働き方改革で花市場(卸売業者)従業員のモチベーション・アップ | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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前回は、

大胆にも「花産業のほとんどの問題は市場(卸売業者)従業員の待遇改善で解決できる」と言いきってしまいました。
2021年6月27日「花産業のほとんどの問題は市場従業員の待遇改善で解決できる」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12683043675.html

わたしは、花産業における市場(卸売業者)の力がそれほど大きいと感じています。
しかし、市場の経営者、従業員は自分たちの力の大きさに気づいていません。


花産業の問題は、年々マーケットが縮小していることです。
そのことに対して、何もしてこなかったわけではありません。
さまざまな活動をしてきました。
残念ながら、その活動の成果はあがっていません。
原因は、

活動者が点に留まっているからです。
それを、

生販連携というカタチで、点を線につなげ、面に拡げることが市場の役割。
そのことも市場経営者はわかっています。

しかし、実働部隊の従業員が動けない。
動ける職場環境にない。
市場の職場環境、働き方を変えないとマーケットの拡大は絵に描いた餅。


1日24時間、1年365日、

休むことなく、眠ることなく働いている市場はきわめて劣悪な労働環境です。
満足度が高い職種ではありません。
従業員はいつも疲労困憊。

入荷した花をとにかく売りきることで精一杯。

満足度アップのための車の両輪、

「賃金アップ」と「普通のサラリーマン並みの働き方」。



図1 花市場(卸売業者)従業員の満足度アップのための車の両輪

 

図2 従業員の待遇アップでプラスの連鎖

 

賃金アップについては前回述べました。
最低賃金と労働生産性には強い相関があると、アトキンソンさんはデータで示しています(図3)。
労働生産性とは、ざっくり言うと従業員一人が稼ぐ粗利。
仕事は厳しくても、賃金が高いと、あるていど満足度は維持できます。
満足度が高ければ、改善・改革、イノベーションに意欲をもってとり組めます。
日本の生産性が低いのは、最低賃金が低いからです



図3 最低賃金と生産性との関係

  (デービッド・アトキンソン「新生産性立国論」東洋経済新報社2018年)

 

もうひとつの輪は、働き方。
いまの時代、24時間営業の職種は多くあります。
とはいえ、

その代表ともいえるコンビニでさえ、24時間営業を見なおそうとしています。

市場の新入社員は、すぐに友だちがいなくなるそうです。
普通の勤めの学生時代の友だちとは勤務時間がちがいすぎ、会えなくなるからです。
子どもの運動会、学芸会、参観日などへの参加は親の大きな喜びですが、市場人にはかなわぬ夢。


市場に就職したのだから、そんなことは当たり前、覚悟のうえ。
家族を養うために家庭を犠牲にすることはやむおえない。


当たり前、常識は時代とともにかわる。
市場の働き方をかえる時期に来ています。
市場の働き方を決めているのは「せり」。


花市場のせりを見なおさないと、働き方はかえれません。
せりは従業員の働き方だけでなく、生産者、花店の経営、働き方に直接的に影響しています。

せりのなにが問題か?


①せりによる相場の乱高下が生産者、花店の経営を苦しめている
セリは公正・公平な取引であり、花では97年の歴史がある。
しかし、その役割は終えたようです。
生産者、小売がのぞむのは相場の安定、生産・仕入れの安定、経営の安定。
注文、相対、ウエブ販売で公正・公平な取引は可能であり、そちらへ移行する時期にきている。


画像 1924年(大正13年)開設の日本初のせりによる花市場「高級園芸市場」(東京西銀座)

    生産者は公正・公平なセリ市場を熱望

    それまでの花の流通は、

    ①問屋、仲買人に持ち込み、相対取引

    ②直接、大きな花店に持ち込み

    ③庭先に買いに来た仲買人に売る

    生産者は、問屋、仲買人に大きな不満。

    価格形成が不明朗、約束を守らず、

    売掛金を値切る、踏み倒す

    せり取引は生産者・生花店に歓迎された

 

②せり・在宅せり・ウエブ販売の3重投資が市場経営を苦しめている
市場経営が苦しいのは、取引方法が多様化し、それらへの投資コストが大きいから。
リアルせりからデジタル、ウエブでの取引、IT化でコストが削減できるだけでなく、従業員の負担が少なくなる。


③せりが従業員の労働を劣悪にしている
せり=早朝ではない。
いまでも朝市、昼市、夜市がある。
慣習ではなく、従業員の働き方を主眼にせりの時間を見なおすべき。

働き方改革は市場だけで解決できません。
花の流通は、手作業、肉体作業のアナログ仕事が多く、あちこちで動脈硬化、目詰まりをおこしています。
そのひとつは、産地・生産者が市場に送る出荷伝票、送り状。
FAXやメールで送られてきた産地名・生産者名や品目、品種、等級階級の規格などの送り状は、市場担当者が手作業でパソコンにデータ入力しています。
次に、この出荷情報を物流バーコードラベルに印字し、入荷した1ケースごとに貼り付けています。
この作業はアルバイトを動員しての深夜・早朝作業。
まさにアナログ肉体作業。


画像 深夜の出荷情報バーコードの貼り付け作業 

生産者からFAXで市場に送られてきた出荷情報は手作業でパソコンに入力され、

バーコードを印刷し、1ケースごとに貼り付けられる

 

産地・生産者が出荷時に、出荷情報の物流コードラベルを印刷し、ケースに貼り付けるソースマーキング。
これにより、市場でのデータ入力、ラベル発行、ラベルの貼り付け作業がなくなり、省力化が進みます。
しかし、市場は働き方改革になっても、生産者には電子入力の負担が増えます。
それもシステムさえできていれば、かえって省力化になる。
また、市場手数料と荷取扱料の分離で、利益を生産者に還元できるでしょう。

2020年12月13日「花いちばはオークネット化、生産者はソースマーキング」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12643578658.html

とはいえ、花の市場(卸売業者)は零細。
卸売協会加盟118社のうち、取扱高100億円以上は5社、4%しかない(図4)。
反対に、10億円未満は44社、37%。
20億円未満が79社、67%、
30億円未満が86社、75%。
つまり、卸売業者の3/4は30億円未満。


図4 花市場(卸売業者)118社の取扱高による分類

   (花き園芸新聞2021年6月15日の記事をグラフ化)

 

従業員の満足度をアップするためには、あるていどの企業規模、取扱高が必要。
花のマーケットを拡大するうえでも、地方の市場(卸売業者)の再編、統合は避けられない。

 

宇田明の『まだまだ言います』」(No.286 2021.7.4)


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