血と、硝煙の匂い。
そんなもの、もうとっくに慣れたものだ。あの、物語のような生活にはなかった、現実。
それを、まざまざと見せつけられ、帰る場所は、ただ一つ。
「よくやったな、金狼(ゼムファング)、いや、シルエシカ」
「どっちでも良いさ」
不敵な笑みを浮かべる男を前に、俺は吐き捨てるように言った。
何気なく自分の手を見てみれば、当然ながら、そこには何もない。だが、妙な現実感を伴っているようで、吐き気がした。
「だが、まさか、あそこで殺されることになろうとはな。お前でなければ、成しえなかっただろう」
「やめろよ。不死の体なんて、冗談じゃないぜ。あんたのせいだろ、ウォン老師」
満足げに言う男を睨みつければ、相手は素知らぬ顔。全く、誰のせいだ、と、今度は胸中で悪態をついた。
ここ“ウロボロス”は、アズリーのいた組織“ブラック・ヘブン”とは同業者。だが、その決定的な違いは、ウォン博士を味方にしていることだった。
当然ながら、不死の力に対抗できる者は“ブラック・ヘブン”の中にはいない。
『人は、決まった時間があるから、精一杯生きようって思えるんだよ。不死なんて、意味ない』
唐突に、姫の言葉を思い出す。
ならば、あの夜死んでいった“ブラック・ヘブン”の人間達は、意味があったというのだろうか?
「シルエシカ」
しん、としてしまった部屋の中に、響く静かな声。それは、彼の養父であり、この組織“ウロボロス”のボスのもの。
「次の任務に、赴いてもらうぞ」
「あぁ、そうだな…」
気のない返事をしてみせてから、すっと席を立つ。俺からしてみれば、ここまでは予定通りだ。うまくいきすぎて、思わず笑みがこぼれる程に。
「俺の腕を持ってすれば、軽いもんさ。こんなこともね」
「何…?」
ゼロスが言い終わるが早いか、背後に現れた、黒服に身を包んだ女性。油断していたこともあって、彼が振り向く暇もなく、脳天に銃が撃ち込まれた。
「ひぃ…ッ!」
彼にとっては予想外の展開に、情けない悲鳴を上げるウォン老師。
その間に、彼女はゼロスに埋め込まれていた結晶体を割っていた。
「さぁ、懺悔の時間だぜ? ウォン老師」
言って、俺は銃を構える。幾度となく見てきた、目で、助けてくれと懇願する姿。
だが、俺には、そんなもの、通用するはずもない。
「無駄だ。誰のせいで、何年殺し屋をやってきたと思ってる?」
言う俺の隣に、先刻の女性が立つ。その姿に、ウォン老師は思いのほか狼狽した。
「アズリー=アズラエル…」
「さよなら、ウォン老師」
2人同時に、そう言って。
俺は、躊躇なく引き金を引いた。