マタイによる福音
〔そのとき、〕10・1イエスは十二人の弟子を呼び寄せ、汚れた霊に対する権能をお授けになった。汚れた霊を追い出し、あらゆる病気や患いをいやすためであった。2十二使徒の名は次のとおりである。まずペトロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレ、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネ、3フィリポとバルトロマイ、トマスと徴税人のマタイ、アルファイの子ヤコブとタダイ、4熱心党のシモン、それにイエスを裏切ったイスカリオテのユダである。
5イエスはこの十二人を派遣するにあたり、次のように命じられた。「異邦人の道に行ってはならない。また、サマリア人の町に入ってはならない。6むしろ、イスラエルの家の失われた羊のところへ行きなさい。7行って、『天の国は近づいた』と宣べ伝えなさい。
イエスは弟子たちの中から十二人を呼び寄せ使徒とします。使徒はイエスから汚れた霊に対する権能を授けられました。十二使徒の中にはイエスを銀貨30枚で売りわたすイスカリオテのユダもいます。
ヨハネ福音書ではイエスは弟子に対して、「あなたがたがわたしを選んだのではない。わたしがあなたがたを選んだ。」と言っています。イエスはユダがご自分を裏切ることになることを分かっていながらユダを選んだのかも知れません。
北海道浦河にある社会福祉法人「べてるの家」の向谷地生良さんは次のように書いています。
イエスの選んだ十二使徒
七十人ほどの弟子志願者のなかから特別に選ばれた十二人の若者を見たとき、当時の人たちは驚いたにちがいない。「なんで俺が選ばれないで、あいつが選ばれるのだ」という声もあがっただろう。なぜなら、選りすぐりのエリートが数多く志願したなかで、選ばれたのは、なんとも心もとない若者たちであったのだから。
いろいろなトラブルが起きた。イエスが一番祈ってほしいときに、弟子たちはみんな眠りこけ、「俺たちのなかでだれが一番偉いんだろう」と名誉や権力に執着した。そして、イエスをあざむき、逃げだした。イエスは孤独のうちに、つばを吐きかけられ、罵声を浴び、十字架を背負いながら、処刑場へと向かって行った。
イエスは、この弟子たちと行動を共にしたら、とんでもないことになるとわかっていながら、共に旅をしたのである。悲劇的な運命を感じながら、あえて、不完全な弟子たちと旅を続けたイエスに思いを巡らしたとき、私には「それで順調なんだよ」「それで僕は順調なんだよ」という声が聞こえたような気がした。
そして、その弟子たちが教会の土台となり、イエスの言葉の語り部として用いられていく。教会の土台とは、まさにその混乱と疑いと、誘惑に駆られた人たちによってつくられてきた。それを思い、そして信じたとき、正々堂々と己に絶望し、あきらめている自分がいた。
向谷地生良「ベテルの家」から吹く風(いのちのことば社2006年pp.52-53)