ブログの検索ワードを見ていると、この題名はちょっとまずいかなと思ってしまいます。
真面目な理由で検索かけてしまった人には、申し訳ありません。
一応、かの有名な仮面劇をモチーフにしていますが、私自身仮面劇に詳しくないので全く関係ないものと思ってください。
何の事だかわからない人はウィキペディアを見てみてくださいね。
まぁ、ちょっと解説すると、近世ヨーロッパではやった仮面即興劇のことです。
ストーリーは基本毎回同じ。出てくる登場人物の名前も一緒。
というまるで水戸黄門か暴れん坊将軍かというような劇ですが、中世~近世にかけてヨーロッパで爆発的な人気があったそうです。
登場人物は類型化された性格をしていて、この性格を元に類型化された物語を即興で演じていくという劇なのだそうです。
主な登場人物は
アルレッキーノ:軽業師にして道化師にしてペテン師。物語をかき回し悪役たちを懲らしめる。
コロンビーナ:肉体的魅力にあふれたアルレッキーノの恋人。
インナモラーティ(男:インナモラート、女:インナモラータ):恋をする若者達。
で、これらの登場人物を苦しめる悪役として、
パンタローネ:金持ちで、欲深で、色欲旺盛な老商人。
がいます。
他にもインナモラータのお父さん役とかアルレッキーノの相棒とかいます。
この辺のことをちょっと勉強するとシェイクスピアやオペラの喜劇がかなり面白くなります。

で、実はアルヴァが所属している一座はこの「仮面即興劇」を参考にして作っているのです。
だからこの題名にしたのですが……非常にまずいですね。
何か良い題名を思いついたら変えておきます。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

さて、以前ブレンダのプラリアに登場させたアルヴァですが、時間を経るごとにどんどんその存在が大きくなって、最近では勝手に旅をする始末です。
(旅して、一座から別れて、ある女性と出会って、とガンガンにストーリーが進んでいます)
で、この際だから、彼が主人公でブレンダと出会う話を書こうと思って書き始めたのがこの話なのですが。
あ~、うん、なんだね……
ぶっちゃけ、こんなに長くなると思わんかった! 
(バレンタイン狂想曲の方が文章量は多いのですけどね)
ブレンダと出会う→下町の子だと思う→実は貴族の私生児だった
という非常に簡単なストーリーしか用意していなかったんですよ。
なのに途中でアルヴァが悩み始めて、「俺は旅芸人として才能があるのだろうか?」と私に言い始めやがるんですよ。
知るか! 私が知りたいよ! 
と奴の尻を蹴飛ばしながら書いていました。
いや、マジ、ホント(´_`。)

この話、「Pantalone編」と付いていますが、別にまだ続くわけではなく、またこの一座の話を書くことがあれば、その時はシリーズ化しようと思ってつけたものです。
一応、このブログでは主人公はブレンダなので、アルヴァ達の話は番外編ということでお願いします。
そんなわけで、ブレンダがまるで踊りの天才のように扱われていますが、
あくまでアルヴァ視点で見たブレンダです。
他の視点で見ればブレンダにも欠点はありますし、別に踊りの天才というわけでもありません。
その辺のところがいつか書ければいいのですが、今のところストーリーが思い浮かびません。
まぁ、実はちまちまと伏線をばらまいているのですが……
回収できるといいですね(遠い目)  Σ\( ̄ー ̄;)おい!

てな感じで、ぼちぼちと書いていきますが、何か「こういう話が読みたい」というものがあれば言って下されば適当にねつ造しながら書きますよ。
と言いますか、そろそろ私もネタ切れなので、誰かネタをプリーズo(_ _*)o

ブレンダのこれってどうなっているの? とか、
○○(Ciaのオリジナルキャラクター(例:アルヴァ))の話が読みたい とか、
第3教導中隊で○○ネタを
○○パロをやって

など、何でもいいです。リクエストお願いします。

それではみなさん、またご縁がありました時に。
エピローグ

「私生児って……お前、こんなところうろついていていいんか?」
 俺の問いにブレンダは楽しそうな笑みを見せながら答えた。俺が彼女の言葉にうろたえているのが心底面白いらしい。
「うん。お父さんも兄上たちも兄上のお母さんたちもみんな承知しているよ」
「承知しているって……」
 俺は少女をまじまじと見つめた。
「お前、運良かったんやな」
 ブレンダはにっこりと嬉しそうに笑った。
「うん。自分でもそう思う」
 それから今度は彼女が俺をまじまじと見つめた。
「ねぇ、アルヴァ。アルヴァはいっつもあんな踊りを踊っているの?」
「あんな踊り?」
 俺の疑問にブレンダは身をくねらせて答えた。ジーンに習った魔女の舞だ。
「ちっ! ちゃうちゃう!」
 俺はむせかえりながら慌てて否定した。
「あれは劇用の踊りや。ほんまの俺はもっとかっこええ踊りをしてるで」
 ブレンダはわずかに眉をひそめて俺の顔を見た。
「かっこええ?」
「そや」
 俺はすっくと立ち上がると、わずかに彼女から距離を取った。
 ひとつ大きく息をしたその息がおさまるかおさまらないかの瞬間、俺はダンと足を踏み出す。手は力強く前に突き出し、あごは力を溜めるように引く。
 ダンと俺はさらに足を踏み出した。手はさらに強く突き出し、あごはさらに引く。ダン、ダンと足を踏み鳴らすたびに俺は少女の方へとにじり寄った。そして十分彼女に近づいたところで、俺は後ろへ引いていたもう一方の足を前へと蹴あげた。
 ダンと足を踏み鳴らすと同時に、同じように引いていたあごをブレンダの目の前へと突き出す。目はぎょろりと飛び出さんばかりに少女を睨みつけた。
 ブレンダはぽかんと口を開けたまま俺を見つめていた。
「どや?」
 俺が体勢を直しても彼女の口は開いたままだった。やがて我に返ったように盛大に拍手をした。
「すごい、すごい、すご~い!!」
 ブレンダはぴょこんと飛び上がるように立ち上がると、俺の周りをぐるぐると回った。
「魔女の舞もすごく格好良かったけど、これもものすごく格好いいね!」
 それから俺の目の前に立つとスミレ色の瞳をキラキラ輝かせて俺を見上げた。
「すごいな~アルヴァは。私もアルヴァみたいに踊りたいな~」
 ブレンダの純粋な尊敬のまなざしに俺は胃の腑がこそばくなり、顔をそむけた。
「俺よりレイチェルの方が上手いやろ」
「レイチェル?」
 ブレンダは小首をかしげた。
「あのお姫様をした?」
 それから彼女はスミレ色の瞳をくるりと回した。
「うん。あの人も上手だったなぁ~」
 しばし陶然とため息をついてから彼女はその瞳をまたくるりと俺に向けた。
「でも、私はアルヴァの踊りの方が好き! だってすごく格好良かったもの」
「俺の踊りがかっこええ?」
「うん」
「魔女やで?」
「その魔女が格好良かった」
「男やのに女の格好してんやで」
「違うよ。魔女は男でも女でもないのよ。だって魔女なんだから」
 俺の頭の中で突然何かが弾けた。
「魔女は男でも女でもないんか?」
「うん。アンソニー兄さまが言ってた。魔女は悪だから男でも女でもない。ただ女の格好をしているだけだって」
 俺はブレンダをしげしげと見た。
「俺の魔女はかっこ良かったんか?」
「うん。すっごく」
 こくりとうなずいたブレンダの頭をわしわしと俺は撫でた。
「もっとかっこいい俺を見たくないか?」
「うん。見たい!」
「よし。やったら、明日俺が泊っている宿屋へ来い。もっともっとかっこいい俺を見せたるさかい」
「本当!」
 ブレンダはぴょんと飛び上がるとくるくると踊りだした。それはまさしく、ジーンの言う伝説のピクシーそのものだった。
 まったく、ジーンの言った言葉は言い得て妙だった。
 ――ときには踊りの天啓を与えてくれるとも言われるけどね――
 天啓。
 彼女の言葉はまさにそれだった。
 「悪」とは男でも女でもない。
 もっと純粋でもっと普遍的な存在。
 何かの型にはまっているようで何にもはまっていない。
 誰もが持っているようで誰も持っていない。
 「悪」は性別を超え、年齢を超え、民族を超える。
 もっとも自由で、もっとも混沌としていて、もっとも無垢な。
 人が持つ根源的な「悪」
 そもそも俺はそんな「悪役」を目指していたのではなかったか。
 ぴょんぴょんと飛び跳ねていたブレンダの身体が止まり、広間の窓を覗き込むように顔が向けられた。煌びやかな明かりを放つ窓からは楽しそうなダンス曲が流れている。
「入らへんのか?」
 広間の中を指さすと、ブレンダの首は小さく横に振られた。
「私生児はね、遠慮しないといけないの」
 窓の向こうを少しさびしそうに見つめるブレンダの頭に俺はつぶやいた。
「ま、俺らも同じようなもんか」
「え?」
 振り返った彼女の前に手を差し出す。
「じゃ、俺らは俺らの踊りを踊らんか?」
 少女はニコリと笑って俺の手を取った。
「もちろん!」

「あ~ちくしょう~」
 翌日俺は全身にひろがる筋肉痛と戦いながらベッドに横たわっていた。
 ブレンダは日が昇るまで俺を放さず、あれを踊れこれを踊れと次から次へと踊りに俺を誘っていった。
 そしてその誘いに調子に乗って踊ったざまが今の俺だった。
「おやおや、情けないね~」
 部屋に入ってきたジーンはそんな俺を見て、にやにや笑いながら窓を開ける。空は高くまぶしいぐらいの秋の日が俺の目を刺した。
 俺はうめきながら顔を枕へと押し付けた後、部屋を出て行こうとするジーンの名を呼んだ。
「ジーン」
「なんだい」
「ピクシーに会ったぜ」
「そうかい」
 ジーンはそううなずくとくくくとのどの奥で笑った。
「ピクシーは一生お前から離れないよ」
「望むところや」
「そうかい?」
 ジーンの返事が笑いをかみ殺したものだったことに違和感を感じて俺はそろりと枕から頭を上げた。
 とたんに視界いっぱいに赤いものが広がった。
「アルヴァ! 約束したよね! 見せてくれるんでしょ、アルヴァの踊り!」
 スミレ色の瞳を目いっぱい輝かせて俺を覗き込むブレンダの顔に俺は再度うめいた。
 なるほど。これは呪いだ。

 ――最高の呪いだ。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

ふ~、何とか終わりました。
あとは誤字・脱字を直したら、恒例(?)の言い訳を始めたいと思います。
ふ~、やっと最終話。
途中で煮詰まって筆が止まってしまった時は完成しないかと思いました。
あとはエピローグだけです。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

 欠けたところがひとつもない月を俺は黙って見上げていた。
 結局何の気持ちの整理もつかないまま、俺は本番を迎えてしまった。
 集合場所である貴族の館前へ俺が現れた時、ジョシュアは軽く驚いた表情を見せた。
「逃げなかったのか」
 呟くように言った彼の言葉を俺は意外な面持ちで聞いていた。
 逃げるという選択肢は最初からなかった。
 ただ、どうやって自分の運命と立ち向かうのか、それが分からなかった。
 幼いころから一流の教育を受けている人間と、基礎がない自分。
 そんな自分に何かしらの才能があるのだろうか。
 客を沸かせる力があるのだろうか。
 それを見出すことができなかった。
 衣装を着け、化粧をほどこし、一瞬しんとなる頃合いを見計らって座長が朗々と語りだすと、もはや俺には逃げ場所がなかった。
 ジーンが出て、アンジェラが出てお芝居は淡々と前へ進んでいく。
 レイチェルが歌う。
 俺をうらやましがらせたあの歌声だ。
 うらやましがらせた?
 いや、違う。
 俺の頭の隅で赤い光が瞬く。
 うらやましかったのではない。そうではない。
 俺は舞台へと躍り出た。
 妬ましかった。悔しかった。
 彼女が持つ生い立ちに。
 彼女が持つ環境に。
 彼女が持つ才能に。
 俺だって踊りたい。
 誰よりもうまく。
 誰よりも感動させて。
 なのになぜそれが俺にはなくて、彼女にはあるんだ。
 奪えるなら奪いたい。
 彼女のこの白いのどから歌声を。
 彼女のこの白いからだからステップを。
 彼女の才能のすべてを奪い去りたい。
「ヒヒヒヒヒ。お前の美しい肌にはいぼがつく。お前の美しい声はしわがれる。そしてお前の美しい顔は醜く変わるのだ。この私以上にな! ハーハハハ、ハーハッハッハ!」

「はぁ」
 俺は大きなため息をついてバルコニーから貴族の邸の庭を眺めた。
 劇は拍手喝さい。大変な好評で幕が下りた。
 だが、俺は真っ白に燃え尽きており、何が何だかいまだにさっぱり分からなかった。
 ジーンも座長も、あのレイチェルさえ俺の演技が素晴らしかったとほめた。クラレンスは黙って肩を叩き、アンジェラは泣きじゃくっていた。ジョシュアは驚いたように俺を見つめ、少し悔しそうに「お前は負け犬じゃない」と言った。
 ただ、肝心の本人は自分が何をしたのか理解できていなかった。
「うん?」
 俺は庭の陰で何か赤いものが動いたのを見つけて、信じられない気持で目を凝らした。
「まさか」
 そんなはずはない。
 彼女はただの人間であることをこの目で確認したはずだ。
 下町に住むごくありふれた少女であることを。
 確かに才能には人並み外れたものがあるが、その存在は俺と同じ人間であるはずだ。
 だからこそ俺は衝撃を受け、だからこそ俺は嫉妬したのだ。
 だが、そんな俺の思いをあざ笑うかのように見覚えのあるポニーテールが月光の中で跳ね上がった。
「あんの、ガキ!」
 俺はなぜか無性に腹が立って、ひょいとバルコニーを飛び降りると一目散に少女のいた木陰へと駆けた。そして今しがた木陰から顔を出した少女に飛びかかる。「ひゃぁ!」という少女の驚いた悲鳴そのまま俺は少女を取り押さえた。
「言え! お前は何者や! いったいどこの人間なんや!」
 少女はまん丸にした瞳でしばらく俺を見つめた後、「あ」と小さく叫んだ。
「アルヴァ!?」
 少女の言葉に俺は目を細めた。そんな俺の表情に少女はしまったというように顔をしかめた。
「そうや。で、お前は何でそれを知っているんや?」
 少女は気まずそうに顔をしかめた後、「ごめんなさい」と小さく謝った。
「盗み見するつもりはなかったの。ただ兄上の婚約パーティで旅芸人呼ぶって聞いたから、どんな人かなぁって思って」
 少女はそう言ってもう一度「ごめんなさい」と謝った。
 だが俺は少女が言ったある言葉に気を取られて、少女の謝罪の言葉を聞いてなかった。
「兄上? 婚約?」
 俺はマジマジと少女を見つめた。
 赤い髪に気を取られていたが、少女は仕立てのいい服を着ていた。靴も下町の子どもが履くような靴ではなく、腕のいい職人がなめした革の上品な靴を履いている。ポニーテールはいつもの通りだったが、それを結っているリボンも高価そうな布でできていた。
「お前、もしかしてルイス・ガルシアの妹なんか?」
「うん」
 少女はこくりとうなずく。
「ということはガルシア伯爵のご令嬢!?」
 俺は慌てて少女の身体から手を放した。これからうちの一座のスポンサーになる予定の家の子どもを取り押さえていたなんて。俺は全身から冷汗がどっと出てくるのを感じた。
 だが、少女はわずかに複雑そうな表情を見せた。
「う~ん。ガルシア伯爵は私のお父さんだけど、私は伯爵令嬢じゃないんだ」
「え?」
 訳が分からないというように少女を見つめると、少女は悪戯っぽそうにスミレ色の瞳をくるりと動かした。
「はじめまして。私の名前はブレンダ・カウナー。ガルシア伯爵の私生児です」
 それが俺のピクシーとの出会いだった。
やっとここまでこぎつけました。
赤毛の少女が誰かは、もうご存知ですよね?
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

 気分転換になるかと朝のアストリアをぶらついてみたが、ジョシュアの言葉がぐるぐると頭の中を回り、ただ落ち込ませただけだった。かといって宿に戻る気もしなくて同じところをぐるぐると回り続ける。
 白み始めた空が薄青い光を街に投げかける頃には街はしだいに起き始め、やがて市場を中心にいつもの喧騒が当たり全体を包んだ。
 こういった喧騒は嫌いじゃないのだが、今日の俺にはどれもなんだか他人事の騒ぎのようで、一向に気分は盛り上がらなかった。
 俺は大きくため息をつくとその辺に転がっていた樽に腰掛けてその喧騒をぼんやり眺めた。
 こんなことをしていて俺の女神(ミューズ)が現れるわけではないのに。
 そう自分自身を皮肉ってみた時だった。
 俺の視界の端に赤い光が飛び込んできた。
「まさか」
 俺は慌ててその光へと目を向けた。
 見覚えのある赤いポニーテールが人の波の中浮いたり沈んだりしている。
 ドクンと心臓が跳ね上がる。
「まさか」
 そんなわけがない。そんな物語みたいな展開があるわけではない。
 自分の心に何度もそう言い聞かせるが、足は自然とそのポニーテールを追いかけていた。
 ――ピクシーに会ったね――
 都合のいい自分の頭は難なくジーンの言葉を再生しだす。
 違う。そうではない。
 俺は慌てて頭を振った。
「あいつは人間や。ピクシーでもミューズでもない」
 それを今から確かめるんだ。
 俺は何度も自分にそう言い聞かせた。
 足はすでにかけ足だった。

 少女は小さな路地へと消えていった。
 俺は少女の消えた路地にたたずんで辺りを見回した。
 細い路地の下には細い海が見え、上には細い空が見える。その空には細い紐が渡され、あちらこちらの窓から女性が顔をのぞかせて洗濯物を紐に吊り下げていた。子供たちが歓声をあげて路地を下って行けば、重い籠を背負った老婆がゆっくりと路地を上がって行く。
 ここは以前少女が姿を消した住宅地とは全く趣が違った。
 市場の喧騒とはまったく無縁ではなく、路地の先からは海の匂いも漂う。海の男たちの声もこだまし、かわりに竜の姿は遠かった。
 俺は耳をそばだてて少女の痕跡を探した。
 やがて俺の耳はかすかなリュートの音をとらえた。
 何か予感があったわけではない。
 ただ彼女はどこか音楽と共にある気がしたのだった。
 リュートの音色を頼りに俺は一軒の家へとたどり着いた。外に取り付けてある階段をそうっと上り、リュートの音がする部屋をのぞくとそこには目当ての少女がいた。
 少女の姿を見た瞬間、俺はほっと溜息をついた。
 彼女がピクシーでもなくミューズでもなく、ただの人間であることに俺は心の底から安心した。
 この家で生まれ、この家で生きている俺と同じ人間なんだと。
 少女は床の上で体を伸ばしたり縮めたりしながら柔軟体操をしている。少女のそばには白髪の老婆が腰掛け、リュートを爪弾きながら音色を調節していた。
 やがて少女は元気よく伸びあがると、くるりと床の上で一回転をして見せた。少女の動きに従って赤い髪の毛が閃光のように瞬いた。
 それを合図にリュートは一つの音色を奏で始める。俺も聞いたことがある異国の調べだ。少女のつま先が軽々と頭の上へと上がった。上がった脚はそのまま空を蹴りふわりと少女の体を空中へ浮かす。飛んだと思った瞬間少女はすぐさま体を入れ替え、またふわりと飛び上がった。
 そのまま少女はほとんどつま先立ちとなり、まるで地面についていないかのような踊りを繰り広げた。せわしなく動く足先に目をやれば、それは惑わすようにクルリクルリと回転する。しなやかな上半身に見惚れれば重みを感じないように飛び上がる。風は柔らかく少女の周りを舞い、ひかりは楽しそうに少女の周りを瞬いていた。
 やがてリュートの音色が変わる。先ほどの軽やかな調べから重く暗い音色になる。
 ダンと少女のかかとが床を打ち鳴らした。
 俺はハッと息をのみ少女を見つめた。
 軽やかに舞っていた少女の頭はしっかりと前を見据え、柔らかかった腕は強い意志を秘めて上へと降り上げられた。足はしっかりと地面に打ちつけられ、重く暗い調べを少女の身体は奏で始める。くるりと舞う回転も重く、今まで柔らかかった風は熱く渦巻き始め、光は暗い炎を燃やした。
 リュートはまた違った音色を奏でた。
 俺はギョッとしてリュートを奏でる老婆を見た。
 それは俺が今練習している踊りの音色だった。
 なぜそれをこの老婆が知っているのだと疑問に思う暇もなく、少女が踊り始める。
 つま先が見覚えのあるステップを踏む。腰が見覚えのある揺らめきを作り出す。俺より素晴らしく俺より完璧に少女は俺の踊りを再現して見せた。
 俺は茫然と少女を見つめた。
 ピクシーじゃないだと。
 ミューズじゃないだと。
 ただの人間だと。
 だったら俺はなんなんだ。
 踊り終わると少女は疲れたように床に寝転がった。
 はぁはぁと荒い息の中、少女は老婆に言った。
「だめだなぁ。上手く踊れない」
 そう言って少女は悔しそうに唇を尖らせた。
「本物の踊りはもっと腰を使っていて、大人の魅力みたいなのがあったのよ」
「大人の魅力も何もお前はまだ子供じゃ。そんな練習よりもっと基礎を勉強せんかい」
「してるよ」
 少女は唇を尖らせたまま起き上がった。
「でも、新しい踊りって挑戦してみたくて」
 そう言って悪戯っぽくほほ笑むと先ほどの踊りをもう一度繰り返そうとした。
 そんな少女を老婆はそばにあった杖で床を叩いて叱った。
「何事も基礎あっての応用じゃ。さっさとポジションにつかんか」
「は~い」
 少女はすねたように返事をしながら老婆の指示通り足を上げたり下げたり、体をひねったり回転したりと練習をし始めた。
 俺はふらふらとその場を離れた。
 頭の中が真っ白で何も考えられない。
 老婆はなんて言っただろう。
『何事も基礎あっての応用』
 ジーンは俺になんて言っていたか。
『女舞でもいいから基本をプロに習っときな』
 基本。
 基礎。
 俺に無いのはそれだ。
 俺は今まで自己流で踊りを覚えてきた。
 旅芸人だしそれでいいとも思ってきた。
 客を沸かせる才能があれば踊りを習った年数や質など関係ないと思っていた。
 だがレイチェルの踊りを見て。名も知らない少女の踊りを見て。俺の才能など無いも同然だと思い知った。
 俺にもし客を沸かせる才能があると感じていたのなら、それはレイチェルやジョシュアやジーンや座長やクラレンスやアンジェラが俺のために作ってくれた空気だったのだ。レイチェルがジョシュアのために作ったように他のみんなが俺のために、俺が目立つように作ってくれていたのだ。そのことを俺は今まで気づきもしないで、まるで自分の実力のように考えていたのだった。
「アルヴァ、おい、アルヴァ!」
 俺は自分を呼ぶ声になんとなく顔を上げた。
 目の前にいつになく心配そうな顔で俺を覗き込んでいるクラレンスがいた。
 奴の後ろからは市場の喧騒が聞こえた。俺は知らないうちに大通りへと出ていたらしい。
「お前大丈夫か? 顔色が最悪なぐらい悪いぞ」
「クラレンス……お前、レイチェルと長いな?」
「あ、ああ」
 俺の質問に奴は動揺したようにうなずいた。
「教えてくれ」
 そんな奴に俺は絞り出すような声で尋ねた。
「レイチェルはいつから踊りを習っている?」
 クラレンスは俺の質問に黙ったまま俺を見つめた。彼の瞳が必死に俺の質問の意味を探っている。やがて何かに合点がいったのか、奴はふうと長い溜息をついた。
「お前も知っていると思うが、レイチェルはもともと富豪の娘だ。もの心ついたころには一流の教師がそばにいたと聞いている」
「そうか」
「だがアルヴァ、そんなこと……」
 奴のセリフを最後まで言わせず、俺は首を振った。
「悪いクラレンス。俺はしばらく帰れへん。本番までには戻るから、みんなにはそう伝えてくれへんか」
 クラレンスは呆れたように首を振った。それから肩をすくめると何も言わず去って行った。
 奴が無口なことに今ほど感謝したことはなかった。
前回から2ヶ月以上間が空いてしまいましたが、ようやく最後までのめどはつきました。
あと、2話+エピローグです。
よろしくお付き合いのほどを。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

 リリ、リリと虫の声がこだまする中庭で、俺はぼんやりと井戸の中をのぞいていた。先ほどまで映っていた月は西のかなたに沈み、今は静かに星空を映している。
 今夜は妙に寝苦しい夜だった。
 秋だというのに汗が体にまとわりつく。
 気温はそれほど高くないのだが、雨が降る前兆かムシリとした湿気が部屋全体を覆っていた。
 仕方なしに一服の涼を求めて中庭へ出たのだが、今度は秋特有の静けさに物思いの輪へと沈みこみ、部屋に帰ることができなかった。
 井戸の底は暗く深い。
 そこに星が映ると、まるで空を覗き込んでいる錯覚にとらわれる。
 どちらが空でどちらが底なのか……。
「俺の才能って、この井戸の底みたいなもんやったというわけやろか」
 空を覗き込んでいるつもりになって、空を見上げていた。
 そんな井戸の底と同じ。
 ゴロリと転がって俺は本物の空を見上げた。
 空は残念ながら、満天の星空というわけにはいかなかった。
 うす雲がかかり、数えるほどの星しか映していない。
 明日は絶対雨やな、とどうでもいいことを考えながら俺の脳裏に思い浮かんだのは先ほどのレイチェルの踊りだった。
 今回は珍しく、というかおそらく俺が知っている中では初めて、レイチェルのソロの踊りと歌が入る。
 いつもはジョシュアとデュエットをレイチェルは歌う。踊りに関してもジョシュアと踊る程度で一人で踊ったことはなかった。そもそも、彼女は演技ができるので歌や踊りで売り込む必要がなかったといってもいい。
 だが今回の彼女は本気でこのイスファルドに腰を落ち着けたいと考えているようだった。年齢的にもそろそろ限界が来ていることを彼女は十分承知しているのだろう。彼女の持てる力を最大限に引き出す脚本に彼女も十二分以上に応えようとしていた。
 そしてその歌声は、踊りは……。
 今、この俺の眠りを妨げている。
 どこかに自分の望む王子がいるはずだと歌った歌は俺の心を切なくさせ、魔女に魔法をかけられ苦しみもがきながら踊る踊りは圧巻だった。むしろ魔女である俺の方が気圧されるぐらいに。
 レイチェルに才能があることは前から知っていたが、ああいう風に見せつけられると何となく自分が惨めな人間のように思えて気分が沈んでいく。
「ああ! くそ!」
 俺はガシガシと頭をかきむしった。
 本来の俺はこんな俺ではない。
 レイチェルが頑張れば頑張るほど、ジョシュアが上手ければ上手いほど、ジーンや座長や他の団員が見事であればある程、俺のやる気はMAXまで駆け上がり、よりよい演技を作り出していく。いや、そもそもそういう刺激を求めたからこそ俺はこの一座に加わったのだ。
 だが、今回ばかりは違った。
 自分の役が出来上がらないところにああいう演技を見せられると、やる気よりむしろ羨みばかりが勝ってしまった。
 なぜ俺にはあの才能がないのだ、と。
 なぜ俺にはあれができないのだ、と。
 井戸の底に星を映せど、決して天の星が手に入るわけではない。
 そのことを思い知らされたような気分になるのだった。
 カタリと小さく勝手口が開いたことに俺は素早く気づいた。
 そこから黒い影が滑るように中庭へ入って行く。
 俺は軽く片眉を上げた後、影に声をかけた。
「朝帰りか? ジョシュア」
 影は驚いたように立ち止り、目を眇めて俺を見た。
「アルバ、酔っているのか?」
 ジョシュアの問いに俺はハハと乾いた笑いを見せた。
「かもな」
 ジョシュアは訝しそうに目を細めて俺に近づいた。そして井戸の壁にもたれかかって彼を見上げる俺の顔をまじまじと眺めた。
「酔っている……というわけではなさそうだな」
「いや、酔ってるで」
 俺は自嘲気味に肩をすくめた。
「レイチェルの歌にな」
 俺の答えにジョシュアは納得がいったようにうなずいた。
「聞いたのか」
「聞いた」
「踊りは?」
「見た」
「で、そのざまか」
「ああ、このざまや」
 ハハハハとジョシュアは嬉しそうに笑った。その笑い声がしゃくにさわり、俺は顔を横にそむけた。だがジョシュアは俺の前に腰を下ろし、楽しそうな笑顔を俺に向けた。
「それで」
「あん?」
「お前はどうするんだ?」
「何がや」
「クラレンスのように押し黙るのか、アンジェラのように諦めるのか、それとも……」
 ジョシュアはそこで俺が先ほどしたように自嘲気味に肩をすくめた。
「俺のように負け犬になるか」
 俺は目を丸くしてジョシュアを見つめた。ジョシュアは何が嬉しいのか、ニコニコ笑っている。
「お前が負け犬って……」
「ああ、俺は負け犬だ。レイチェルの才能にふれたとき、彼女の才能に真っ向から勝負するのを止めた。クラレンスは黙って彼女の才能を支えようしている。アンジェラは自分だけしかできない表現を探している。ジーンや座長は彼女の才能を導き、生かそうとしている。だが俺は、彼女の才能から逃げ続けている」
 ジョシュアはにやりと笑って空へ顔を向けた。
「俺がいないときのレイチェルの歌はどうだった?」
「感動した」
「俺がいないときのレイチェルの踊りは?」
「体が震えた」
 ジョシュアは俺の答えに「納得したか?」と言わんばかりの瞳を向けた。
「俺が相手だとレイチェルは本気を出せない。なぜなら、俺がレイチェルから逃げているからだ。レイチェルの才能に正面から挑もうとしていないからだ。彼女と歌っていると俺はいつも落としどころをさぐっている。俺の歌が下手に聞こえない歌い方を探しているんだ。そんな俺に彼女はあっという間に愛想を尽かして、俺の歌に合わせるようになったよ。彼女のレベルを数段も下げてね」
「ジョシュア」
「非難したければ非難すればいいさ、アルバ。彼女が大成しないのはどう考えても俺のせいだ。分かっていても直すことはできない。逃げ癖は一度付くとどうすることもできないからな」
 さばさばとした笑顔でジョシュアはそう言うと、「じゃあな」と立ち上がり飄々と部屋へと戻って行った。
 だが俺の方は、ジョシュアの言葉がまるで冷水のように俺の体を冷やし、背筋を震え上がらせていた。この分では到底ベッドに戻る気になれない。
 俺はぼんやりと東の空を眺めた。
 うっすらと白み始めてきた空を眺め、俺は一つため息をついた。
「ああ! くそ!」
 本来の俺はこんな俺ではないのだ。