―― 虚の軼詩 禾喃編 No.4 ――
ちっぽけな人の声が水神に届くとは思っていなかったが、
禾喃ならば助かると信じていた。
禾喃は実のところ、この村の生まれではない。
ある日のことだ。
長老の娘である瑞花(ずいか)が息子の鼎(かなえ)を連れ
水天川に水を汲みに行くと、何かが上流から流れてくる。
あれは・・・と思ったときだ。
激しい揺れが小舟を揺らし、中が覗ける。
それは白い布に包まれた嬰児。
瑞花は血相を変えて身を乗り出すが、その激流には入れず
歯噛みしていると、急に流れが穏やかになり小舟は岸に
吸い寄せられるように進んだ。
それは水神が起こした奇蹟以外何ものでもなく、瑞花は
その嬰児が神の遣いなのでは、とも思った。
そうして瑞花は、すぐにこのことを長老に知らせた。
すると長老は、その子を大切に育てるよう瑞花に命じた。
一段落ついたところで、瑞花はあることに気づく。
「これは・・・笛?」
小舟にはその子以外何も乗っていなかったが、その子を
包む白い布の中には見慣れない笛があった。
珊瑚でできた朱(あか)い笛が。
きっと大切な物だろうと瑞花はその笛を大事に保管し、
物事が理解でき始めた頃に禾喃(かなん)に託した。
”肌身離さず持っているように”と言って。
――つづく。