え? もう4話なの? なんか、終わる気がしないんだけど…

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

「やられた!」
 俺は頭に手をやりぼりぼりと掻いた。
 目の前にひろがるのは閑静な住宅地。綺麗に舗装された道の両脇には延々と続く壁。
 どう考えても貴族の屋敷だ。
 俺は少女の服装を思い浮かべた。
 はっきり見たわけではないが、彼女が履いていた靴は覚えている。
 ボロボロのすりきれた革靴。
「貴族の令嬢ってのは絶対にあり得んな」
 はぁっと大きくため息をつく。
「とすると、まかれたな、こりゃ」
 まったくなんてガキだ。
 足の速さに関しては多少自信があった俺は、少し鼻白んだ気分であたりを見回した。
 行商人や商人が声を張り上げて商売をし、負けずと漁師や船員が大声で怒鳴り合う。
 そんな喧騒とここは無縁だった。
 時折大きな影が俺の頭上を横切り、かすかなつむじ風が巻き起こる以外はしんと静まり返っている。
 今しがたもいきなり辺りが暗くなったので上を見上げると、このアヴィオン半島の名物である竜が悠々と空を飛んでいた。
「さすがに、迫力あるなぁ」
 俺はせっかくだからと、どこかの貴族の家へと降り立つ竜を見物した。
 アヴィオン半島へ初めて来た日は驚いたが、今ではこの景色も日常茶飯事となっている。
 とはいえ、竜を持つことができるのは基本貴族だけらしいので、下町で眺める姿はかなり遠い。
 だが、貴族の家が立ち並ぶこの界隈では、竜はかなり近くを飛んでいた。
 たとえば竜上の人物の顔を確認できるぐらいに。
 先ほどの竜の上にいた人物もちらりと俺に視線を移したが、一般人である俺からすぐさま興味を失ったと見えて、すぐに視線を戻した。
 そんな一挙手一投足を見ることができるぐらい、ここでの竜は近い存在だった。
 俺は再度頭をかいた。
「帰るか」
 くるりと方向転換をした途端、見知った顔を見て目を見張った。
「ジョシュア!」
「アルヴァか!?」
 ジョシュアは俺の顔を見た瞬間、ちょっと気まずそうな顔をした。
 その顔で俺は少しピンときた。
「何や? この先の屋敷にでも用があるんか?」
「あ、ああ。まあな」
 ジョシュアはわずかに俺から視線を外して答える。
 それから俺へと視線を戻した奴はすでにいつものジョシュアに戻っていた。
「アルヴァは何をしているんだ?」
「ガキを追っていたんや」
「子供を?」
 目を丸くして聞いた後、ジョシュアはにっこりと笑った。
「レイチェルがかんかんになって怒っていたぞ。早く帰った方がいい」
「あん? なんでレイチェルがおこらなあかんのや」
「逃げたとか、腰ぬけとか言っていたが?」
「あ~」
 俺はまいったなと言うように視線をさまよわせた。その様子にジョシュアはくすくすと面白そうに笑った。
「あまり、女性を怒らせるな」
 そう言うと流行歌を口ずさみながら俺の脇を通り抜けて行った。
 そんなジョシュアを俺は目の端で追いながら、頭の中でレイチェルへの言い訳を考えた。
 だが、どんなに良い言い訳を思いついても、レイチェルにはかなわないことに思い至り、軽く肩をすくめると宿の方へ足を向けた。

 俺が宿に帰ると、レイチェルの姿は影も形もなく、ジャガイモの皮むきを手伝っているアンジェラとクラレンスがいるのみだった。
 カウンターでは宿の主人がグラスを磨いている。
 俺がコインを投げると主人は器用にそれを受け取り、エールをジョッキに注いでカウンターに置いた。
 そして、黙々とジャガイモの皮をむき続けている二人を眺めた。
「なんだい? しけた面をしてるね」
 そう声を掛けられて振り返ると、ジーンがいた。
 ジーンは俺の隣に座ると、主人に葡萄酒の水割りを頼んだ。
 ジーンの声に気付いたアンジェラが顔を上げて俺を見た。
「つかまった?」
「逃げられてもた」
「うん? なんだい? 泥棒でも入ったのかい?」
 俺とアンジェラの会話にジーンは不思議そうに聞いてきた。
「いや、ちょっとな」
 俺は首筋に手をやって、どう説明したものかなと悩んだ。どうにも説明しづらい。
「うちが洗濯物を取り込んでいるときにな、見知らぬ女の子がおったんや」
 悩んでいるうちにアンジェラが代わりに答えた。
「アルヴァはなんか知り合いみたいで、『今度はにがさへん』とか言って追いかけて行ったんや。そやな?」
「あ~、まぁ、そういうことやけど……」
 俺は困ったように天井を仰いだ。
「知り合いやないねん。知らん子やねん」
「え?」
 アンジェラは驚いたように俺を見ると、エプロンで手をふきふき俺のところへ来た。
「でも、なんか知り合いみたいに……」
「いや、全然知らん」
 俺はアンジェラの言葉をきっぱり否定してから、訳が分からないという顔をしているアンジェラとジーンを交互に見た。ちなみにクラレンスは我関せずとばかりに黙々とジャガイモを向いている。
「俺がな、踊りの練習していると決まって現れる子やねん。で、俺のまねをする。それが、俺よりうまいからちょっと気になっていてな」
「はぁん?」
 ジーンはなるほどと言うばかりに相槌を打った。
 それからしげしげと俺の顔を覗き込んだ。
「ピクシーに出会ったね」
「ピクシー!?」
 俺はぎょっとしてジーンの顔をまじまじと見つめた。
「ああ。その踊りを見れば、一生踊り続けなければいけないと言われている妖精のことさ」
「ウソやろ?」
「ウソじゃないさ。ただし、ときには踊りの天啓を与えてくれるとも言われるけどね」
 ジーンはそう言ってにやにやと俺を見た。
 俺はその顔をうろんじたように見つめた。
「ジーン?」
「なんだい?」
「俺をかつぐつもりやったら、そんな子供だましの話はやめてんか。信じるわけないやろ」
「ちょっとは信じただろ」
 ジャガイモをむきながらクラレンスがポソリと鋭いことを言う。俺が奴に鋭く眼光を飛ばすと、人の悪い笑みを浮かべて俺を見返す奴の瞳があった。
 まったく、相変わらず性質の悪い奴だ。
 「ちょっとは信じた」だと?
 違う。
 「信じた」んじゃない。
 ――そうであってくれたら――
 と期待してしまったんだ。
 俺は内心で舌打ちをしながら、ジーンを振り返った。
「ピクシー云々がジーンの作り話だか何だか知らへんけど、あれは間違いなく人間の女の子の足やで」
 俺の言葉に、ジーンはくつくつと笑った。
「私が言った意味は違うのだけどね」
 ジーンは「まぁいいさ」とつぶやくと、ワインを飲み干し席を立った。
「アルヴァ、あんた、今日の稽古はいいよ」
「え? それどういうことなん? ジーンさん」
 俺は自分の心臓がキュッと縮みあがったのを感じた。冷汗がどっと出る。
 とうとう俺の下手さ加減に諦められてしまったのだろうか。
 ジーンはそんな俺の額をぺチリと叩いた。
「あんた、まだ、踊りの方も完成させてないだろう? それに、あんただけじゃなくて他の子も練習しないといけないしね」
「つまり、あなたはそれだけ周りに迷惑をかけているってことなのよ!」
 ジーンの言葉にかぶさるようにレイチェルの言葉が食堂に響き渡った。
 その剣幕に、俺は思わず首をすくめた。
 レイチェルはつかつかと俺の横へやってくると、主人にワインを頼み、それを一気飲みした。
 それからじろりと俺を睨んだ。
「まぁ、逃げずに戻ってきたことだけは評価してあげるわ」
「いや、俺は、逃げたわけや……」
 俺が口を尖らせると、レイチェルは苛立たしげにカウンターを叩いた。
「女を追いかけるという段階で逃げているのでしょ! やる気があるならもっとまじめに練習しなさいよ!」
「女を追いかけるって……アンジェラ、どないな説明したんや!」
「え、うちは、あったことをそのままに……」
「追いかけたことに変わりはない」
 クラレンスがまたもや鋭い突っ込みをぼそりと言う。気分がいいなら奴の言葉にノリツッコミでもなんでもするが、あいにくそんな気分じゃない。
 ましてやレイチェルは烈火のごとく怒りまくっていた。
「女だろうが男だろうが、そういうことに気が取られているという段階でまじめじゃないと言っているのよ! ジョシュアも今夜は稽古に参加しないと言っているし、あんたたち、本当に、何考えているのよ!」
「あ、やっぱり、ジョシュアは稽古休むんか」
 俺の言葉にレイチェルは不機嫌そうな視線を俺に向けた。
「何? 彼に会ったの?」
「貴族の屋敷の前でな」
 俺の言葉にレイチェルの眉がピクリと動いた。彼女は急に押し黙って不機嫌そうに俺を睨み続けると、
「明日の稽古までにはちょっとは上手くなっていなさいよ」
 そう俺に告げて、自分の部屋へと上がって行った。
 何とかレイチェルの剣幕から逃れられたとため息をつく俺の顔を、何か言いたそうな顔でアンジェラが見つめていた。
「アルヴァ……」
 アンジェラが何かを言いかけた途端、ジャガイモの皮をむき終わったクラレンスがアンジェラの肩に手をかけてそれを止めた。
「自分で気づくべきだ」
 アンジェラはしばらくクラレンスの顔を見つめていたが、こくりとうなずくと何も言わずクラレンスからむき終わったジャガイモの桶を受け取り、台所へと出て行った。
 後には無口のクラレンスと俺の顔を心配そうにのぞきこんでいる宿の主人だけが残っていた。
「アルヴァ!」
 座長の鋭い声に俺は思わず首をすくめた。
「もう一度、最初からだ」
 静かな言葉に俺は出かかったため息を飲み込んだ。
 レイチェルを見ると、彼女はうんざりといわんばかりに肩をすくめた。
ひひひ。お前の美しい肌にはいぼがつき、お前の美しい声はしわがれ、お前の美しい顔は醜く変わる。ふふふふふ
「アルヴァ!」
 俺がセリフを言った途端にまたもや座長の怒声が飛んだ。
「何度言ったら分かるんだ。お前はスケベな富豪ではない。魔女だ」
 座長は俺のそばに近づくと俺の手からレイチェルの腕を取り上げた。
「レイチェルの美しさを妬んでいるんであって、スケベ心をおこしているのではない!」
「俺はそういう風にやってるって」
 何度もやり直しをさせられて、声も身体も、頭もくたくただった。
「お前のレイチェルへの視線をまねしてみようか? こうだ?」
 座長はレイチェルの手を持ち、レイチェルへと流し目をくれた。
「男が女をみる目だ。違うだろ? お前は女なんだ。レイチェルを抱いてどうする?」
「座長? 女が女をみる目ってどんなんだって言うんですか?」
 拗ねたように口を尖らせると、座長は俺をじろりとにらんだ後、レイチェルの腕をわしづかみにした。
ひひひひ。お前の美しい肌にはいぼがつく。お前の美しい声はしわがれる。ふふふふ。そしてお前の美しい顔は醜く変わるのだ。この私以上にな! ほーっほっほっほ!
 座長はレイチェルの瞳をハッタと睨みつけてそう言った。そして、これ以上にないぐらい愉快で楽しいと言わんばかりに高笑いをした。
 俺も含めて一座の者は全員、座長の迫力に気圧されたように立ちすくんだ。当のレイチェルは顔を青ざめさせ、座長に握られた腕をぶるぶると震わせていた。
「分かったか? アルヴァ」
 座長はパッとレイチェルの腕を放すと、俺を振り返った。
 そこにはいつもの柔和な座長の顔があった。
 俺はごくりと唾を飲み込むと、改めてレイチェルの腕を取った。
ひーひひひ。お前の美しい肌にはいぼがつくわ。お前の美しい声はしわがれるわ。ふーふふふ。そしてお前の美しい顔は醜く変わるのよ。この私以上にね! ほーほほほ!
「お前はおかまか!」
 パコーンと座長の靴が俺の頭に直撃したのだった。

 はあぁぁぁと大きなため息をつきながら、俺は洗濯物でいっぱいの中庭に座っていた。
 結局、舞台稽古は俺のシーンばかりとなっている。
 皆、着々と役作りが出来上がっているのに、俺だけ「魔女役」を演じこなせていなかった。
「ちくしょう! 第一、俺は男やで! 女相手にどうやって嫉妬しろ言うんや」
 男への嫉妬心で何とか演じれるかと思ったが、座長は「女特有の嫌みさとねちっこさがない」と言う。
 だったらと、市場へ出て中年女性を観察し、真似してみると「おかまか」と笑われる。
 座長いわく、「魔女は女だが女ではない。女の中に男を感じるから悪になれるのだ」だそうで、女性がやるより男性がやった方がはまるのだそうだ。
 とはいえ、まるっきり男を出すと「お前は女だろ。男じゃない」と怒られる。
「はぁぁぁぁ。ったく、どないせえっちゅうんや」
 俺は頭を抱え込み、わしゃわしゃとかきむしった。
「どないしたん? 落ち込んでるん?」
 そう声を掛けられて上を向くと、アンジェラが立っていた。俺は口を尖らせてそっぽを向いた。
「落ち込みたくもなるわ。俺だけやで、できてへんの」
「そうよ! あなただけよ! いい加減にして欲しいわ!」
 とたんにキンキンとした甲高い声が頭上に降ってきた。振り向くとレイチェルが俺の前で仁王立ちしていた。
「あなたヤル気あるの? 当日まであと少しもないのよ? いい加減できてもらわないと、他が前に進めないじゃないの」
「やから俺だってがんばっているやん!」
 レイチェルの言葉にカチンときて、俺は立ち上がり彼女を睨みつけた。
「そう? その割には、こんなところで落ち込む暇はあるみたいだけど?」
「あのな!」
 俺はレイチェルにズイッと顔を近づけた。
「あんたはお偉い女優様かしれへんけど、俺はあいにくまだ下っ端でしてね」
「まったく、その通りよね」
 レイチェルは俺の言葉をフンと鼻で笑った。そして形の良い眉をくいっと上げ、俺の足の先から頭のてっぺんまでじっくりと眺めた。
「もっとも本人は『悪人役は俺の本職だ』ってうぬぼれていたみたいだけど? 笑っちゃうわよねぇ。ねぇ、アンジェラ」
 レイチェルに話を振られたアンジェラは困ったように俺とレイチェルを見比べた。
「アルヴァも頑張っている方やと思うんやけど」
 おずおずそう彼女に言うと、レイチェルは「おーほっほっほ」と高笑いをした。
「頑張っている、じゃダメなのよ。頑張っているじゃね。そうでしょ、アルヴァ君? プロなら、やらなくちゃ」
 俺はじとーとレイチェルを見た。
「レイチェル、お前が魔女やれば? さっきのセリフなんてはまっていたで」
 レイチェルはにんまりと人の悪そうな笑みを俺に向けるた。
「じゃあ、アルヴァ君がお姫様やる? 絶対、無理だろうけど」
 そう言ってまた高笑いをした。
 それからじろりと俺を睨みつけた。
「冗談抜きでやりなさいよ。この公演、あんたのせいでこけるわけにはいかないのよ」
 殺気を含ませてそう言うと、さっそうと去って行った。
 アンジェラはそんなレイチェルの後姿を見送ると、俺をなぐさめるように肩をすくめた。
「アルヴァはできるって。今までだってそうやったやないの。ね」
 それから中庭の洗濯物を取り込み始めた。
 俺はそんなアンジェラの後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
「俺、レイチェルへの憎しみやったらできる気がするんやけどな」
「ん?」
 ぽつりと言った俺の言葉にアンジェラが軽くうなずく。
「だって、さっきのレイチェル見たか? あいつのあの顔思いだしたら、殺したろかってマジ思えるで」
「ふふふ」
 俺の言葉にアンジェラは小さく笑った。そして俺の方を見て小さくウィンクして見せた。
「だったら、レイチェルの憎まれ役も無駄や無かったんやね」
「ストップ! ストップ!」
 アンジェラの言葉を俺は両手を大きく振ってふさいだ。
「それ聞いてもたら、レイチェル憎むのできひんやん。うっかりあいつに惚れたらどないしてくれるねん?」
「あ、そっか」
 アンジェラはぺろりと舌を出した。
「ごめんね。でも、これでできそうだね」
 にっこりとほほ笑みながら言うアンジェラの言葉に返事もしないで、俺はぶつぶつとセリフをもう一度さらいなおしてみた。
 アンジェラもそんな俺に背を向けて洗濯物を取り込む。
 俺はこっそりアンジェラの背中を盗み見た。
 まったく、俺としたことが、かなり落ち込んでいるらしい。
 できるだけ姉には心配させないでおこうと思うのだが、姉の千里眼はいつだって見とおしてしまうのだ。
「あら」
 そんなアンジェラが小さく叫んだのは、それからすぐのことだった。
「どないしたん?」
 俺は振りかえってアンジェラを見た。
「ううん。何でもない。さっき赤毛の女の子がそこにいただけ」
「赤毛!?」
 俺は慌ててアンジェラのそばに立った。
「どこ行ったんや!」
「すごい速さであっちへ行ったけど……」
 俺はアンジェラの指した方を見た。アンジェラの指先には裏口が閉まっていることに気付き、大慌てで表門へと走る赤い髪の少女の影があった。
「今度はにがさへんで!」
 俺は両手に唾を吐きかけると、一目散に少女の後を追った。
 とりあえず、俺たちの一座を紹介しておこうと思う。
 俺たちハモンド一座がこのイスファルド王国へと来たのはほんの一ヵ月前だ。
 イスファルド王国は海の貿易で儲けている国だから、俺たち旅芸人の需要があることを期待しての訪問だった。
 一座の座長はバリー・ハモンド。その昔、ある国の貴族のお抱え吟遊詩人だったといわれるだけあって、かなりの年ではあるがいまだに美声は健在だ。
 ジーン・ハモンドはバリーの妻だ。昔は名うての踊り子で、異国の怪しい踊りに多くの男性を虜にしたと本人は主張しているが、俺は一度もその踊りを拝んでいない。だが、彼女の演技は抜群であらゆる脇役をこなしている。
 レイチェルは一座の看板女優だ。美人なうえに、歌って良し、踊って良し、演技して良しの才能あふれる女優だけに、彼女の悩みは大舞台で喝さいを浴びる機会が巡ってこないことだ。彼女はいつもそのことを愚痴っている。
 ジョシュアはそんなレイチェルの恋人役をやっている美男子だ。顔がいいので下は酒場の娼婦から上は貴族のご婦人がたまでどんな女性にももてる。そういうこともあって、貴族の屋敷へ呼ばれる仕事はたいていジョシュアが取ってくる。そのたびにレイチェルは張り切っているが、貴族のご婦人がほしいのはジョシュアであってレイチェルではないので、まぁ、なんというか……後は想像できると思う。
 アンジェラはレイチェル以外の若い女性で俺の姉だ。彼女の操るマリオネットは神業のようにうまく、まるで魂が吹き込まれているようだ。だが、ガキの頃からいろいろと世話になっている姉だから、悪くは言いたくないが、演技の方はおそらく俺の方がうまい。
 クラレンスは軽業師として一座に参加したから、演技はまったくできない。一座で何か芝居をするときは必ず裏方役だ。
 そしてこの俺は、アルバ。姉のマリオネットの技と座長の美声にほれ込んでこの一座の仲間入りをした。
 志望としては踊れる役者というところか。
 といってもジョシュアがするような「王子様」役には興味がない。どっちかというと「悪役」こそが俺の本職だと思っている。顔をこれでもかというほど悪い顔にメイクして、槍を振りまわして勇壮な踊りを踊る。子供が泣き出すほどの悪い奴。それが俺の得意技だ。
 その俺が、その俺が…よりにもよって魔女の役なんて……
 いや、悪い魔女だから「悪役」希望としては希望通りなのだが……

「アルバ、あんたは最終的に踊りたいんだろ。だったら女舞でもいいからプロに習っとくとためになるんだよ」
 次の日座長に魔女の役をやると告げた俺にジーンが慰め顔でそう諭した。
 ジーンの言う通り、俺は最終的にダンサーを目指している。
 だが、ハモンド一座で踊れる人間はレイチェルとジーンだけだ。俺の踊りは訪れた街ごとに自己流で習い覚えたものだ。基本をいつかしっかり習わないと、とは思っていたのだが……。
「そやけど、ジーンさん。俺が魔女やっても笑われるだけやと思うんやけどなぁ」
 まだ未練がましく口を尖らせる俺にジーンはあっさりと言い放った。
「別にいいじゃないか。主役はレイチェルなんだから」
 まったくもって、おっしゃるとおりである。
 俺はしぶしぶジーンから踊りを教わることにした。

「ほら、しっかり腰を入れないかい。男だろ。玉は付いていないのかい」
「いや、ジーンさん。玉は付いてるけど、だからこそそんなに腰は振れへんて。第一この腰、何のために振るんや。王子を誘惑するん?」
「当たり前やないか。王子誘惑しないで誰を誘惑するつもりだい? レイチェルか?」
「俺としてはレイチェル誘惑する方が楽なんやけどなぁ。ていうか俺の役は魔女やろ。そんな腰振らんでもええんとちゃう?」
「魔女は自分では誘惑しているつもりなんだよ。ほら、しっかり振る」
「いや、もう無理。腰ガクガクで……」
「まったく情けないねぇ。若いんじゃないのかい。毎日鍛えているっていうのは嘘かい」
「鍛えているけど、そういう鍛え方はしてへんって」

 ジーンの教え方は半端でなく厳しく、ちょっと基礎を教えるというレベルではなかった。
 それは本気で俺を後継者にするつもりじゃないかというぐらいの徹底ぶりだった。
 とはいえ、1週間もやっているとそれなりにコツを覚え始める。となるとそれなりに面白くなってくるのが踊り手の定めか。
 俺はジーンがいないときも足で拍子を取りながらジーン仕込みの踊りを練習するようになっていた。
 その日もジーンはアンジェラと一緒に衣装を買いに出かけていた。
 俺は宿屋の中庭でシーツを腰に巻いて、女っぽく腰を振りながら踊りの練習に没頭していた。
 中庭は宿の洗濯物が所狭しと干してあり、隠れて練習するにはちょうど良かった。
「くすくす」
 とそよ風が耳をくすぐるようなひそかな笑い声が聞こえてきた。
 俺は手を止めて辺りを見回した。
 心地よい風の中洗濯物がバタバタと翻っている。
 宿の奥の方では女中たちの笑い声と話し声が聞こえるが、中庭にはひとけがなくシンとしていた。
 俺は首をかしげ、もう一度踊りだした。
「ふふふ」
 とたんに先ほどと同じ「笑い声」が俺の肩越しに聞こえた。
 くるりと振り返ってみたが、誰もいない。
 俺はためしに洗濯物の一つをめくってみたが、同じような洗濯物が翻っているばかりで誰の気配もなかった。
 俺は、もう一度踊ってみた。
 足で拍子を取り、メロディを口ずさみながら。
 そしてそうっとあたりを見回してみた。
 白いシーツの下。
 小さな革靴を履いた二本の足がちらりと見える。
 足は俺が踊っている振りとまったく同じステップを踏みながら、ひるがえるシーツの下、ちらりちらりと見えていた。
 俺が踊りをやめると、その足はするりと別のシーツの陰へと隠れてしまう。
 そして踊り始めるとどこからか現れて、俺のまねをするのだ。
 ときどき、例のクスクス笑いをもらしながら。
 俺は少し感心しながらその足を見つめた。
 足はしっかりと俺が踏むステップを踏んでいる。
 いや、むしろ俺よりうまいかもしれない。
 ――どこのガキや?
 俺はそうっとシーツに近づき、思いっきりそれをめくった。
 驚いたように二本の脚、もとい、少女は飛び上がると、あっという間にシーツの波をくぐりぬけてどこかへと消えてしまった。
 真っ赤な髪を秋の日差しに残しながら。
まだ未完成ですが、ちょっとさわりだけ。
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

「お前、女になれ」
 そう言った奴を俺は殴るべきか笑うべきか

「ジョークは寝て言えや」
 俺は奴の言葉を鼻で笑い、酒をのどに流し込んだ。
 とはいえ、奴がジョークで言っていないことを俺は重々承知していた。
 だが、美しい紫の髪を背中まで伸ばし、同じく美しい切れ長の瞳をもち、女よりも美しい顔立ちをしている奴に「女になれ」と言われる筋合いはなかった。
「ジョークではない。次の公演、お前に女をやってほしいんだ」
 その女より女らしい男、ジョシュアは案の定大真面目な顔で俺に言った。
 俺はわざとらしく彼の姿を足の先から頭のてっぺんまで眺めた。
 ほっそりとした白い腕を上品に机に置き、すらりとした足を優雅に組んで椅子に座る風景には気品すら感じられ、どこぞの貴公子かと思わせられる。現に今も酒場の女中がちらりちらりと彼に流し眼をくれていた。いやそれだけではない。酒で顔を真っ赤にした男まで、酔ってとろりとした目をジョシュアに向けていた。
 俺は両手をあげて自分の姿を眺めた。
 酒の入ったカップを持つ手は無骨だし、毎日の鍛錬のせいで腕も足も筋肉が盛り上がり、嘘でも「女」と言える要素はなかった。
 俺は肩をすくめた。
「本気やったらなお悪いな」
 俺は顔をそむけた。
「アルバ」
 そんな俺の肩をジョシュアは怒ったようにつかんだ。
「次の演目で、どうしても女が一人足らないんだ。お前しかいないんだよ」
「いつものようにジーンが二役やればええやろ」
 ジーンは俺たちの一座の座長の妻だ。役者としての才能は最高で、少女から老婆まで、いや時には男にも猫にも木にもなれる女性だ。
「ジーンは今回出ずっぱりの重要な役だ」
「アンジェラ」
「レイチェルの母親役と俺の婚約者役」
「座長」
「レイチェルの父親役と俺の家臣役」
「クラレンス」
「おい、アルバ」
 ジョシュアの顔が本気で怒ったようにしかめられた。
「あいつに演技ができるのか? 俺たちに首をくくれと言っているのか?」
「体格的には俺と変わらんやろ!」
 俺の言葉にジョシュアは大きくため息をついた。
「あのな、アルバ。お前の役は今回、かなり重要な役だ」
 ジョシュアは『かなり』の部分を強調する。
「レイチェルに魔法をかける意地悪な魔女役だ。こんな役をできるのはお前しかいないんだ」
「じゃあ、魔女やなくて魔法使いでもええやろ」
「それはだめだ」
「なんでやねん!」
 俺の提案をにべもなく却下したジョシュアに、さすがに俺も腹が立ってきた。
「魔女はレイチェルの美しさを嫉妬して魔法をかけるからだ。お前がいつもやっている『横恋慕』じゃないんだよ、今回は」
「あのナ、俺がどうやってレイチェルの美しさに嫉妬できるんや。それやったら、やっぱりアンジェラがやればええやろ」
 俺の言葉にジョシュアは白けた瞳を見せた。
「……お前、俺の婚約者役やるか?」
 俺は飲みかけた酒をふきだした。
「はぁ? なんでそうなるんや」
「アンジェラが魔女役やったら、誰が俺の婚約者役やるんだよ」
「いや、だからそれはコウ、脚本を変えて、初めからいないとかなんとか……」
「アルバ、いい加減にしろよ」
 ジョシュアの紫色の瞳がすっと細められたことに気付き、俺は大きくため息をついた。
「誰だよ、いったい。そんな脚本を書いたのは」
「座長」
「なんだってまた……」
 何かを飲み下すかのように杯に残った酒を飲み干すと、ジョシュアがすかさず注ぎ足した。
「ある貴族の結婚式の出しものとしてよばれたんだ。だからできるだけめでたい奴を…というわけさ」
「女が男の婚約者を振るのはご法度というわけやな。しかし貴族にお呼ばれかぁ。レイチェルが張り切っているやろな」
 レイチェルは俺たち一座の看板女優だ。彼女はいつか大舞台の女優になることを夢見ている。
「そういうことだ。だからせいぜい彼女に花を持たせてやってほしいんだ」
 ジョシュアは俺に酒を注ぎながら頼み込むように俺の顔を見つめた。
 俺はもう一度ため息をついた。
「ジョシュア、やったらなおさら俺じゃまずいんとちゃうか?」
 もう一度念を押す。俺はどう考えても、「女」になるにはふさわしくない体格だ。
 顔だってかなりごついし、剃った跡がほとんど分からないほど白いジョシュアの顔と違い、剃ったら青黒く残るほど髭も濃い。
 どう考えても俺が舞台に立った瞬間、爆笑の渦となりそうだ。
 だが、ジョシュアは女なら誰もがうらやみそうなほど美しい指で俺のごつい手を握って言った。
「お前しかいないんだよ。アルバ」
暇なので、ちょっとお遊び的に…

私立イスファルド学園

理事長=フロルヴァーナ
地理・世界史教師=公爵
生物・物理教師=リリア
事務員=エミリィ
食堂のおじさん=親方

3-4組担当&英語教師=ベアトリス

陸上部=一也
天文部=真里亜
帰宅部=圭
剣道部=エルマー

こんな感じで…
竜はなぜかブレンダ達が見える「霊体」みたいなもので…

予告編
 ブレンダ達はある私立高校に通う普通の女子高生。
 だけど、なぜか「竜」が見える。
 同じように「竜」が見えるシェーンやシンシア、「竜」に取り憑かれているアルノーやエルマーと悪竜退治や悪オーク退治、そして学園に巣くう陰謀の解決に乗り出す!!
 ・・・・・・って、まんまPoDじゃないか!!
 いや、普通に学園生活をおくり、ちょっと事件があるような無いような…ていう感じなんですよ…

 第1話 「優勝はもらったぜ! 球技大会に潜む悪」 

 乞うご期待!


何かご意見があればお願いしますm(u_u)m