小説K,氷 -17ページ目

SleepingBeauti

彼女を引き起こすと、河内百合はとんでもないことを口にした。

山下を睨みつけて

「わたしは白川君が好きなの」

そう言った彼女はぼくのほうを一度も見ることはなかった。

たぶん、あまりにしつこい山下への当て付けででた言葉だろう。

事実、山下の表情は落胆し、肩を落としていた。

それにぼくと彼女の距離が縮まったわけでもなかった。

意識したのは、ぼくだけで彼女の態度は今までなんらかわることはなかった。

山下のぼくにたいする態度だけはそうとうかわったのだけど、しかたないと思い気にかけないようにした。

SleepingBeauti

山下は無視し続ける河内百合の腕を強引に掴んだ。

河内百合は悲鳴にも聞こえる反応した。

「嫌ぁぁ、離して」と。
辺りは静まりかえり、ぼくらの作業テーブルに視線が集まった。

河内百合はその場にしゃがみこんだ。

どうしていいのかわからなかったが、とりあえず、ぼくは「大丈夫?」と尋ねた。

すると河内百合は「うん」とか細い声でこたえた。

その声がとても弱々しく、いつも毅然とした態度の河内百合の姿がどこにもなく、ぼくはてを差し延べたんだ。

SleepingBeauti

三人で一つの仕事をするのは、ぼくにとって、苦痛に近いものがあった。

主任で偉ぶる山下よりも河内百合の存在がなによりも欝陶しく感じた。

欝陶しいという表現は的確ではなく、違和感と言ったほうが的をいているだろう。

別に河内百合に落ち度があるわけじゃない。

ぼく自身に問題があるのだから、責めるならぼく自身か、ぼくを選んだ山下にある。

彼女は山下と口を聞くのがよほど嫌なのか、いろんな事をぼくに尋ねた。

そのたびに、ぼくは、言葉に詰まり、緊張するはめになった。

社会不適合者の烙印をぼくは毎回のように味わう。

けれど、どんなに言葉に詰まろうと、彼女はぼくを笑わなかった。

だからぼくには河内百合という女性は理解不能な存在になった。

☆――――――――――

山下の当て付けが、ぼくに向かった原因はもっと確固たる言動が、河内百合の口から発せられることになる。

何気ない日常でそれは起こった。

山下は休日前になると、必ず、河内百合をデートに誘っていた。

当然、蜃気楼を掴めるわけもなく、河内百合はそこに何も存在しないかのような態度で無視を続ける。

だけど、その日にかぎり、山下のしつこさは尋常ではなかった。

後になって知ったことなのだが、河内百合の誕生日のために、前以て、レストランの予約から、デートコース、はては、ホテルまで予約していたのだ。

そのため、普段では、やらないようなことを山下はしてしまうのだった。