―― 虚の軼詩 禾喃編 No.2 ――



鼎(かなえ)は小高い丘から村を見下ろす。

「・・・」(迂闊なことはできない。ここなら村が一望できる)

小さな村には家が20ほどあり、中心にある一際大きなものは長老の家だ。

黒煙はほとんどの家から昇っており、弓を背負い剣を携えた兵士が30人ほど

徘徊している。

「・・・」(何だあれ・・・白い布に青い文字・・・迩矛芦(にむろ)だ嘘だろ・・・

    奴らが攻めてきたのか!?

鼎は動揺が隠せないようで、慌てて禾喃(かなん)の許(もと)へ戻る。

「禾喃、大変だ!!

「――危ない

禾喃の眼には、鼎の背後に迫るものが視えていた。

風を切る疾速の矢が、鼎の背に突き刺さる。

鼎は叫ぶこともせずそのまま地に伏し、禾喃は慌てて駆け寄る。

当たった矢は3本。

そこでようやく、茂みの中から3人の兵士が現れる。

残ったのが少女とだけあって、男たちは余裕の笑みさえ浮かべている。

「鼎・・・

鼎は口の端を血で汚しつつ、力強い目を禾喃へ向ける。

「何してる、早く行け俺はもう・・・ダメだ。あの森ならおまえが逃げ切れる。

だから早く・・・」

「いや・・・鼎を置いて行くなんて、私にはできない」

その瞳から溢れる涙を見て、鼎は表情を緩ませる。

禾喃のことをこれほど愛おしく思ったのは、2度目だった。

遠くから河原の石を踏む音がする。

奴らが近づいてくるのか。

鼎は一度咳をし、口の中に溜まっていた血を吐き出す。

そして耳を澄ますと、水が流れる音に雑じってキリキリと弓を引く音が聞こえた。

この子は何としても助けたい。

その強い思いが鼎に最後の力を与える。


――つづく。