『大学の若大将』を観ました。
京南大学の水泳部に所属する雄一=若大将は、合宿の費用を稼ぐためダンスパーティーのチケットを売る毎日。
パーティー会場で売るためのアイスの仕入れ口を探す中、雄一はアイス売り場で働く澄子と親しくなり、パーティーへ招待する。しかし肝心のパーティーでは、バンドの先輩やクラスメイトの女性と踊ってばかりの雄一を見兼ねた澄子は会場を出て行ってしまう。
学費を横領していた事がバレ、父に勘当された雄一は箱根で貸しボートのアルバイトに就き、出張に来ていた澄子に再会。そこに雄一をライバル視する石山=青大将も現れる。自分を相手にしない雄一に当て付けるかのように、澄子は青大将のヨットに乗り込む。そこで本性を現した青大将に襲われそうになった澄子は、雄一に救われる。
素っ気ない態度を取っていた雄一と澄子だったが、お互いの気持ちがハッキリしている事に気付き始め……といったお話。
ご存知、加山雄三さんの代表作である若大将シリーズの記念すべき第1作。
その昔、長谷川初範さんがインタビューで語っていたんですが、60年代くらいでしょうかね、長谷川さんが小さい頃の日本映画における男の主人公は、喧嘩っ早くて暴力に物を言わせるようなキャラが圧倒的に多く、子供の目から見れば少し怖くすらあったようです。
そこに登場したのが若大将シリーズで、多少の暴力シーンはあるものの、スポーツで汗を流し、ガッツリ食べて、ロマンチックに歌うという新たなヒーロー像に、長谷川さんも憧れていたそうです(その上で、かつて主演していた『ウルトラマン80』の教師編がサクッと終わった事に割り切れない思いを抱いていたとも述懐していましたが)。
そんな若大将はスポーツ万能(本作では水泳に限ってますが)、他人に頼られれば断れない、小さな事は気にしない、困っている人を見たら助けたくなるという、まさに人好きのするような青年。そりゃ周りからチヤホヤされますよ(笑)。
挫折や苦悩といった要素なんか一切なく、多少の困り事があってもそれが物語全体を包む事はありません。いわゆるサクセスストーリーとは、苦境を乗り越えようとする姿があってこそですが、本作の場合は最初から無敵なので(笑)、そんな泥臭いシチュエーションが皆無な点が潔いというか、お気楽な空気を醸し出しています。
それほどまでに明るい、ハッピーなお話と呼ぶに相応しい作品です。
若大将シリーズとは加山雄三さんのヨイショ映画と揶揄されても仕方ないでしょう。そんなMr.パーフェクトなキャラなんだから(笑)。
けど、そうは言っても黙らざるを得ないのは、実際に加山さんが何でもできちゃうんだから仕方ない。
今作で言えば、ボートを転覆させてしまった親子の元に向かうシーン。モーターボートで駆け付け、浮き輪を投げて、自ら湖に飛び込んで親子を救うシーンがありますが、この一連の芝居を1カットで見せているんだから驚きです。
あたかも本人が演じているように、カット割り等でごまかしてそれっぽく見せるのではなく、キチンと本人が体を張って演じているのって、昨今の日本映画(やテレビドラマ)ばかり見ていると新鮮、かつ軽く衝撃じゃないですか? さも当たり前のように、サラッと見せている自然さも良いんですよ。
加山さんが好きじゃないという人は、こういう点に着目して見てみると僅かに考え方が変わるかもしれませんよ。
本作が公開されたのは1961年=昭和36年との事で、当たり前ながら街並みやファッション等が古く、昭和ド真ん中を堪能できるのがいい。リアル『ALWAYS 三丁目の夕日』というか(笑)。
それに加えて様々な制約、今でいう“こんぷらいあんす”がユルユルどころか、ないに等しいのも良いですね。
水泳大会の会場に向けて車を飛ばす青大将が白バイに止められますが、事情を聞いた警官が、そういう事なら自分の後を付いてきなさいとか言っちゃうんだから、昭和の大らかさ万歳です。まぁ、到着後にキチンと切符を切られますが(笑)。
この後、自分の出番には間に合ったものの、この直前に輸血をしていた雄一は果たして勝利できるのか?と聞かれたところで、もちろん想像通りです(笑)。
挫折や屈辱なんて言葉は存在しない、これが若大将ワールドの魅力!
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まだ若大将シリーズはBlu-ray化されてないんですよね。
1BOX=高額商品としてイッキ出しするより、月イチくらいで発売しないかなぁ。加山さんの音声解説でもあれば嬉しいね。
今回観たのは、その昔にBSテレ東でシリーズ放送したのを録画したものだったんですが、あれはいい企画でしたね。冒頭には予告編まで放送していた(!)んだからマニアックです。
またやってくれるといいですね、寅さんはそろそろ置いといて…。