着実に増えている輸出から国産切り花の問題点を考える | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

宇田 明の『もう少しだけ言います』

宇田 明が『ウダウダ言います』、『まだまだ言います』に引き続き、花産業のお役に立つ情報を『もう少しだけ』発信します。

母の日商戦、お疲れ様です。

「母の日」、「カーネーション」、「供給不安定」。
毎年、恒例の三題噺。


カーネーション、
主役は輸入、南米コロンビア(図1)。


図1 わが国に流通するカーネーションの産地別シェア(2021年)

   国産:農水省から2021年分はまだ未公表のため、東京都中央卸売市場花き部6卸売業者、大阪鶴見花き地方卸売市場2卸売業者の入荷量から宇田が推定

   輸入:植物検疫統計

 

コロンビアから米国経由、

長距離を航空輸送。
世界情勢の影響をもろに受ける。
コロナ禍の航空輸送混乱が落ち着いたところに、降ってわいたようなロシアのウクライナ侵略。
おまけに母の日は、彼岸、お盆と違って世界の物日。
コロンビアから予定どおりの入荷があるのか、遅れるのか、欠品がでるのか?


輸入は、輸入業者からほぼ正確な情報が入る。
株式会社クラシック
2022年4月29日「母の日向けコロンビア産カーネーションの入荷状況について(第4報)」

https://www.classicjapan.co.jp/news/5484/


国産はふたを開けるまではわからない。

そんな混乱の一方で、切り花の輸出は着実に伸びています。
今回のお題、

輸出の実態から浮かびあがる、わが国の切り花生産の問題点を考えます。

輸出は伸びているとはいえ、輸入に比べるとまだまだ少ない(図2)。
2021年は輸入432億円に対して輸出は85億円(植木・盆栽を含む)。

輸入超過。

(輸出・輸入金額は財務省貿易統計より宇田が計算。

輸入は植物検疫統計で輸入される切り花、枝もの、葉ものの属名ごとに1本単位で公表されている。

金額で示される貿易統計は、植物名ではなく品目コード表示であるため、生鮮切り花、加工切り花、植木・盆栽に該当する品目コードを推定。

したがって、農水省の公式データとは異なる場合がある)

 


図2 花の輸入金額と輸出金額の比較(2021年 財務省貿易統計)

   植木・盆栽等を含む

 


輸出額が2020年の115億円から大きく減ったのは植木・盆栽が減ったため。
生鮮切り花だけなら6億円が11億円に大幅増(図3)。

 


図3 切り花の輸出額の推移(財務省貿易統計)

   総額は、生鮮切り花とプリザーブドなどの加工品との合計

   図2のように、農水省の公式データではない

 

日本の切り花生産額はほぼ2,000億円(農水省花木生産統計2019年)、
輸出はやっと生産額の0.5%ほど。
メジャー品目キク、バラ、カーネーションは国際的な競争力がないが、
輸出はスイートピー、グロリオアサ、トルコギキョウ、ラナンキュラスなどのがんばりで、着実に拡大。
コロナ禍にもかかわらず、大健闘。


拡大は中国への輸出が急増したため。
輸出が始まって以来、輸出相手国で最大は米国(図4)。
中国は、その米国を2020年に追いぬき、
2021年にはさらに差を広げた。

 


図4 生鮮切り花輸出額上位3か国の推移(財務省貿易統計)

 

輸入、輸出ともチャイナパワーがさく裂。
ただし、植木・盆栽では大幅減。
日本産植木ブームが去ったのでしょうか?
米国はコロナが落ちつくにしたがい需要が回復。
2022年は、ロシアのウクライナ侵略と上海のロックダウンによる輸送の混乱があるものの、大幅増を期待。


生鮮切り花輸出がはじまって10年、「日本の高品質な切り花を世界に」がカタチになってきました。
この間、ゼロからの輸出に地道に取りくまれた輸出業者(中心は市場、仲卸)の努力に敬意。
これまでは輸入に攻めこまれ、防戦一方の国産切り花。
輸出は花産業の明るい話題。


輸出が増えるにしたがい、国産切り花の問題点がうかびあがってきました。
輸出は国内生産の縮図、輸出の問題点は国内の問題でもある。


問題点
①生産のロットが小さい
日本の切り花生産は、コロンビアやケニアなどの大農場ではありません。
たくさんの小農の寄り合い所帯の多種目少量生産。
それぞれの農家が工夫をし、努力をし、特色を発揮。
他とちがうことをめざしている。


生産者ひとりひとりが特色をもつことは、輸出が少しのときにはウリになる。
しかし、輸出相手国からの大量の注文には対応できない。
シーズンを通して1産地または1生産者の切り花だけではこたえられない。
出荷のたびに、産地、生産者がかわり、場合によっては品種までもがかわる。
産地ごと、生産者ごとに品種、規格、品質がちがい、統一性がない。
そもそも国産には同一規格、大量安定供給の概念がない。
これでは輸出だけでなく、国内の量販対応も困難である。


②山採り枝もの
急増する中国輸出。
人気品目はアセビ、ドウダン、コデマリ、ユキヤナギなどの和風枝もの。
コデマリ、ユキヤナギなどは栽培枝もの。
一方、アセビ、ドウダンなどは山採りが主。
成長が遅いので、栽培では回転が悪く、収穫量が少なく、採算が厳しい。


中国からの大量注文にこたえるため、山採りが増えると、日本の山からアセビ、ドウダンなどが姿を消す恐れがある。
生態系を破壊。
持続的農業でもない。


一方、里山が荒れたのは、まきや、キノコ・山菜採りなどで、ひとが山に入らなくなったことが大きい。
山採りが生態系の再生に貢献しているとの考えもある。
とはいえ、そもそも論になるが、
国民に「山採り」という「職業」を理解してもらえるのか?


花き振興法をもつ花産業は、もはや日かげの産業ではない。
正月の門松の松は山に生えている松の枝を切っていると思っていた市場の新入社員にカルチャーショックをうけたことがある。
かなりの市町村役場が、年末に「紙門松」を住民に配布しているのは、山から松を切るのをふせぎ、生態系を守るためと考えていたから。
新入社員も役場も思考はおなじようです。

 


画像 毎年、年末に全戸に配布される「紙門松」

    本物の松をつかわずに、紙門松にすることで「緑化が推進される」との市役所は考えている

 

中国へのアセビ、ドウダンなどの好調な輸出が、花産業として、山採りを国民にどう説明するかを考えるきっかけになります。
あるいは、これからの花産業に山採りは必要なのでしょうか?

 

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.324 2022.5.1)

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