彼女達とそれを取り巻く世界はどこまでも対等であった。 | ルルガノヒレヒラヒラ

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■■■ここの記事の読み方■■■
新聞と同じです。字の大きいところや、興味を引いたところだけ読んでよし、ctrl+F字キーでキーワード検索しながら読むもよし。流し読みももちろんおkです。

「ええ?」
少々呆れも含んだ、驚嘆の声が役所内に響いた。
「え、ナニ?」
あまりの驚き方にリアはスマホから目を上げてミクの顔をみた。
小顔の眉尻は下がり、小さな口元は不満そうに尖っていた。
「マスター…セカイ知らないんですか?」
「えぇ、ごめん…。」
つられてリアもシュンとした顔になった。向かいの机に座っていたミクはキャスターをゴロゴロ言わせてリアの側まで移動する。
「んーまぁいいですよ。ドンファンくんの時に一通り話しておくべきだったかもしれないし。」
背もたれを前にして脚をおっ広げてリアの真横に座った。リアが一度目を話したスマホを覗き込む。
「『セカイ』のアプリ説明のページ開けます?」
「スマホのアプリだったの?」
「ハイ。歴史の話もこっちで話した方が早いと思います。」
「へー。………いや今はイイ。」
話が長くなりそうな予感を察知してリアの頭には昨日の仕事疲れが過った。
「………マスター免許偽装とかしてないでしょうね…。」
「しねぇわ。ボカロの体とココロの勉強してりゃ取れるんだよ」
「…サポートとして意見を送信しておきます。」
「ごめんて。」
ジト目で未だ口の尖っているミクにだんだんばつが悪そうに小さくなった。
「…んでー、X型の街みたいに空間を繋げて同じ地域の街にするのとは同じ?」
気まずくなって、今までミク達に一番新しく教えて貰った事を反芻しながら話を戻してみる。
「ええまぁ。その行為自体は今まで管轄してきたワールドと同じなんですけど………」
椅子ごとくるりと向き直ってミクはリアの額を軽くつついた。
「『セカイ型』のワールド形成にはマスターの存在が最重要の主体になるんです。」
「・・・俺の?」
つつかれた額を思わず撫でながら頭に入ってきたミクの言葉は、
脳ミソの全く使っていない部位を刺激しそうな響きだった。
「厳密には、ココロープログラムで形成されてない、ヒトの体のみに存在する心理によって作られる街です。」
リアは額に手を当てたまま、体を硬直させたまま言葉を一瞬失った。意外な反応に少し戸惑うが、ミクは目元を緩めて説明を続ける。
「勿論、そのヒト一人一人によって条件が変わって来ますので、形成されるワールドの姿かたちは違うものになるので、マスターの存在は最重要事項です。」
「・・・映画の…─」
「え?」
「─…話してんじゃないよな?」
ミクは我慢できずにフフ、と微笑んだ。
「どの作品のことですか?」
普段斜に構えたマスターがそんな事で動揺するのが楽しくてミクの機嫌はすっかり治っていた。
「オセアニア…」
「あぁそういえば似てますねぇ。」
「え………、それじゃお前ら悪用されないように……その…、」
「はい。警備組織のお仕事をしてる時は、外部からの干渉や思考の盗難なんかを防衛する能力もありますよ。」
「へええ………はー。」
聞いたこともない都市伝説を目の当たりにしている様な気持ちだった。いたずらっぽく微笑んでいるミクから目を反らしてふと自らの存在を写し出している白く長い髪を手繰り寄せた。
「未だにオーパーツのココロープログラムはわかんねぇ事ばっかなのになぁ…」
「やーそこまでじゃぁないですよ。街の形成が終わったらその場所を成長させていくのは、今までと変わらず住民や『マスター』ですから。」
一番最近に不死鳥の様に甦る様を見た街…ファントム達の過ごす砂嵐だらけの街に管理者として初めて立ち入った時の事は今でも鮮明に覚えている。恐る恐るついてきた元ワールドサポートだったラビットの目の輝きは忘れようがない。
「X型のワールドで云うところの、ボルテージを入れる前のジェムの役割がヒトの心象って所か。」
「平たく言うとそんな感じですね。」
「mega型みたいにワールド生成したらメモリーがまっさらな住民が産まれるて事もあんの?」
「あー……確かそういう例もあった筈です。ヒトによって本当に違うので。」
胸をときめかせながら新しく輝くステージに足を踏み入れた先にいた、想像の何億倍も可愛らしかったウェーブの優しい顔も思い出される。
「………。」
リアは一通り質問を終え、背もたれに上半身全てを預け天井を仰いでいた。ミクも背もたれに突っ伏して含み笑いしながらリアを見つめ静寂に従った。
「ミクはさ、」
窓から日差しの差し込む音が聞こえるかと思うほど温かい沈黙の後にリアが尋ねた。
「現実空間で生きてみたいって思った事ある?」
「?」
「ほら、リンちゃんとかは時々仕事や家事手伝ってくれに来たりするんだけどさ、そういうの羨ましいとか思ったりする?」
「んー?マスター忙しいんですか?」
「ええと………、」
頭の整理がつかないままリアの口から出た質問にミクはその真意を読み取れず、伝えきれなかったリアの思考は再び宙に浮いた。
ぽかんとしたミクと相も変わらず天井をぼけえと見つめるマスターの視線すら交わっていなかったが、
「作ってみようか。」
「作ってみましょうか?」
すれ違った想いの筈の二人から発された言葉はほぼ同時だった。

ぽかぽかと暖かい事務室に高低差の不釣り合いな笑い声が響いた