食物アレルギーの食事療法はどう変わってきたか?…過去の不適切治療の例
こんにちは。橋本です。
食物アレルギーの治療の基本。
今のところは、アレルギー症状をおこさせる原因食物の除去が中心です。
これは、昔から変わりません。
しかし、昔と今では、治療内容に対する考え方が大きく転換してきています。
同じ「食物除去」でも、その内容が大きく違うわけです。
「疑いがある食べ物は、なるべく除去」の罪
ひと昔前までのやり方。
それを少し、乱暴にいってしまえば、
アレルギーの「可能性がある」食物は除去
ということもありました。
たとえば、肉親関係、親戚関係にあるような食べ物。
卵アレルギーかもしれない子どもには、鶏肉も食べさせない、とかいう食事指導がおこなわれることもあったわけです。
牛乳が除去なら、次は牛肉も。
大豆アレルギーなら、豆類、マメ科の食品。
さらには、大豆から作られた醤油や味噌もやめましょう、という具合です。
つまり、ひと昔前までは、「疑わしきは除去」という治療があったわけなんですね。
たしかに、大は小を兼ねるで、どんどん疑わしいものを除去していけば、ほんとうに原因になっている食べ物を食べなくて済み、症状が出なくなる確率は高くなる。
ですが、その考え方は、物事の一面しか見ていません。
こうやって次々と食べるものを制限していくやり方は、子どもや母親の QOL(生活の質)を極端に落としてしまいます。
治療と引き換えに払う代償は、あまりにも大きい。
根拠なく「リスクゼロ」「絶対安全」を求めれば、最終的に「食べられるものがほとんどない」ということになるわけですから。
たとえば、
・ 料理に手間がかかり、栄養のコントロールにも手間がかかる
・ 外食や旅行先でも、必要以上に気を使わなければいけない
・ 周りの人が食物除去に批判的で、理解してくれない
しまいには、食べさせるのが不安になってしまう、なんてことにもなりかねないんですね。
食べさせるのが怖い。自分の子どもを育てにくいと感じてしまう。
そんなところにまで追い込みかねないような治療。
そのような、必要以上に厳しい食物除去は、今から振り返ると、メリットより罪の部分が大きいように考えられています。
「牛乳がダメなら牛肉もダメ」というアレルギーの一致。
いわゆる交差抗原性(こうさ・こうげんせい)というものも、それぞれの食品群によって、大きな差があることも検証されてきています。
たとえば、牛乳アレルギーの患者が、牛肉にアレルギーをおこしていたのは、実際には10%ほどだったという報告もされています 1) 。
しかも、牛肉なら加熱を十分にすれば食べられるというケースもあります。
「必要最小限の食物除去」へ
ひと昔前までは、疑わしきは除去。
「いきすぎた食事療法」も、指導されていました。
それが今の標準的な治療、考え方では、「必要最小限の食物除去」へと、大きく変わってきました。
つまり、より正確な原因食物の診断をして、ほんとうに除去の必要が確かめられたものだけを除去しよう、という治療です。
「食べられるものは食べる」をなるべく目指す。
これは、子ども、ひいては家族の QOL を、治療の最優先に考えた結果でもあるわけなんですね。
正確な原因食物の診断には、血液検査やプリックテストだけでは、限界があること。
そして、食物除去試験・食物負荷試験のダブルチェックによって、アレルゲンの正確な判定がされるようになったこと。
この診断の変化は、食物アレルギー治療の進歩。
大きな目で見たときに、子どもにとって、より負担が少なく、 QOLを高める治療にも、大きな役割を果たしているわけです。
参考文献:
1) Scott H. Sicherer. Clinical implications of cross-reactive food allergens. JACI 108(6): 881-890, 2001.