また、何もない空間に、自分だけが佇んでいる。だが、今度は、それを夢とはっきり認識できたのは、今までみた悪夢ではなく、あの少女が笑っていたから。
「あ…」
声に出そうとしたが、結局、それは言葉にならなかった。そのまま、彼女の笑顔がどんどん遠ざかっていく。
「ちょ…、待っ…!」
だが、みなまで言い切る前に、唐突に覚醒の時は訪れた。
気付けば、そこは自分の部屋。何の意味もなく伸ばされた腕を、ぼんやり見やる。
自分は、何をしていたのだろう。
ぼんやりと考えていると、不意に、すぐ真横から鉄拳が飛んできた。
「いってぇ!!」
思わず叫んで起きあがれば、そこには姉の姿。それも、昨日と同じ。ただ違うのは、壁際にはジムが立っていて、姉が、体中包帯だらけになっている、ということだ。
「姉さん…」
満身創痍の姉の姿に、呼びかけるものの、言葉が見つからない。
そんな弟の心中を察してか、セイルはすぐに背を向けた。
「朝ご飯、とっくに出来てるぞ。早く起きてきな」
少し震えているような声に気付かない振りをして、シェオルは、あぁ、とだけ答える。いつもなら、ここで姉のⅡ式が火を噴くところだが、さすがにそれもなく、彼女はそのまま部屋を出ていった。
部屋に残されたのは、シェオルとジムのみ。
「まさか、貴様がこれほど魔力がないとはな。たかが、破壊程度の、初心者ガイアマスター向けの低位のブースターでぶっ倒れるとは思わなかったぞ」
「……」
それには、思わず反論の言葉が浮かばない。自分の魔力のなさは、自分が一番良く知っている。その、無力さも。
「これでわかっただろ? ガイア・リードに関わると、どうなるか。お前が“エル=アマルナの君”と呼ぶ女が怪我をしたのも、この村がこれほどのダメージを受けたのも、誰のせいだ?」
淡々と続く言葉。そこには、言葉以上の威圧感があった。他の者が持つ、ガイアの宿錬精霊とは違う。精霊の秘めたる力が、押し潰そうとしているようだ。
これが、あの“ガイア・リード”の宿錬精霊となる、高位精霊の力。
わかっている。全てを知っていたわけではないにしても、ある程度の覚悟はしていたのだから。憎むべき相手が、最大の戦力になる、ということくらい。
「そんなの、今更だ。だから、俺は…!」
一発の銃声が、一応みなまで言い切ったはずのシェオルの言葉を遮った。目線をゆっくり動かせば、昨日の銃痕のすぐ隣に、新しい穴。
「何度言わせればわかる! 早くしろって言ってるだろ!!」
「はい…」
実際、何度も言っていない、と思いながらも、姉に逆らうと、自分がこの壁と同様になりかねない。そんな恐ろしい事態にならないためにも、シェオルはダッシュで部屋を飛び出した。
物言いたげに背中を見つめていた、ジムを残したまま。