輝かしき中米コーヒーの風土と文化(3) | <現地発>中米政治・経済・社会についての考察&見聞録

<現地発>中米政治・経済・社会についての考察&見聞録

長年中米に在住する某国政府経済情報局部長である経済学博士が繰り広げる、最新の中米の政治・経済・社会に関するクリティカル・ディスカッション。日本との関係や違いを考慮し、小国ではあるがバライエティーに富んだ中米各国、また中米域全体の魅力についてのご紹介。

小寒い夜が明け朝日が上がり、気温が穏やかに上昇するとシャーと聞こえてくる。中米の高地にあるコーヒー農園の一場面だ。だが、この音は豆が栽培されている農地から聞こえて来るものではない。いや、摘まれた豆が水洗式精製を経た後にパティオと呼ばれる、精製施設内にあるレンガ敷きになった中庭で、攪拌棒を使って精製所の労働者がコーヒー豆の層を混ぜている音だ。

パティオいっぱいに広げられたコーヒー豆の厚さ数センチの層が、ごつい熊手の様な爪が何本か先に付いた攪拌棒に掻き混ぜられてこういう音を出すのは、水洗式精製を経て濡れたコーヒー豆がパーチメントと言う固い殻を外部に備えているからだ。この殻はピスタチオのナッツの食べられる豆の外側に付いている、半分開いた状態の殻に似ている。この殻が擦れ合う為にシャーと言う音が鳴るのだ。

この作業は上記の通り手作業であり、労働者がじゅうたんの様に豆が広げられた区画の一端から逆側の端へ歩いて行ったり来たりしながら行うのだが、こうして日光を直接受ける豆と、層の下側で前日に日光から与えられたレンガが保っている熱を、ゆっくりと受ける豆とを換える事によって、豆は少しずつ乾いていく。また、攪拌された豆はその方向に従って山と谷が入り組んだ列を作るのだが、豆の山が陰を作り乾燥が足りない豆が出ない様に、攪拌作業担当者は日光の方向に合わせた列が作られるように配慮する。

攪拌の頻度は、外気温や日照の強度に左右されるが、一日に数回行われる。攪拌をしなければコーヒー豆の層のじゅうたんの上側にある豆は乾燥しすぎ、また下側にある豆は十分に乾燥しないどころか、コーヒーにとっては天敵であるカビが生えてしまう恐れがある。カビの生えたコーヒー豆は重大な欠点豆なので、恐らく一般の読者の方々にはその様なコーヒーを飲まれた事がある方は居られないと思うが、まるで新聞紙を口に含めて噛んでいるかの様な味がし、とても褒められたものではない。コーヒー豆はこうして外気温や日照の強度によって3日間から10日間程乾燥させるのだが、上述の様な低質のコーヒーが世に出ないように、パティオで攪拌を行う労働者は入念に乾燥作業を行う。

水洗式と乾式の双方の精製過程を終えた後の高級コーヒー豆は、欠点豆を除く為の選別を行うのだが、これにも時代錯誤かと思われる方法を取る農園が今でもあり、ハンドピックと言われる人の目と手に頼る選別作業が行われる。幾ら精度高く精製した後でもコーヒーの味を台無しにする欠点豆は混じってしまっているので、選別作業は不可欠だ。そこで農園によっては、特に高級な豆に際してはコストアップだが精度の高い、人手による選別作業を行う。この為にこう言った農園では何人もの女性の労働者がせっせと豆を良し悪しに分ける光景を見かける事が出来る農園がある。

中米の農園と精製所の労働者が誇りを持って行うコーヒーの栽培と精製の手作業について紹介したが、当然の事ながら農園主も世界で美味しいコーヒーが飲まれる為に大いなる努力をしている。次回はその事について触れたい。