先日、ジーン・ハックマンさんが亡くなっ(ていたのが分かっ)たから追悼の意味で観るつもりではないんですが、『クリムゾン・タイド』を観ました。
チェチェン紛争をきっかけに起きたロシアでの反乱。反乱軍を扇動するラドチェンコは、要求に応じない場合はアメリカと日本に向け核攻撃を行うと脅迫。
これに対応すべく、アメリカは原子力潜水艦アラバマを出撃。ベテラン艦長のラムジーと、代理の副長として配属されたハンターを乗せ、アラバマは太平洋に向かう。
出航から数日後、アラバマは緊急行動命令=EAMを受信。反乱軍の攻撃に先んじ、アラバマに搭載された核ミサイル発射の命令が下る。
その準備中に現れた敵潜水艦を撃沈したものの、敵の攻撃によりアラバマの通信装置が故障してしまう。そのため、新たに受信したEAMは不明瞭で解読できない。
新たなEAMについて、ラムジーは命令の続行を信じ、ハンターは命令の中止を予想する。意見が食い違う二人の対立により、艦内には不穏な空気が漂い始め……といったお話。
潜水艦映画に駄作なし!と思い込んでいる俺ッチですが、本作もその例に漏れる事はありません。
潜水艦という狭い空間の中で繰り広げられるドラマは、まさに密室劇。密閉空間の中で緊張に耐えきれず、気取ってばかりじゃいられないというか、それまで隠してきた人間性を解放させるのがいいんです。
本作は1995年の作品。
この頃にもなればジーン・ハックマンさんは口が悪いけど根っこは気のいいオヤジを、デンゼル・ワシントンさんは潔癖で正義を重んじる役を演じるイメージが定着していたと思います。
そんな真逆なイメージの二人を主演に据えた上で対決(?)させるという、企画としても面白い組み合わせです。
ハックマンさん演じる強行派なラムジーと、デンゼルさん演じる慎重派のハンターが対立すれば、どちらに軍配が挙がるかは想像に難くありませんが、そこに行き着くまでの緊迫感に富んだ展開が面白いんですよ。
ミサイルの発射を命じられ、その準備をしているさ中、新たに入ってきた不明瞭な命令書を巡って対立する二人。
後から来た命令書に何が書いてあろうと、撃てと言われりゃ撃てばいいだけの話ですが、これを撃ってしまえば世界中に核ミサイルが飛び交う事態に陥るのは必定です。
命令には盲目的に従うラムジーは軍人の鑑でしょうが、そんな事態は避けたいと願うハンターは人間の鑑。要はどちらも間違った主張はしていないって事です。
本作を見る人に、あなたならどうするか?という問いを投げかける作品でもあるんですよね。
ああいう結末で終わったのは、当時の人類の気風がさせたものなんでしょうが、ネット漬けになった上で冷酷な考えを持つ人々が増えすぎた昨今であれば、別の結末が待っていたかもしれません。
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Blu-ray版の映像特典は未公開シーンやメイキングを収録。
本編を観ていて、ラドチェンコはアメリカと日本を攻撃対象にすると宣言し、どうして日本まで?と思う人もいると思いますが、どうやら北方領土問題に根差すものだった事が未公開シーンで明らかになります。
当時の諸問題を取り扱っている作品ですが、あまり時事ネタを盛り込みすぎて政治的になるのも無粋な話だし、これをカットして公開したのは正解かもですね。ネットが普及している頃だったら、ちょっとした騒ぎになっていただろうなぁ(笑)。
…にしても、ラムジーのラストカットを見てしまうと、現実のハックマンさんの亡くなり方とダブってしまい胸が苦しくなりました。悲しい偶然すぎる…。