たまに間違えるんですが、
✕ 北北西へ進路を取れ
〇 北北西に進路を取れ
が正解です。“てにをは”って難しい、つーか、ややこしいですよね。
…って事で、『北北西に進路を取れ』を観ました。
カプランという男に間違われたロジャーは、タウンゼンドという男の屋敷に連行される。
辛くも逃げ出したロジャーは、この件を警察に話すが、ロジャーの証言と合致する証拠がない。
独自にタウンゼンドを捜し出したロジャーだったが、先の男とは全くの別人物で、しかも何者かにより殺されてしまう。
殺人犯の濡れ衣を着せられたロジャーは逃亡を重ねる中、謎を秘めたイブと出会い……といったお話。
間違えられた男の災難を描いた、アルフレッド・ヒッチコックさんの定番シチュエーションです。
またかよ?と思いがちですが、本作はそんな作品群の中の一つの頂点ではないでしょうか?
冒頭でカプランに間違われるロジャーですが、ここでちょっとした不条理を感じるのは、自分の言葉を全く信用してもらえない点。本人を証明するものがあっても、“偽造”の一言で片付けちゃう始末。
もちろんロジャーはカプランとの接点はありませんが、こちらの証明を一切聞き入れず、何の関連もない人間を一方的に誤解した挙げ句に殺そうとしちゃうんだから恐怖ですよ。
ぶっちゃけ、単にロジャーを連行した男たちの早トチリなんですが(笑)、何の間違いも侵していないという前提で行動しているのが怖いんです。
怖いと言えば、この騒動の黒幕であるCIAによる非人道的な捜査手段。
いわゆる囮捜査が進行中で、CIAのカプランのためなら一般人であるロジャーが犠牲になっても仕方ないという発想にはゾッとします。
結局、そうはなりませんが、こういう出来事は現実にもあるのかな…。
本作の見どころの一つと言えば、だだっ広い平原でのシーン。
“周りに何もない平原で飛行機の銃撃から逃げる”だけの、一言で言えばありきたりに思えるシチュエーションですが、ここのシークエンスはスリルに満ちています。
凶行シーンと言えば暗闇の中で行われるというセオリーとは正反対に、白昼かつ広原という、普通なら決闘として使われるような場を暗殺に利用するのが、意外性があっていいんです。
ただ、この逃走劇の決着の着き方は安易に感じましたが…(笑)。
ヒッチコックさんの作品は、キャラクターの衣装に関しても評価される事が多いようです。手っ取り早い例えでは、服装の色彩がキャラの心情を表しているとかね。
本作で感じたのは衣装そのものではなく、ロジャーの着こなし方。広告会社の社長だからなのか、ロジャーは常に身だしなみをキチンとしていてるんですよ。
↑の逃走シーンを始め、ロジャーは色々と災難に遭い、汚れる事も多々ありますが、キチンとネクタイをしたまま緩めたりしないあたりに、ロジャーの育ちの良さを感じます。
しかも、今後も体を動かす機会が多い想定をしているであろうに、次に着替えるのも必ずスーツという(笑)。
これが近年の作風なら、ネクタイを緩めてYシャツの襟元をはだけてカッコ付けたがるんでしょうけど、クラシック・ダンディは品があるから、そんなスカした真似はしないんです!
クライマックスのさなか、一番乗り切らなきゃいけないピンチが残ってるのに上映時間は……あと1分っ?と焦ってしまいますが、キチンと決着をつけての幕引きとなるのでご安心を。軽く驚きますがね。
本作の見どころの一つであるラストカットに関してペラペラと語るのは、色々な意味で下品(笑)なので黙っていますが、いちいち克明に解説したりせず、暗喩として曖昧に語るのも映画としての見せ方の一つ。
さすがヒッチさん、映画の神様と呼ばれる一人!
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↑のBlu-ray版、これまでのヒッチコック作品に比べると、ずいぶん画質が劣ります。まぁ、他の作品のレストアやらリマスターやらの作業が気合が入りすぎなんですが。
今回は2度目の鑑賞なので吹替版を選択しましたが、吹き替え音源が少なすぎです(体感的に吹き替え=6割くらいに思えました…)。