兵粮米の備えを考えると、多くの領民を城内に避難させるのは無謀です。
しかし元就は、領民に彼らが蓄えた食糧とともに入城させることで兵粮米不足を補い、さらには武士と領民が一致団結する姿勢を示し、士気を高めようとしたといわれます。
また、領民に武器をとらせ、兵の不足を補う狙いがあったともいうのです。
結果、この策が功を奏し、城内の領民らは「尼子殿は雲客、引き下ろしてずんぎり曳(ひ)こ曳(ひ)こ」(=出雲からやって来た尼子勢をノコギリで曳いてしまえ)と唄い、意気盛ん。
長期の籠城に毛利勢は苦しめられますが、士気は衰えず、山口の大内義隆(周防・長門の太守)の来援もあって合戦に勝利したといいます。
しかし、領民を籠城させたという話は軍記物のほかで確認できません。
かつ、郡山城はその後拡張されていきますが、この合戦当時、城は麓の居館部分と切り離した戦時用の施設だったと考えられています(福間健著『史説毛利元就』参照)。
つまり、城内で領民たちが暮らすスペースを確保できるはずがなかったのです。
一方、元就は謀略としてよく「反間の計」を用いたといいますが、次にそれについてみていきましょう。
(つづく)
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