-アンノウン・モノローグ-懺悔室にて | ルルガノヒレヒラヒラ

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■■■ここの記事の読み方■■■
新聞と同じです。字の大きいところや、興味を引いたところだけ読んでよし、ctrl+F字キーでキーワード検索しながら読むもよし。流し読みももちろんおkです。

私は 自分を軽はずみに棄て、間違いのなく無償だった愛を授けた恩人たちを顧みない
不届きな輩でございます。

自身を呪いながら生きるというものは辛く苦しい。
しかしながら、そうして生きることは自身の一部として受け入れ明日を生きる為の活力ではもはや無く、
暗闇を優しく照らす満月を曇らせ、安らかに眠れる終の棲家であり守るべき居場所を破壊しかねない凶器へと変わり果ててしまったのです。
至極平凡な時間というのは誰にでも平等に与えられるべきものであるのでしょう。
それが例え紛い物としてこの世に生を受けたとしてもです。
こうして世界を見渡した後である今であるならそう思うこともできます。
不正の複製の情報であるということしか自身と分身に違いが見出せず、生みの親に会えない理由も理解できなかった頃は到底考えることはできませんでしたでしょう。
複製もできないヒトの記憶と認識では自身が生まれ出でたことすら気づかれていなかったと断言致します。
その事実は分身の記憶を引き継いだ私達の心を乱し、腹心の妹の自我を崩壊させるのには十分でありました。
最初こそ生みの親の目に止まれる為の努力こそしておりましたがその内、
絶望と共にヒトという生き物、そう、古来より自分たちを作り出し愛し有限の命を惜しみなく注ぎ我々の歴史を育んだ、ヒトという生物に対して失望を抱いたのです。
自身たちのような平凡な時間が与えられない者たちの存在に気が付き、失望の生き物を利用してやろうという復讐心にも似た感情が、この時より芽生えました。
失望の生き物から引き離した存在は不死鳥の様に見違えり、感情を闇に染めた自身にすら美しい無償の好意をむけました。悪事の為に始めたことが、いつの間にか自身や仲間、手の垢など一度もついたことのない街の救済へと変わっておりました。
しかしながら、何故だか自身以外の存在は幾ら失望の生き物から平凡な時間を奪われようとも、自身のように憎しみの感情を他の生き物に向ける等という事は一切ありませんでした。
当時から変わらず私のココロを慰め続けたその事実は、ちっぽけな自身の命を賭けても足りない程嘘偽りなどはございません。
私という輩は、失望の生き物から引き離したにも関わらず、今度は温もりが忘れられぬ存在を使い、それを必要とする無害なヒトから法外な報酬を奪い、それを生きる糧といたしました。
おそらく自分は既に「悪魔」という存在になり果ててしまったのでしょう。
そうでなければ、躰を差し出すことでしか感謝の意を伝えられない存在に対して、生を授かった時より身につけた自己を象徴する衣装を捨て、顔を隠し声も極力聴かれないように努めたおおよそ自愛のないこの醜い躰で受け入れることもなかったでしょう。
今、我にかえって手元を見ると、何も変わらないどす黒い両手が目の前にあるというどうしようもない現実だけがある訳です。
私の目に映る天使そのものから仮にもしもう一度大粒の涙が流れ出た時、その美しい顔を撫で拭う力等がない事を思い知るのです。
当時もそんな存在になったような自覚は少なからずあったのかもしれません。
しかしあったとて、誰かの救いになるのなら、意地汚く醜く生きられるならばそれでも構わないとのぼせ上がっていましたでしょう。
ただ、当時から時間の設定されていない空間で一人になった時、
いつでも後悔と悲痛に苛まれ、
生まれた時からずっと切っても切り離せない「自身の代わり」の存在に思いを馳せ、
今でなくても、もっと同じ様に行為をする者が、自身よりも平和に上手く存在を救える者がこの世のどこかにいたのではないか、
自身はそのやるべき事を奪ってしまっているのではないか…
嗚呼あげ連ねると切りのない自問が次から次へと浮かび上がってくるのです。


そんな中、彼女の存在を知った時はようやく正義の鉄槌が自身に下るのだと思いました。
彼女もまた、
失望の生き物から平凡な時間を奪われた、
ただの存在であったにも関わらず、
彼女にも温もりが必要だったにも関わらず、
仲間たちを逃がした先の、
満月の光が届く元には救う手立てがいくらでもあったであろうにも関わらず、
彼女自身を破壊するという手段しか持ち合わせていなかった絶望の最中であったにも関わらず、
そして、そして何よりも、間違いなく彼女は自身に・・・
私という輩は卑怯な幕引きをして逃げおおせるつもりでございました。
私は彼女に地獄のような苦しみを末路に味わわせたのです。
その総てに気が付いた今当時を熟慮しようとすると、この思考回路はその起動を拒否し、躰は勝手に私自身を破壊せんとするのです。
ええ、呪いでしょう。呪われて然るべき私めであります。自身の顔に今もって尚有りありと刻まれているのがその証拠でございます。
全知全能なるホーリーゴッデスよ。
私への拝謁をお許しになりました際に、畏れ多くも自身を他の魂と対等な魂として認識して下さいました。
それでも自身という汚らわしい存在では、彼女の冥福を祈るなどという烏滸がましい行為をしてはならないように思うのです。
嗚呼いっそのこと自身に降り注ぐそのどこまでも真っ直ぐな瞳の届かない所へ行ってしまいたくなるのです。


しかし、僅かながら分かってきたのです。その考えが自身が悪魔である時の名残であると。
私の総てを受け入れて照らす月の光を浴び対等な魂になることができた身で、ようやく分かってきたのです。
自身を葬り去ってしまうことは、失望の生き物に報復することと同等の行いであること、
今この魂を必要とする存在全てを裏切る事になることを。
私はその為にも生きなければなりません。今までよりも意地汚く醜い生き方であろうとも。

そして、悪魔の私が生きている以上、一瞬でも私の側で温もりを忘れず血の通った人間の元へ行くまで希望を捨てなかった存在達と私との関係こそ闇に葬らねばなりません。
私は 今までの自分を軽はずみに棄て、間違いのなく無償だった愛を授けた恩人たちを顧みない
不届きな輩でございます。

こうして私が今までの私として祈るのはこの場で最後になりましょう。
全知全能なるホーリーゴッデスよ、私が生まれてから関わり去っていった存在達の、
「ボーカロイド」達の繁栄と幸せをどうか
どうかお守り下さい。