中米のコーヒー農園の風土と文化を際立たせる要素として、前回紹介した年季の入った建物を始めとする農園施設の他にあるもう一つの魅力満点要素は、そこで従事する人々が生み出す風情だ。彼らがコーヒー農園に加える深い味の元は、コーヒーの栽培や精製工程が手作業で行われている事だと思うが、日本を始め世界で飲み親しまれている中米のコーヒーの多くの工程が手作業で行われる事は決して軽視されるべき事では無い。何故なら、手作業にはその作物を作っている人々の熱意や愛情がよりその作物に染み込み、一級の作品が出来上がるからである
では、どう言ったコーヒーの栽培や精製工程が手作業で行われるかと言うと、栽培工程における代表的な例は熟した豆の摘み取りだ。中米では地域や高度によって毎年9月から翌年の4月までがコーヒー豆の収穫時期なのだが、熟した後の豆が過成熟し発酵や果たしては乾燥してしまう以前に摘み取る必要がある。その為、各農園は栽培面積に従いこの作業に多くの労働者を雇い、数週間の短期間で収穫を行う。
収穫時期にある農園の一日は明るくなる早朝午前6時頃から始まり、豆の摘み取りは午後3時ごろまで続く。豆の摘み取り作業と言ったら経験した事のない方々には、いとも簡単な作業であるかのように思えるだろうが実際はそうではない。と言うのも同じ農園内にある木でも豆の熟成時期は全て同時ではなくてんでばらばらだからだ。一本の木に上から下まで何百とついている豆でも、それぞれ熟成時期が違う為に摘み取り作業には一粒ごとに豆の色を良く観察し、摘み取るのに熟度が最適であるかを見極めると言う細かい作業が求められるので、女性が多く雇われる。
また、この作業には一日中歩きながら豆を摘み取る為の体力も必要なので、若い女性の労働者が多いのだが、彼女らはコーヒーの収穫時期に合わせて学校が休みとなる子供や家で飼っている犬までを農園に連れて摘み取りに挑む。こう言ったお母さんの中には赤ん坊を背負いながら摘み取り作業をする女性までもが居る程だ。
摘んだ豆は労働者それぞれが腰に添えた、手編み等のかごに入れ、それを約50kgのコーヒー豆が入る麻袋に移し替え、勾配の激しい農園の中、数十メートル以上それを肩に担いで日が沈んで暗くなる前に農園の中心地区にある集荷場へ直接、或いは集荷場へ向かうトラックが拾ってくれる路上まで持って歩く。これは言うまでも無く重労働であり大変な作業だ。
集荷場では農園が夫々の労働者に対してその日に収穫した豆の対価を支払う為に麻袋に入った豆を計量する光景が見られる。農園の労働者は豆を量る列に並ぶのだが、豆は量だけではなく、未成熟豆や過成熟豆などが混合していないかと言った品質でも評価されるので、その周りで摘み取った豆を広げ選別もする。集荷場に集まった大衆の中には上述の摘み取り母さんの子供や犬までもが参加しているので、この光景は実に賑やかなものである。この様にして仕事に尽くした労働者の農園での収穫時期の一日は終わる。
この様に中米のコーヒーの摘み取り作業は風情のある状況の下で行われるのだが、グアテマラの地域によってはこれにプラスアルファとして、先住民族の方々が摘み取りを始めとする作業を行っている農園も多い。この事がどの様にしてコーヒーの摘み取り作業をより派手やかにするかは、日本で缶コーヒー飲料として愛飲されているサントリーのレインボーマウンテンの宣伝や広告をご覧になられた方は想像出来るだろう。毎日着る衣服を含め今でも伝統を守る先住民族女性の衣装は、色とりどりの華やかで実にユニークなものであり、彼女たちの存在がグアテマラの農園を美しく飾る、と言っても過言では無い。
コーヒー豆の摘み取り労働者の中には祖父母から代々行っている労働者もいるのだが、真っ赤になった豆を一つ一つ丁寧に摘み取る手からは、コーヒーに対する深い愛情を豆へ移入している事は言うまでも無く、これが中米のコーヒーを美味しくする秘訣であろう。次回は引き続き中米コーヒー農園の人々がもたらす魅力について綴る。