彼女のサインと

アトムのサイン。

私は、あとどれだけ

サインを見逃すんだろうか。

パパもサインを

送ってたりするの?

サインは、嫌だから

話してね。

そう。アトムが亡くなって

2日後だったかな?

その彼から℡があった。

すこぶる元気におちゃらけてた。


息子が死んだ。殺された。

そう、言ったら彼は、

『え?あの犬?』

そういって爆笑してた。

相変わらず馬鹿で冷酷。

また、犬とか興味ないって

言ってた。

私は、いつもの調子で

なじった。

でも、腹が立たなかったよ。

なんでか、笑ってなじってた。

なじりかたは、

かなり酷い言葉で、

生きてるうちに、

そんな言葉を発さない方も

いる位のなじり。

彼の子供に起こったら

どうなるんだよって。

彼は、笑ってた。

そうですよね。って

笑ってた。

パパに言ったら、パパは

酷く気分を害してたけど…。

私は、彼みたいに

笑ってたい。

彼が人として、欠落してるとか

そんなんどうでもよい。

私たちは、彼が大好きだ。

そんなんでも、大好きだ。

アトムよりは劣るけど…。

彼が不幸にあったら

笑い飛ばせるかな。

あいつと私は、違うから無理。

でも、あいつみたいに

笑って生きたい。



彼は、彼女との最後の会話を

悔やんでた。

私は、ありきたりな言葉で

励ますことしか出来なかったな。


葬儀に、彼だけ行った。

彼女の父親になじられたと

言ってた。

そのあと、彼は、仕事に

没頭して、

しかも、信じられない事に、

別の女性と子供を作り

結婚した。

私は、なじって責めようと

思ったけど、責めなかった。

彼のやっと見つけた幸せを

踏みにじりたくないし、

応援したいから。

どんな始まりであっても

彼が幸せなら、それで良いと

思ったから…。

あんな姿は見たくなかったから…。



アトムを亡くした私は、

あの時に、責めなくて良かった。


と、思ってる。

彼には、彼が生きていくには

そうするしか無かったんだ。

彼は、今の大切な家族を

悲しませないように

彼なりに彼女を弔ってる。

彼を間近で見てる私は、

まだ彼みたいに歩き出せない。



彼女を亡くして

食事睡眠を取らずに

彼女の体液の付いた

絨毯を見て過ごしてる彼を

心配しながらも、

そっとしといてあげなきゃと、

我が家は、家で過ごしてた。

夕方、彼からTELがあった。

やっぱりご飯に行きませんかと。


パパは仕事だったし、

パパが居たら

弱音を吐けないだろうと、

私だけ行った。

待ち合わせに現れた彼は、

泣き腫らした不細工な顔で

どうやっても履けてないだろって言う位、サイズ違いな、



キティちゃんの突っ掛けを

履いてた。

泣きながら笑ってやった。

お店に入っても、

食べないし、ずっと

泣いてた。

死体から取った、

エンゲージリングを

握りしめてた。

これを形見にするんだって…。

指に入らない入らないと、

到底サイズが違うリングを

小指にはめようとしてた。

私は、彼より泣いちゃダメだと

嗚咽しないように

泣かないようにしてたけど、

それは、難しかった。

そのリングを首から

下げたら良いと言ったら

どうやって?と言ってきた。

チェーンを買って通せば良い事を彼は、思い付かないみたいだ。



あんなに頭の切れる彼は、

小さくなって、子供みたいに

人目もはばからず泣いてた。

彼を知ってる人達は、

この人が、こんなになるのを

見たことないだろう。

人の悲しみも、悪態をついて

笑い飛ばす人だから…。