仏花・墓花は地域の伝統文化でローカルルール | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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2019年のお盆は台風10号の直撃で幕を閉じました。
せっかくのかき入れ時でありながら、

15日には、終日店を閉めた花屋さんがあったようです。

今回のお題は、お盆、彼岸の仏花、墓花を考えます。


花はグローバル産業。
花は世界のありとあらゆる国から輸入されています。
飾り方は、

日本の伝統文化生け花に加え、欧米の斬新なフラワーデザインがリアルタイムで取り入れられています。
ところが、

ホームユースの中核である仏花・墓花は地域ごとのローカルルール。

全国共通ルールはありません。
県内共通ルールさえありません。
本来、

仏花、墓花、さらには神棚のお供えは、自給自足的で、ムラごとの決まりごと、風習、伝統文化そのものです。
神道や仏教宗派も強く影響しています。
それを、

花業界、花屋さんが商品にしたのが、仏花、墓花に神棚の榊です。

関西人は

関西仏花が仏花と思いこんでいます。
具体的には、

下草(したくさ:ヒサカキ)を背当てに、

青(リンドウかスターチス・シヌアータ)、

白(輪ギク)、

黄(小ギク)、

赤(カーネーション)が縦にならぶデザイン(画像1)。
仏花と名乗る花束では全国で一番短い35cm。
同じデザインが50~70cmと大きくなったのが(関西)墓花(はかばな)。


画像1 関西仏花(左)と(関西)墓花(右)

 

関西仏花が短いのは、仏壇の花びん(銅製)が小さいから。
わが家の花びんは高さ13cm。
それで35cmの関西仏花がぴったり収まる。
東北の仏壇用花びんは品評会の花筒ぐらい大きい(らしい)。
とうぜん、仏花も大きい。


画像2 わが家の仏壇と関西仏花

     花びんは高さ13cm、35cmの関西仏花は収まりがよい

     ちなみにホオズキの実は造花でした。

 

全国の花屋さんが作っている仏花、墓花で、下草(ヒサカキ)を背当てに使っているのは、愛知県、岐阜県から関西まで。
仏花、墓花=下草(ヒサカキ)は、まさに関西ローカルルール。

全国共通ルールは、

キク(輪ギク、スプレーマム、小ギク)が入っていることのみ。

それも、

洋風仏花が増えるとあやしくなる。
一方、

下草(ヒサカキ)をサカキとよび、神棚にお供えするのは東京ローカルルール。

画像3 サカキ(左)とヒサカキ(右)の小束

     どちらも90%以上が中国産

     安さだけでなく安定供給が量販店、花店に支持されている
 

関西ローカルルールが関西一円に及んでいるかというとそうでもない。
たとえば、

淡路島は兵庫県であり、関西のメンバーであるが、関西仏花、関西墓花にはなじみがない。
四国文化の影響をうけており、シキビ(シキミ)文化。
お墓にはシキビ(高野マキを加えることもある)を供えるのみ。


画像4 淡路島の墓花はシキビ(シキミ)のみ

 

明治維新まで日本は、地方文化、風習、方言の集合体。
それが中央集権的に共通化したのは、

1903年(明治36年)の国定教科書で、文章、漢字、表記方法を統一し、

1926年(大正15年)のラジオ放送開始に伴いNHKが誕生し、話しことば、発音を統一してからです。
 

その延長線上で考えると、

全国展開のスーパー、都道府県をまたぐ広域スーパーが誕生してから、仏花、墓花のスタイル、デザイン、花材はスーパー(量販店)の影響が大きくなりました。
全国展開スーパー、広域スーパーは、いまのところエリアごとの花束加工業者が仏花、墓花を納入しているので、地域性があります。
しかし、ムラごとの風習に対応するほど細やかではありません。
当地のスーパーでも、なじみがなかった関西仏花が売られるようになりました。
つかってみると収まりがよく、白、黄、赤、青の花は華やかで、定着しつつあります。

 

しかし、ムラ人には、おやっ?の場面があります。
画像5は、わが家の近くの広域スーパー。
花は本店のある香川県から納入されているそうです。
「シャシャキ」の表示でヒサカキが売られていました。
淡路島では「シャシャキ」ではなんのことかわかりません。

香川の地方名でしょうか?


「ヒサカキ」でもわかりません。
淡路では「ビショギ」。
大阪、奈良、和歌山などでは「ビシャコ」。
関西花業界で「下草(したくさ)」。

 

ヒサカキは、

サカキ、シキミより地方名が豊富で、ムラごとに呼び名があります。

そのため、このスーパーでは、ムラごとの名前で納品することがめんどうだったのでしょうか。

それならば、各店で、それぞれの地方名を表示すればいいのに。


画像5 当地の地方広域スーパー

     花は香川県の本店から納品

     「シャシャキ」では淡路の消費者にはわからない

 

そんなことをウダウダいうのは花業界の事情をしっている人だけでしょう。
消費者は、仏花、墓花のデザイン、花材には頓着していないようです。
それが国産か中国産かも、こだわりはないのかもしれません。
(原産地表示がないので知らないだけかも)
国産か輸入かをもはや超越して、造花が増えています。
造花を買う意思がなくても、わが家が買った仏花のようにホオズキの実だけは造花でした。
来年は、リンドウも造花になっているかもしれません。


地方ではさらに事態は深刻です。

仏花、墓花のデザイン、花材、呼び名などは超越して、
お盆、彼岸の墓参りそのものが年々減っています。


画像6 お盆でもめっきり減った墓参り

    お参りされていない墓が目立つようになってきた

    迎え火などお盆の行事も減りました

 

それは、

花産業の努力不足というより、地方の衰退を「見える化」したものです。


→住民の高齢化
→ひとりぐらしの老人の増加
→老人施設入居・死去
→無人家屋
→子供たちが帰省しなくなる
→墓参りの減少
→仏花、墓花の減少


画像7 地方では廃屋が増えています

     それでも屋根がぬけるまで放置される家はめずらしい

     その前に、行政などの指導で解体される

画像8 まじめな相続人が空き家を解体し、更地を売りに出しても地方では買い手がない

     この更地も来年には樹木が生え、ジャングルになる

 

東京一極集中の裏側での地方の衰退。
花産業だけで解決できる問題ではありません。

だからといって、国の地方創生を待ってもどうにもなりません。
無力感はありますが、それぞれができることをするしかありません。
それが、前回の「一隅を照らす」

2019年8月11日「花の消費拡大は伝教大師 最澄の教え「一隅を照らす」」

https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12503390860.html


スーパーは効率重視、生産性重視でローカルルールを排除して、仏花、墓花の共通化、オールジャパンルールを目指すでしょう。
それだからこそ、地方の花屋さんの役割は大きい。
スーパーにはできない対面販売、接客。
仏花、墓花、お盆、彼岸、迎春についてのうんちく、解説、
伝統文化、風習を守る。

和歌山県農協と線香メーカーなどが、「母の日参り」を展開し、かなり手応えがあるようです。

残念なことに、本体のお盆の墓参りそのものが、衰退しようとしています。

「お盆にはお墓参り」復活の主役は地方の花屋さんです。

花業界の短いお盆休みが終わると、彼岸が目前。


今回もお盆バージョンでした。

 

宇田明の『まだまだ言います』」(No.188 2019.8.18)


2015年以前のブログは

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