「だから言ったのだ。さっさとガイア・リードを渡せ、とな。貴様のような吠えるだけのガキが“世界を革命する力”を扱えるわけがないだろうに」
黒い悪魔の言葉に、具象化した宿錬精霊は何も言わない。きっと、彼も同じことを思っているに違いない。
だが、
「それでも、例えそうだとしても、俺は、こいつを手放さない。手放しちゃ、いけないんだ…!」
「やめておけ、宿錬精霊と対話もできないお前に、何ができる?」
言われ、思わず口ごもる。対話と言うよりは、一方的な質問を繰り返す宿錬精霊。実際、あれ以降、言葉は発していない。
――やっぱり、ダメなのかよ…。俺じゃ、あの子を…ッ!
「村一つ守れんようでは、世界を統べることも叶うまい」
「ッ…!」
その言葉に、シェオルは我に還ったように顔を上げた。相変わらず、宿錬精霊の男はそこにいる。
――そうだ、俺が、世界征服なんて言ったのは、全部あの子のためだ。世界を知り尽くして、あの子を探して助ける!
自分で言った言葉に力を得て、シェオルは、ゆっくりと上体を起こす。震える手で、それでも、もう負ける気はしなかった。
「強い力だけが、人を守る力じゃねェ。自分の意志の強さだって、力になる!」
「何…?!」
叫ぶ声に呼応するように、それまで反応しなかったガイア・リードが輝き始める。次いで、聞こえる声。
〔呼べ〕
「え…?」
今まで、責めるばかりだった声が、一変する。短く、だがはっきりと、シェオルの頭に響いた。
〔お前は、俺の名を知っているはずだ〕
「名前…?」
言われた瞬間、不意に、あの少女の姿が思い浮かぶ。去り際に、ガイア・リードをそっとシェオルに渡し、自分の手を重ねながら、微笑んでみせた、あの光景が。
『それは、世界に五つしかない大事なガイア・リード。貴方の手で育ててあげて? 名前は…』
「ジム=キャリバー!!」
刹那、身を焼き付くさんばかりの業火がシェオルを襲う。だが、熱さは感じない。恐る恐る目を開けてみれば、底には、先ほどの宿錬精霊の男、ジムが立っていた。
「行くぞ」
その声に導かれるままに手を伸ばせば、地面にあったはずのガイア・リードが、そのまま手に収まる。
それが合図だったように、炎が一気に消え去り、シェオルは真っ直ぐ男を見据えた。