不思議すぎる初夢④~僕は光に抱きかかえられた | HARMONIES ハーモニーズ(Ameblo版)

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HARMONIES(ハーモニーズ)は、2006年にスタートしたこのブログのリニューアル版です。2011年の東日本大震災、そして昨年末の時空間の大変化を経て、ようやくここにたどり着きました。「調和の創造」をテーマに、新たな銀河時代を生み出していきましょう。


まるで時間が止まったようだった。美しい人の名前は、誰も知らされていなかったが、そんなことはどうでもよかった。彼女はただそこに存在して微笑んでいるだけで、全てを癒し、慰め、希望を与え、きっとどんな病も治してしまうのだ。

彼女はゆっくりと立ち上がり、こちらへ歩いて来た。近づくに連れて美しさは一層輝き、何か甲高いオルゴールのような音も聴こえる。まず母の前で歩みを止め、握手するように手を差し出した。母は深呼吸すると自分の手をゆっくりと彼女の手に重ねた。

その瞬間、なんと美しい人は「透明」になったのだ!

人としての輪郭も顔形もドレスも全てそのままに、全身が淡いグリーンに輝くガラス・・・いやガラスではないのだが、透明な光そのものになった。母の手は彼女の手に触れたあとするりと通り抜ける。その時に、光の手はしっかりと母の手を握った。

姉の目は涙で溢れていて、とても直視出来なかったのだろう。うつむいたまま手を差し出した。美しい人の手は、姉の頭に触れ、そしてちゃんを手を握った。僕はまるで自分が記録カメラになったかのように、眼の前の光景の一部始終を、脳裏に焼き付けていた。

映画監督の叔父は、彫刻のように固まったまま動けなかった。美しい人の光の手は、叔父の頬に触れ、そして肩に触れた。そのとたん、叔父の身体は弾けるように後ろに反ると、そのまま横の椅子に倒れ伏した。

僕は自分が最後に握手してもらえると思い、できれば両手を握ってほしくて、右腕と左腕を同時に差し出した。すると、美しい人はいとも軽々と僕を引き上げ、抱きかかえてくれたのだ! 僕の目の前に女神さまの透明に輝くお顔があった。そして彼女は、僕の頬にキスしてくれた。

そのとたん、僕も気を失った。

気がつくと、母は「私たちは許されたのよ」と言いながら号泣していた。姉は頷きながら母の背中をさすり、叔父はまだ眠っていた。面会室は元の明るさになっていて、美しい人はおらず、ステージの壁は閉じられていた。女主人も医師もいなかった。

僕は抱きかかえられたときのことを思い出し、自分の両手を見た。指先がなんと半透明になっていた。「お、お母さん!」と指を見せようとすると、元の肉体に戻っていた。叔父はようやくもぞもぞと動きはじめ、椅子の背もたれに掴まって起き上がった。叔父さん・・・と声をかけたが返事はなく、まだ放心状態だった。

耳を澄ますと、家が再びレールの上を動いているのがわかった。アントワープに戻っているのだ。僕たちはさっき目の前で起きた奇跡を語り合うことも出来ず、それぞれがそれぞれの思いにふけっていた。やがて家は静かに止まった。

女主人が現れ、「さあ皆さん、お帰りはこちらへ。緩やかな階段にしてくださいね。坊っちゃん、急な階段は危ないわよ」と言って笑った。母は慌ててバッグを開け、中から分厚い封筒を取り出して、女主人に差し出した。きっとお金が沢山入っているのだ。封筒だけでなく、自分の財布も差し出し、「どうか受け取ってください」と言った。

女主人はにっこり微笑むと、「まぁそんなことなさらなくても・・・ じゃあ1枚だけお茶代にいただいておこうかしら?」と言って、封筒から紙幣を1枚取り出し、残りは財布も含めて全部母の手に戻した。母は、「どうか、どうかお願いします」と再び差し出したが、女主人は首を横に振り、姉に向かって「さあこちらですよ」と促した。

僕たちは1階に降りて、玄関まで見送りされた。みんなそれぞれが、女主人に向かってありがとうございました、さようなら、と述べた。医師と執事もロビーの隅からこちらに向かって会釈していた。外はもう薄暗くなっているとばかり思っていたのに、来た時のままの4月の青空が広がっていた。本当に時間は止まっていたのだ。」(エピローグへつづく)