<現地発>中米政治・経済・社会についての考察&見聞録 -3ページ目

<現地発>中米政治・経済・社会についての考察&見聞録

長年中米に在住する某国政府経済情報局部長である経済学博士が繰り広げる、最新の中米の政治・経済・社会に関するクリティカル・ディスカッション。日本との関係や違いを考慮し、小国ではあるがバライエティーに富んだ中米各国、また中米域全体の魅力についてのご紹介。

貧困から始まりアメリカへの不法移民の増加を経る問題は前回説明した様に社会的な事象が絡んでいるが、その投稿記事にもあちらこちらに顔を覗かせた通り、経済問題も大きく関連している。具体的には、貧困自体が中米の重要な経済問題だし、その為に付加価値の低い仕事でも比較的高い給料が期待出来るアメリカへ不法移民が向かう理由も、そう言った移民がアメリカから本国の家族の元へ儲けた給料の一部を毎月送金するのも、中米の貧困地域を中心に青少年ギャング団が脅迫金を要求する為に商店が閉店しざるのを得ないのも、全て経済的事象だ。経済的観点から分析しても不法移民を中心とする問題にもやはり悪循環の構図が出来上がっている。今回はこれを説明する。

前回説明した通り、アメリカへ不法に渡った中米の人々は、せっせと一生懸命働いてお金を稼いでは一部を本国の家族へ毎月の様に送る生活をする。もう少しこの実態を分かりやすくする為に、少し前のデータになるが2007年に米州開発銀行が行ったアンケート調査によると、中米への送金者一人当たりの毎回の平均送金額は約US$300だ。この額は日本の皆様には大したものに感じられないだろうが、一日 US$10で生活をする家族も多い中米ではそれだけでも生活が出来てしまう訳だ。上述の調査によると、中米域国民の約2割が海外送金を受けるので、そう言った家族、またこれらの中米人がこのお金を使う事によって活性化される経済は、大きな恩恵を受けている-。

-だが、事はそれほど単純ではなく、中米経済は海外送金によって大きなダメージも受けている。と言うのも、本国に居る側の人々からすれば、この送金は苦労もなしに受けた収入であり、これが国の経済に大きなひずみを生む。そのひずみが出現する一つの市場は労働市場だが、送金と言う事象が起こっていなかった場合に比べて実質賃金が上昇する。これは何故か説明すると労働の供給側に居る、送金を受ける労働者としては、既にある程度の収入を確保しているので労働する事は二の次になってしまい、働くのなら送金を受けた以前の賃金以上の額の為なら働く、と言う心理が作用する為にこの様な結果を生む。

この為に賃金が上がってしまう事は労働者を雇う企業等だけではなく、経済全体に大迷惑をもたらす。これは何故かと言うと、雇う方としては賃金を上げざるを得ず、その為に企業が生産する物やサービスの値段を上げなければいけなくなる。この事は中米の様に、経済がかなり開放されている国にとっては他国のより安い産品との競争に負ける事を意味しており、要するに輸出産品を含め、中米企業の競争率の低下をもたらす。

この労働市場への影響に加え、海外送金はエルサルバドルとパナマの完全ドル化した国を除いては、もう一つの影響により輸出産品にとって好ましくない影響を与える。ドル建てで海外送金されると中米で受け取る側は当然自国で使える様、自国通貨に換金したお金を受け取る。この事は、他国の通貨に比べて自国の通貨の需要を増やすので、中米の通貨の値段が高くなるのだが、要するに以前に比べてより少ない自国の通貨で米ドルに換金出来ると言う事だ。逆に言えば中米が輸出する品物を仕入れるのに中米の通貨を必要とする中米域外に居る買い手にとっては、以前より多くの米ドルを支払わなければその品物を購入出来なくなるので、その買い手にとっては中米の産品は高くなる訳だ。

こうして海外送金は、中米経済に大きなひずみを生んでいるのだが、これに加えて前述のアンケート調査によると海外送金額の4分の3は日常の出費に使われる。よって、折角アメリカで一生懸命不法移民が家族の為に働いて稼いだお金は本国で長期的に利益を収穫出来るような目的に使われる事無く、短期的な利益しか得られない消費に充てられるので消費経済を生み、泡のようにいとも簡単に消滅してしまう。よって、海外送金は中米で造られる製品の競争率を低下させ、生産を基にした経済よりは消費経済を促す効果を生む。

結果として、前回紹介した治安の悪化にも影響され、企業は生産を減らし、雇用もそれに応じて減少し、貧民を始めとした国民がより貧しくなる。こうして移民問題を中心とした事象は、貧困、不法移民、海外家族送金、競争力低下、雇用の減少、貧困の悪化にまで至り、何度も何度も繰り返される経済的悪循環が生まれるのだが、中米は今でもこの呪いから抜け出せていないどころか、日々悪化し中米の経済を苦しませている。

但し、送金が上述の様な空しい使われ方をされる責任は、使ってしまう人々にあるのではない。と言うのも彼らの殆どは貧しい生活をしており、受け取ったお金を全て生活する為に必要最低限の支出の足しにする以外には無いのだ。この送金額は見方を変えれば中米諸国の政府が、収入源を殆ど持たない貧民の手当てが出来ていない為に存在する、いわゆる社会保障金なのだ。中米に多大な社会的、また経済的ダメージを与えるこの悪循環を断ち切る為に、中米各国は糸口を早急に見つけ出し、対応する事が望まれる。
世界経済は回復基調にはあるものの、ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインのPIIGS(英語のPIGS-豚-に因んだ呼び名)と呼ばれる様になってしまった国々の財政赤字が大きく膨れ上がってしまい、これが世界の金融市場を皮切りに新たな不景気をもたらすリスクが危ぶまれている中、投資効率は低いが安定している金の需要が高まっている。もう少し正確に言えば金の需要は2001年から着実に長期的に上がっており、その当初一オンス当たり US$300弱だったのが、今ではUS$1,200にまで上がっているのだから大いに急騰している。

この金だが、国内の需要を満たす為にアメリカも2009年はUS$81億と多額を輸入しており、これは2008年比43%の上昇率だ。実は中米の数カ国も金をアメリカにわずかながら輸出しているのだが、額はグアテマラがUS$295百万、ホンジュラスがUS$71百万、ニカラグアがUS$47百万と、全体に対する割合は低い。

だが、金の中でもアメリカの輸入額に、中米からの輸出がより大きく占めるある「金の産品」がある。この「ある金の産品」のアメリカの2009年の輸入額は US$600百万と上述の金の輸入額にはとても適わないがそれなりの額だ。こちらの成長率も2009年は前年比24%増なので、やはり絶好調だ。

この「金の産品」の輸入額のうちパナマを合わせた中米6カ国は2009年は合わせて32%を占めたので、中米の小国が占める割合は大きいし、ほぼ年々占有率を上げている。中米ではコスタリカとパナマが2002年にこの物品の輸出を始めてから先駆者となったのだが、現在の輸出額が一番多いのはホンジュラスの US$81百万で、一番少ないのはグアテマラのUS$9百万だ。輸出開始が2004年と他国に後れを取ったエルサルバドルの成長率が特に目覚しく、開始翌年からの輸出額の年間平均成長率は395%だ。ホンジュラスやエルサルバドルの様な小国にとってはこの金の様な年間US$50百万を超える輸出物品は、国の発展を牽引する産物だ-。

と言いたい所だが、実はこの「金の産品」は、世界で共有して税関が使う輸出コードの分類では単なる金くずとして区別されるものだ。より具体的に言うと、これはネックレスなどの装飾品として使う使用済みの中古の金製品であり、中米に近年多くの店が開店した古物商が集めてアメリカに輸出している物に過ぎない。これらの店の体裁や宣伝、広告はしゃれたモダンなデザインをしており如何にも近代的なビジネスとしてのイメージをアピールするが、その実態は昔からある古物屋と言う商売だ。

そう言った店の実態はさておき、気になるのはこの様に大した付加価値を生まない製品が2009年に、加工貿易区(マキーラ)で作られる縫製製品を除けば中米の41番目の輸出額を誇る製品になっている事だ。2008年には輸出額のトップ50品目に入っていなかったのだから、かなりの跳躍だ。しかもホンジュラスとエルサルバドルにとっては7番目の輸出品目だ。この事は中米の各国にどれだけ輸出して他国で需要がある製品が不足しているかを明瞭にしている。

エルサルバドルの輸出促進協会が毎年選ぶ輸出業績最良企業として、去年は箱やケースを造って輸出している企業が選ばれた。この企業は箱とは言っても、高級な装飾品などを包む為のケースを造っているのだからある程度エルサルバドルで付加価値の高い製造業を行っているではないか、と言うのが協会がこの企業を選んだ理由を正当化する説明だろう。でも箱作り屋が造るのは所詮単なる箱で、それよりもその箱に包まれる製品を中米で造れる様になり、そう言った企業に輸出業績の最優秀企業になってもらいたいものだ。その様な現実はまだまだ夢のまた夢であり、どうやら中米の経済発展の道のりはまだまだ遠くまで続く様だ。
小寒い夜が明け朝日が上がり、気温が穏やかに上昇するとシャーと聞こえてくる。中米の高地にあるコーヒー農園の一場面だ。だが、この音は豆が栽培されている農地から聞こえて来るものではない。いや、摘まれた豆が水洗式精製を経た後にパティオと呼ばれる、精製施設内にあるレンガ敷きになった中庭で、攪拌棒を使って精製所の労働者がコーヒー豆の層を混ぜている音だ。

パティオいっぱいに広げられたコーヒー豆の厚さ数センチの層が、ごつい熊手の様な爪が何本か先に付いた攪拌棒に掻き混ぜられてこういう音を出すのは、水洗式精製を経て濡れたコーヒー豆がパーチメントと言う固い殻を外部に備えているからだ。この殻はピスタチオのナッツの食べられる豆の外側に付いている、半分開いた状態の殻に似ている。この殻が擦れ合う為にシャーと言う音が鳴るのだ。

この作業は上記の通り手作業であり、労働者がじゅうたんの様に豆が広げられた区画の一端から逆側の端へ歩いて行ったり来たりしながら行うのだが、こうして日光を直接受ける豆と、層の下側で前日に日光から与えられたレンガが保っている熱を、ゆっくりと受ける豆とを換える事によって、豆は少しずつ乾いていく。また、攪拌された豆はその方向に従って山と谷が入り組んだ列を作るのだが、豆の山が陰を作り乾燥が足りない豆が出ない様に、攪拌作業担当者は日光の方向に合わせた列が作られるように配慮する。

攪拌の頻度は、外気温や日照の強度に左右されるが、一日に数回行われる。攪拌をしなければコーヒー豆の層のじゅうたんの上側にある豆は乾燥しすぎ、また下側にある豆は十分に乾燥しないどころか、コーヒーにとっては天敵であるカビが生えてしまう恐れがある。カビの生えたコーヒー豆は重大な欠点豆なので、恐らく一般の読者の方々にはその様なコーヒーを飲まれた事がある方は居られないと思うが、まるで新聞紙を口に含めて噛んでいるかの様な味がし、とても褒められたものではない。コーヒー豆はこうして外気温や日照の強度によって3日間から10日間程乾燥させるのだが、上述の様な低質のコーヒーが世に出ないように、パティオで攪拌を行う労働者は入念に乾燥作業を行う。

水洗式と乾式の双方の精製過程を終えた後の高級コーヒー豆は、欠点豆を除く為の選別を行うのだが、これにも時代錯誤かと思われる方法を取る農園が今でもあり、ハンドピックと言われる人の目と手に頼る選別作業が行われる。幾ら精度高く精製した後でもコーヒーの味を台無しにする欠点豆は混じってしまっているので、選別作業は不可欠だ。そこで農園によっては、特に高級な豆に際してはコストアップだが精度の高い、人手による選別作業を行う。この為にこう言った農園では何人もの女性の労働者がせっせと豆を良し悪しに分ける光景を見かける事が出来る農園がある。

中米の農園と精製所の労働者が誇りを持って行うコーヒーの栽培と精製の手作業について紹介したが、当然の事ながら農園主も世界で美味しいコーヒーが飲まれる為に大いなる努力をしている。次回はその事について触れたい。