紫式部の夫となる藤原宣孝が彼女に求婚した当時、少なくとも妻が二人(正妻と本妻)いました。
宣孝はその状況で性懲りもなく式部を口説き、のみならず、源則忠という近江国(滋賀県)の国司の娘の元へも通っていたのです。
当時は複数の女性と婚姻関係をもつことはめずらしくなく、宣孝だけがとくに浮気性ということではなかったのかもしれません。
ところが式部は妬心をみせ、「近江の方(則忠の娘)のところへ入り浸ったほうがよくはなくて……」という趣旨の歌を送っています。
一方、『紫式部日記』には同僚の女房たちを寸評するくだりがあり、「よく顔を合わせる人について口さがない(無節操に悪く言い触らすこと)のは憚られます」と前置きしつつも、日記を書き進むうちに本音がぽろっと出てしまいます。
たとえば、五節の弁という女房には「髪の毛も初めて会った時には背丈に一尺(約三〇㌢)ほど余るほど豊かだったのに、いまではすっかり抜け落ちてしまっている」と書いています。
また、小馬
という女房へのそれは「むかしは美しい若女房だったのにいまでは琴柱(ことじ)を膠でつけたような人(融通がきかない人)になった」と、まさしく口さがありません。
インテリとみられがちな式部にも人間味ある一面があったのです。
(つづく)
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