(図2)。
圧倒的1位でしたが、コロナ禍で厳しく落ち込みました。
2021年は回復傾向にありますが、2019年の水準にまで戻っていません。
そんな米国をしり目に、コロナ禍にもかかわらず、2019年から一気に増えたのが中国。
2020年から米国を追いこしダントツ1位。
2021年に生鮮切り花輸出が増えたのは、中国への輸出額が急増したからです。


では、今年2022年の輸出は?
1月~8月の統計ですが、生鮮切り花は引きつづき伸びています(図3)。
21年(1月~8月)の8.0億円が、22年には9.9億円(同)に増えました。
24%増。



図3 生鮮切り花の輸出額(両年とも1月~8月)(財務省貿易統計)

 

国ごとにはどうか?
輸出額上位の国はすべて大幅に増えています(図4)。

 


図4 生鮮切り花の国別輸出額(両年とも1月~8月)(財務省貿易統計)

 

輸出額1位の中国は、2019年~21年に急増し、ベースが大きくなったため10%増にとどまっています(図5)。
コロナ禍で停滞していた米国は33%増で、コロナ禍前に回復。
ベトナムが56%増で、香港を抜いて第3位になりそうな勢い。
韓国も好調です。



図5 2022年(1月~8月)の生鮮切り花輸出額の国別前年比

 

さて、今回のお題の円安効果はありやなしや。
2021年と2022年1月~8月の月ごとの輸出額が図6。
4月をのぞいた各月は、前年同月を超えています。

 


図6 生鮮切り花の月別輸出額(両年とも1月~8月)(財務省貿易統計)

 

1月は155%増(図7)。
これは特に1月の輸出が急増したのではなく、前年の1月が少なすぎた影響でしょう。
2月は4%で落ちついています。



図7 2022年(1月~8月)の月別輸出額前年比

 

円が安くなりはじめたのは3月から(図8)。
1ドル139円になり、24年ぶりの安値と騒がれたのが6月。
32年ぶりの安値の150円が10月20日。

 


図8 円相場の推移

 

5月以降は前年同月を上まわっていますが、これが円安の効果かどうか、判定はむずかしいところです。

すくなくとも、円安はマイナスではありませんが、
9月以降の貿易統計を待たないと正確なことはわかりません。


1位の中国と2位の米国で生鮮切り花輸出額の80%を占めています。
両国の2022年1月~8月の月別輸出額が図9。

 


図9 中国と米国の生鮮切り花の月別輸出額(財務省貿易統計)

 

この図から、わが国の生鮮切り花輸出の特徴と問題点がわかります。
1位の中国(赤)は各月まんべんなく輸出されています。
一方、2位の米国(緑)はバレンタインの2月をピークに、気温が高くなるにしたがい減っています。
これは両国への輸出品目のちがいをあらわしています。


中国は、

アセビ、ドウダンツツジなど枝ものが中心。
1年中出荷があり、新葉から紅葉とさまざまな形態で利用できます。
また、草ものにくらべて高温期の輸送に耐えられることも強み。

ですから、夏にも輸出が減りません。


米国は、

スイートピー、トルコギキョウ、グロリオサ、ラナンキュラス、デルフィニウムなどの洋花の草もの。
圧倒的な人気はスイートピー。
その出荷期間12月~3月には、同時にトルコギキョウなども売れるが、スイートピーが終わると取引は低調。
スイートピーあっての米国輸出。
さらに、草ものは高温期の長時間輸送が輸出のネックになる。


中国は日本から近く、人口14億人の巨大マーケット。
花だけにかぎらず、経済全体がお互いに依存しなければならない間柄。
とはいえ、中国との持続的な関係を築くにはリスクも大きい。
アセビやドウダンを中国がいつまでも買いつづけてくれるのか、政治的な混乱が輸出におよぼす影響、日本が安定して供給しつづけることができるのか、それにかわる品目は何か、状況は常に変化しつづけています。


右肩下がりに慣れてしまった花産業にあって、生鮮切り花の輸出は好調。

明るい話題。
右肩上がりが続きそう。
それには、今回のお題である円安はプラスに働くでしょう。


しかし、円安だけで輸出が増えているわけではありません。
為替相場や、好景気だけで拡大できるものではありません。

まず第一に、世界で通用する切り花の品質。

独自性、オリジナリティ。

長時間の輸送に耐える品質。

そして、地道な営業活動。
国内販売であれ、輸出であれ、営業活動なしには成長なし。
それを担っているのは、卸売業者や仲卸業者などの輸出担当者。

輸出担当者の努力、熱意。
試されているのは日本の花産業の総合力。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.350 2022.10.30)

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