「何?! マスターとして覚醒しただと!」
叫ぶ黒い悪魔に、シェオルは答えない。
魔力を持たない、自分でもはっきりとわかる、凄まじい覇気。これがガイア・リードの力か、と、今更ながらに思い知る。
「なるほど、これは、なおのこと手に入れたくなった」
先程までの表情を消し、再び男は余裕の笑みを浮かべる。
「貴様を殺してでも、手に入れる価値が出来たというものだ!」
言いながら、振りあげた男の剣に、炎がまとわりつく。そのまま、剣を振りおろせば、炎の龍がシェオルめがけて走る。それを余裕のスピードでかわすシェオルだが、
「遅い!」
既に背後に回っていた男が、剣を振りあげる。それをジムで受け止めると、シェオルは後ろに跳躍し、男と距離を取った。
「何で、そこまで、ガイア・リードにこだわる?!」
男の様子をうかがいながら、シェオルが叫ぶ。すると、黒い悪魔は、一瞬意外そうな顔を見せた後、くつくつと笑い始めた。
「何故、だと? 貴様のような子供にはわかるまい。最高位の精霊を宿錬精霊にした最強のガイア。誰もが、望むものだろう?」
「わっかンねェよ! ンなの!!」
投げ出したスピナーを男は剣で受け、弾く。そのまま、彼は一気に間合いを詰め、剣を振り下ろした。それを、シェオルは何とかジムで受け止める。
「わからんか? お前のように、安穏と生きてきた者には。村を焼かれ、一族を滅ぼされ、絶望の底に沈められた者の気持ちがな!」
「うわぁ…ッ!」
強い力で弾かれ、シェオルは後ろに吹き飛ばされる。剣とスピナー、武器とおもちゃで戦っているような感覚さえ覚える。いや、それ以前に、この男の気迫に気圧されている。
「この理不尽な世界に復讐する。私が世界の王となり、文字通り、腐った世界を革命してやるのさ」
先ほどとは打って変わって、静かに吐き出される言葉。ゆっくりとシェオルに近づきながら、男は冷ややかな目で彼を見下ろす。
「狂ってンな…」
「何とでも言うが良い」
短く言い放った言葉に、はっきりと込められた怒り。だが、今のシェオルには、男の言葉に毒づくのが精いっぱいで、トラウマも相まって、体が言うことをきかない。
「おい、何やってやがる!!」
すぐ隣から響く怒声。立ち上がろうとして、一瞬ふらついた体を、また必死の思いで立て直す。
「く…ッ!」
「覚醒したばかりでは荷が重かろう。極度に魔力を消耗する、ガイア・リードなら余計に、な」
あざ笑うような男の声に、シェオルは返せず、歯噛みする。
確かに、その付加もあるのだろう。祖父のガイアを継いだとはいえ、それは一からの契約ではない。ましてや、これはガイア・リードとの契約。あげくに、トラウマも重なって、体が言うことを聞かない。
「ちっ…、仕方ねェ」
半ば吐き捨てるように言って、ジムは、自分の本体を持つシェオルの手に、自分のそれを重ねる。
「攻撃用の、付加ブースターってやつを教えてやる。てめェみたいなへなちょこでも、ちったぁまともに戦えるはずだ」
「てめ…ッ!」
「言ってる場合か!」
ジムの言いように思わず反論しかけたシェオルだが、黒い悪魔がそれを待ってくれるはずもない。
「はぁ!」
凄絶な気合いと共に放たれた龍を、今度はギリギリのところで受け流す。どうやら、本当に迷ってる時間はないらしい。
「良いか、しっかりガイア・リードを持て。そして、叫べ!」
ジムが言うだけで、必要な言葉が頭の中に流れ込んでくる。何とか体勢を立て直しながら、シェオルは叫んだ。
「ッ…! 付随、破壊!」
刹那、ガイア・リードが激しく発光を始める。隣を見れば、具象化したジムがしっかり相手を見据えていた。
「ジム…」
「行くぞ、構えろ」
みなまで言い切る前に、きっぱりと言い放つジムに、ようやくシェオルはいつもの調子を取り戻す。不思議と、体が軽く、さっきまでの息苦しさが嘘のようになっていた。