『クローバーフィールド/HAKAISHA』を観ました。
マンハッタン。
日本への栄転が決まったロブの送別パーティーが催される。ロブの兄ジェイソンに頼まれ、ハッドはパーティーの模様をビデオカメラに収める担当になった。
友人たちがパーティーを楽しむ中、肝心のロブは、恋人のベスと上手く行っていない様子。ジェイソンがロブを励ましている最中に、大きな振動が起きる。
その後、パーティー会場の外で大きな爆発が起きた時、彼らは見た。その原因であろう“それ”を…。
巨大な“それ”は破壊の限りを尽くし、逃げ惑いながらもハッドはビデオを回し続ける。
そんな中、ロブのケータイにベスから着信が入る。先に帰っていたベスは、“それ”によって破壊された瓦礫の下敷きになり身動きが取れなくなっていた。
“それ”が近くにいる事を知りつつ、ロブはベスの救出に向かうが……といったお話。
ひと言で言ってしまえば、破壊される街から逃げるパニックムービーです。
“それ”という破壊者がいたとしても、人智を以ての抵抗が無駄に等しいという意味において、ディザスター(災害)ムービーと呼ぶ方が正確なのかもしれません。
↑の粗筋紹介で、ネタバレ防止のために“それ”という表現をしましたが、これを知ったところで面白さが激減する事はありません。
映画という体を取っているから、本作を見る事を“鑑賞”と言っても間違いではありませんが、“体験”と呼ぶ方が正確かもしれません。
それ故、口頭や文章による情報を知ったところで、そこから本作に“参加”しても差し支えはありません。筆舌に尽くし難いという言葉がピッタリです。
本作の秀逸な、かつ卓越している点と言えば臨場感。
全編が録画している最中のビデオカメラの映像、つまり人間一人の主観なのです。なおかつ、1カットが長いのも良いんです。
それ故、巨大な建造物が壊れる様や“それ”の全身像を引きの画で、大局的に理解させるようなカットがない点が、映画としてはストレスを感じる反面、人間の視点としては生々しいんですよ。
開巻早々、この映像(=本編)は国防省で管理するものであるという旨の断わりが出てきますが、これから見せるのはドキュメント映像であると想起させるような演出も上手いですね。
人間一人のミクロな視点だし、チラッとしか見えなかったりするのに、CGやらセットやらといった視覚効果は全く手抜きを感じさせません。
相当に作り込んでいるはずなのに、それらが少ししか映っていなかったり、一瞬しか見えなかったりと出し惜しみをするんだから贅沢な話ですよね。顕示欲を満たせずに、もどかしい思いをしているスタッフも多い事でしょう(笑)。
85分と、尺はやや短めですが、内容が濃密すぎて、観終えた後の疲労感は半端じゃありません。
“それ”(劇中では“あれ”と呼ばれますが)が何なのかは解明されないし、多くのシーンで一瞬しか見えない。
これ見よがしにドーンと全身を見せず、全貌が明らかにならないのも恐怖を煽りますからね(1作目の『エイリアン』も、そんな感じだったし)。
ただ、終盤になって来ると、中盤までのフラストレーションを解消させたがっているのか、チト見せすぎじゃない?と思わせるくらいに、これ見よがしになってくるのは惜しかったかな。
恐怖映画として勧められる作品ですが、マイナスポイントは少なからずありますね。
評価を下げるほど気にするところでもないんだけど……避難する人々を見て思ったのは、あの地域(主にマンハッタン)には幼児と老人は住んでいないんでしょうか?
あと、せっかく一個人のビデオ撮影風に映した作品なんだから、エンドクレジットにひと工夫が欲しかったですね。荘厳な音楽に乗せて人名が無限にせり上がって来るのは、いかにも”映画”って感じだし。本作をドキュメントとして楽しみたい人は、ビデオの電池が切れたところ=本編が終了した直後に停止する方が、良い余韻を残せますよ。
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今見るならHD版なんでしょうが、さらにリアルな映像を求めるならUHD版と思い込むのは間違いです。
――では、何が正解なのか?と聞かれれば、ビデオテープです。
本編で使われていたのはテープだったじゃん? 重ね録りを表す映像もあったし。
だから、DVDやらBlu-rayやらと、メディアが変わるごとに解像度が上がっていくのは、本来なら本作の趣旨から外れる事でもあるんですよね。
それを考えると、高解像度のメディアで低解像を表現する『28日後…』は、演出の意図としては正解なのです。見ていてストレスは感じますが…。