『なんで俺んとこきたか知んねえけど、

タダじゃ帰さねーよ。』

なんて言ったわりには、先輩はあたしに指一本触れようとしなかった。

あのときのこと、気にしてるのかな…。

あたしの好きなカフェラテを淹れて、コンビニのケーキでおもてなしまでしてくれた。

滝島先輩を見ているだけで、大好きだったあの頃にまるきり気持ちが戻っていた。

緊張混じりの懐かしいときめきが、じんわりと心を満たしていく。

『広瀬とは…』

言いかけて、やめる。
きっと、聞きたいことは山ほどあるんだろうな

ソファに向かい合って、先輩の目をじっと見た。

「うまくいかなかったです」

つらいことが、多くて。

そうか

ひとことつぶやいて、先輩はあたしから目をそらした。

『あんま見んな、はずかしーから。』

顔が、ほんのり赤い。



「だって、懐かしくて」

『そんなにたってねーだろ』

そうなんだけど、

色々ありすぎて、すごく長かったような気がするから。

『新しい学校は、どうだ』

先輩、あたしが転校したこと知ってたんだ。

あまりよくないことを、正直に伝えた。

『やめちまえば』

「高校くらい卒業したいから」

『つらいのに、無理することねーって』

通信とかあんだろ。

と言われたけど、

考えるふりして、目を伏せた。

『高校出てどーすんだよ』

たぶん、働きます。あたし、勉強好きじゃないから、大学とか行きたくないし。

『そんなんだったら、やっぱりやめちまえよ』

えっ…

「なんでですか」

『お前、俺と結婚しろ。』

!?





何が起きたのか理解するまで、数分かかった。

「なんて言ったの?」

『俺と結婚しろって言った。三回は言わない』

「なんで、そうなるの?」

『いやなのかよ』

そういうことじゃなくて…

「まだ、16ですあたし」

『できんだろ』

だから…

こうなったら何を言っても無駄かな。

先輩は不機嫌な様子で、前みたいにあたしをにらんだ。
それから、

あたしと先輩を隔てるガラスのテーブルを
片腕で軽々とどけてしまう。

テーブルの上のラテが揺れるのが気になって、あっと声が出てしまった。

間近に距離をつめられて、
怖い顔が近づいた。