『麻雀放浪記』を観ました。
戦後、間もない東京。
顔馴染みの虎と再会した哲は、もともと得意としていた博打で日銭を稼ぐようになる。
賭場で知り合ったドサ健と共に麻雀をやるようになった哲は、アメリカ兵を相手にするクラブのママに恋慕の念を抱く。
メキメキと腕を上げる哲は、出目徳の凄腕ぶりを目の当たりにしてショックを受ける。虎の友人でもあった出目徳と組み、ドサ健に挑む哲は……といったお話。
阿佐田哲也さんの『麻雀放浪記』は数多いシリーズ作品のようですが、その中の一編を映画化した作品との事です。
原作=小説を読んだ事がないので分かりませんが、この映画版に関しては一貫して退廃感が漂い、明るい話題が全く出てこないんだから、暗い作品にジャンルされる作品です。…いや、“暗い”のとは違うかな、ハードボイルドと言っても良い感じ?
日本が敗戦した直後という時代背景が、そんな雰囲気に拍車を掛けますね。
タイトルにもなっているし、「麻雀は詳しくないからなー…」と敬遠する人も少なくないと思います。
スポーツを題材にした作品は世の中に溢れていますが、実際の試合のシーンより、その前後のドラマの方が面白い作品って多いじゃないですか? それと同じに捉えて良いと思います。俺ッチも、仕様としてチョンボができないゲームで遊ぶ程度の知識しかないし。
まぁ、上がり役である、九連宝燈[チュウレンポウトウ]と天和[テンホー]あたりは予習しておくといいと思います。
現実として、多くの人はギャンブルで儲けたお金は、あぶく銭としてサッと使って終わると思います。
本作に登場する博打打ちたちが手にするお金とは、自身の矜持。1円でも多く勝って、自分の価値を上げたがるような、愛すべきギャンブルバカなんですよね。バカだけどカッコ良い。
邸宅の権利書や女=一人の人間を手にしたところで、それを財テクや献身に回すようなあざとい計算なんかしないんですよ。
個人的には良い作品だと思いますが、今の時代には相応しくないと言われそうな作品です。
戦争直後の頃の、まさしく男尊女卑を地で行くような描写が多く、昨今の“ふぇみにすと”と呼ばれる連中が見たら、噴飯どころか憤死しちゃいますね(笑)。まぁ、あいつらは“見る”事はできても“読む”ことはできないし。
女が男に尽くすのは当たり前、痛みに苦しむ夫の痔を一晩中舐めていてくれるのが良い妻とされるような(そんな描写は本作にはありませんが)封建的な時代の頃のお話で、本作のまゆみというキャラは、まさにその象徴です。
ドサ健には人権蹂躙(笑)に近い仕打ちをされてばかりいますが、第三者である我々には分かり得ない感情で結ばれている関係である事は、キチンと観るまでもなく分かる事です。
演じる大竹しのぶさんの、白痴的なまでのいじらしさが愛おしすぎます。これ、9割の男が好きになっちゃいますよね…。
クラブのママを演じる加賀まりこさんにも見とれます。
女性陣のみならず、男性のキャストもいいですね。
真田広之さん、鹿賀丈史さん、高品格さん、名古屋章さんと、皆さんいい味を出しています。
中でも、女衒の達を演じた加藤健一さんがカッコ良く、テレビドラマや映画への出演は少ないようですが、チト勿体ない話です。
高品さんや名古屋さんらのロートル陣も、ジイさんにはジイさんなりのカッコ良さがあると気付かせてくれる名演です。
“古い日本映画”というだけで、セリフが聞き取りづらそうな懸念がありますが、皆さん聞き取りやすい喋り方なので、ストレスなく見入れると思います。聞き取れないとすれば、随所に出てくる麻雀の専門用語ですかね。
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Blu-ray版は、美術設定やらコンテやら、この頃の作品にしては映像特典をよくかき集めてきたなという感じ。
先にも述べましたが、聞き取れなかったり分からない台詞を補填できるという意味でも、日本語字幕があるのは良いですね。
KADOKAWAが発売するBlu-rayは、何かしらの付加価値があるのが好きです。
…ところで、本作を観終えた後、『麻雀放浪記2020』の予告編を目の当たりにしたんですが……これは賛否両論あってもおかしくないですよね。
賛否両論とは、“否”が多い時に使われる言葉ですから…。