浦賀奉行所の役人香山栄左衛門が幕府老中に宛てた上申書によりますと、アメリカの使節の一人は、幕府が国書の受け取りを拒んだら、その恥辱をそそがなければならないとして、こう続けたというのです。
<浦賀において余義なき場合(戦争)に至り申すべし。その節に至り候とも、(降伏を含めて)用向きこれあり候えば、白旗を建て参りくれ候え。鉄砲を打掛け申すまじく>
幕府が交渉を蹴ったら戦争になる、ただし、降伏するなら白旗を掲げてこい、そうしたら攻撃はしない。
そう恫喝したことになります。
ただし、この話は『ペリー提督日本遠征記』にはみえず、さすがにペリーもそこまでの恫喝は控えたと思われます。
しかし、この話以外は信憑性があり、幕府は結果、久里浜村(横須賀市)へのペリーの上陸を認め、彼は武装したアメリカ兵300名を伴い、フィルモア大統領の国書を幕府へ渡すことに成功しました。
こうみてきますと、幕府がペリーの恫喝に屈したのは事実といえますが、このとき彼は、日本側が知らないアキレス腱を抱えていたのです。
(つづく)
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