ゆっくりと姫を見下ろし、俺はようやく一息をついた。
始めから、狙いは彼女だった。
アズリー=アズラエル。
名前も、任務を受けた時に聞いていて知っていた。もちろん、素性も。
だが、いざ、任務の日、彼女は、雨の中、ボロボロになって俺の前に現れた。
正直、拍子抜けだった。
敵対勢力の有能な殺し屋と聞いていた女が、いかにも命からがら逃げてきました、という風体で自分の目の前にいたのだから。
状況は、正直こちらに有利だった。
相手からは、まるで殺気が感じられない。本気の彼女なら、果たして、相討ちに出来たかどうか。
だが、俺は、おもしろいゲームを思いついてしまった。
殺す前に、彼女のことを調べてみよう。
幼い頃から殺人兵器として育てられた女だ。日常生活、というものをどう過ごすのか、少し興味が惹かれた。
それだけのはずだった。
お互い、語れない事情があったから、詮索無用という彼女の申し出はありがたかった。それをそっくり利用して、王子と姫なんて馬鹿げた茶番を演じてみせた。
なのに、日が経つに連れ、アズリーは普通の女の顔を見せ始めた。
これが、本当に暗殺者なのか?
演技している俺とは違い、警戒心を完全に捨て去った女。ある意味、興味深かった。
俺が、夜、こっそり別の任務をこなしていることも気付かない。週1回仕事と言って出ていく時も、普通に見送っていた。本当は、この任務の報告をしに、本部へ戻っていたというのに。
俺は、結局どうしたかったんだろう?
自問してももう遅い。だが、敵対組織の幹部のエルミナを始末できて、結果オーライだろう。
「姫…」
思わず、声に出していた。彼女も、こんなことにならなければ、あの生活を、続けられたかもしれないのに。
「…行くか」
破かれた服の代わりに、アズリーの着ていたコートを羽織り、俺はエルミナの銃を手にする。