魔物を凪ぎ払いながら、ようやく村に辿り着いた時には、凄惨な光景が広がっていた。
さっきまで、高見台から見ていた、活気のある村は、今は悲鳴と炎に包まれ、変わり果てた姿となっている。先ほどの煙など、ほんの発端にすぎないことがわかるほどに。
「くそ…ッ!」
思わず歯噛みするシェオルに、レットが、そっと肩を叩く。
「急ごう。みんなが心配だ」
「あぁ…」
その言葉に促されて、ようやく、シェオルは我に還ったように一歩を踏み出す。
歩く度に、蘇るあの光景。
自分に、必死に手を伸ばしてくれた少女。それから、顔に大火傷を負った、別れ際の笑顔。
炎を見る度に思い出す。忘れてはいけない、と自分に言い聞かせているくせに、結局忘れられないのは自分自身だ。
「おい、シェオル!」
ザグに呼びかけられて、彼はうつむけていた顔を上げる。だが、目の前の光景に自分の目を疑って、一瞬、反応が遅れた。
「セイルさん!」
「姉貴!!」
レットが駆け寄るのに呼応するように、ようやく足が動く。そこには、この村で最強とも言われた姉が、傷だらけで横たわっていた。心なしか、息が浅い。
「待ってください、今、回復を…」
だが、言いかけたレットの言葉を遮って、セイルは、真っ直ぐに弟を見据える。
「シェ、オル…」
「ッ…!」
いつもの横暴な姉らしくない姿に、思わず、シェオルは言葉を失う。ひゅうひゅうと喉が鳴り、目の焦点が合っていない彼女は、それでも、必死で言葉を紡ぎだした。
「…げ、ろ」
「え…?」
「だから、逃げ、ろ…」
いつものような覇気のない声で、それでも、セイルは必死に訴える。
逃げる? 何から?
目の前の出来事、村の状況、その全てがめまぐるしく入り乱れる中で、やけにゆっくりとその言葉が聞こえた。
「狙いは、お前の、ガイア・リードだ」
「え…?」
言われ、思わずポケットに手が伸びる。そして、その言葉に、また、嫌な光景が蘇る。
あの少女に怪我を負わせた、ガイア・リード。それがまた、ティーズの村を窮地に立たせている。
――また、こいつの…、俺のせいで…ッ!
「バカ、早く、逃げ…ッ!」
途切れ途切れに警告する姉だが、その声を遮るように、不意に、熱風が行き過ぎる。振り返ってみれば、そこには、あの高見台で見た男が立っていた。