農家数が激減した淡路の花90周年から日本の花づくりの行く末を考える | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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1932年(昭和7年)にはじまった淡路の花づくりは、今年2022年で90年。
節目の100周年が現実のものになってきました。
旧町村地域ごとの花き組合を束ねる淡路花き組合連合会では、10年ごとに盛大な記念大会を開いてきました。
残念ながら、

90周年はコロナ禍もあり、記念誌の発行だけで記念大会はありませんでした。
会員数(花農家)の減少も大きく影響しています。



画像 淡路の花づくり90周年記念誌(2022年3月発行)

 

わたしは、現職時代に40周年、50周年、60周年、70周年にかかわることができました。
研究員退職後にも80周年に参画できました。
記念誌だけのこのたびの90周年では、誌上記念講演として「淡路の花き生産100年に向けて」を寄稿させていただきました。
淡路の花の研究者、技術者として、6回の記念大会に参画できたことは、光栄であり、幸せであるとともに、自身の力不足をも感じています。
それは絶頂期から衰退への50年でした。
これは淡路の花だけのことではありません。
淡路でおこっていることは、日本の花産地でおこっていることです。
ただ、淡路は全国よりちょっと先を進んでいるだけ。


今回のお題は、淡路の花90年の現在から、日本の花づくりの行く末を考えます。

まず、淡路の花農家の減りぐあいを見てみましょう(図1)。

 


図1 淡路花農家数の推移(淡路の花記念誌他)

 

1982年の50周年以降の、10年ごとの記念大会時の淡路花き組合連合会の会員数。
淡路花き連の会費は、市場出荷の送り状(運賃)に上乗せされています。
したがって、会員は生産した花を市場に出荷している花農家。


1982年の50周年時には1,092戸。
その10年前、わたしの新人研究員時代の1972年(40周年)には、公称1,200戸、実数1,500戸といわれていました。
40周年をピークに会員数は減りつづけ、90周年(2022年)には195戸。
1年に20戸、10年で200戸ずつ減っていった勘定になります。
ですから、90周年の会員数は予想どおり。
80周年大会で現状報告をした普及員は、90周年に200戸、100周年の2032年にはゼロになると、危機感を訴えていました。
その予想はぴったり当たっていました。


淡路という古い産地ひとつが消えても、全国的にはさほど影響はありません。
しかし、

ひとつひとつは小さな産地であっても、全国各地で淡路のような産地が縮小、消滅していけば、日本全体では目で見える大きな変化になります。
すくなくとも市場、卸売業者の経営には大打撃、存続が危ぶまれます。


図2は、全国の花農家数の変化。
5年ごとに調査される農水省の農林業センサス。
調査されているのは販売農家数。
農水省の定義、
花販売農家とは、経営耕地面積が30a以上、

または花の販売金額が50万円以上の農家。



図2 全国の花農家数(販売農家)の推移(農林業センサス)

   農水省花き産業・施設園芸振興室「花きの現状について(2022年2月)

 

1990年の12,7万戸が2020年には4.0万戸。
30年間で7割減。
1年に3,000戸の花農家が消滅。
この間、新しい花農家、花産地が誕生しているから、花から撤退した農家はもっと多い。
恐ろしい減りかた。


農家数は減っても、残った農家が生産規模を拡大して生産量を維持・拡大できていれば、自由主義経済、市場経済のセオリーであり、問題はない。
花産業のバブルが崩壊する20世紀末までは、農家戸数が減っても生産量は増え、あるいは維持することができていた(図3)。
21世紀になってからは、農家戸数が減ると生産量も減っている。


花の生産量を維持しつづけるには、花農家数を維持しなければならない。
それは地方、農村を維持するためにも必要。



図3 切り花生産量の推移(農林水産統計花き編)


全国の花農家数はこれからどうなるのか?
おきまりのエクセルに聞いてみる(図4)。
淡路の花農家(赤)も全国(青)も、一直線でおなじように減りつづけている。
ただ、淡路のほうが減り方の勾配がきつい=早いスピードで減っている。



図4 淡路と全国の花農家数の減少予測

   淡路:赤点・線、左目盛

   全国:青点・線 右目盛

 

エクセルが示した数式では、淡路は2030年に花農家はゼロ(y = 0)と推測。
100周年の2032年より2年前に花農家はいなくてってしまう。
全国は2034年にゼロ。

いまから12年後。

淡路だけのことであれば、

100周年記念大会には、来賓だけの記念大会になるとの自虐ネタで笑い飛ばすこともできる。
エクセルの予想はどうであれ、

あいつとあいつは残る、

あの家とこの家は大丈夫と指折り数え、ゼロにはならんと胸を張る?こともできる。

全国ではそんなわけにはいかない。
農水省の担当者はどんな思いで、花農家数の統計数字を発表してきたのでしょうか?
5年ごとの農林業センサス。
次の調査2025年には2.4万戸、2030年には0.9万戸、2035年にはすでに調査すべき花農家がいないというジョークのようなことを、エクセルは予想しているのです。


花農家が減る原因は明快。
花をつくっても儲からない。
儲かれば後継者もできるし、投資もでき、規模も拡大する。

ではどうすれば花をつくって儲けることができるのか?


2014年に制定された「花き振興法」、農林水産大臣は花き産業振興の基本方針を定め、都道府県は基本方針に基づいて都道府県の花き振興計画を定めることになっています。
農業での最大のシンクタンクは公務員組織。
都道府県の振興計画には、それぞれの地域での「儲けるための方策」が網羅。


あとは、それぞれの産地で振興計画を具体化することです。

だれが具体化するのか?
農家自身です。

農家をサポートするひとも必要。
元気な産地には、必ず農家をサポートするモチベーションが高いひとがいます。
職種、地位などではなく、モチベーションの有無。
それは、農協、役場職員であったり、地元関連企業だったり、県職員であったり・・。
農家自身と農家をサポートするひとたちが、市場・小売と連携すれば、花づくりは儲かる産業になれます。


幸い、

花づくり90年の淡路には元気な三代目生産者が残っており、農家をサポートするモチベーションが高い普及員、研究員がいます。
彼らが主役になる100周年が楽しみです。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.329 2022.6.5)

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