以前にロンドン体験したアルバイトについて書きました。今日はその続きです。

 

ロンドンでのアルバイト経験①はこちらから↓

 

 

 

ジュエリーショップでのアルバイト初日。案内されたのはショップの2階にあるジュエリー制作の作業場でした。そこで、紹介されたのはイギリス人のジュエリーデザイナーさん。私は初日から彼女のアシスタントとしてジュエリーのデザインと作製をすることになったのです。

 

「将来自分のジュエリーショップが持ちたい」とマネージャーに伝えたものの、ジュエリーに関する知識はほぼゼロ。私の頭の中では、帰国後はヨーロッパから輸入した商品を扱うセレクトショップの経営をイメージしていました。私の伝え方が具体性に欠けていたため、マネージャーは私が作製も学びたいのかと思いデザイナーのアシスタントにしたようでした。

 

そこで私はデザイナーに聞きました。「私はジュエリーを作ったこともデザインしたこともありません。今通っているフルタイムの学校の他に、パートタイムで夜間のジュエリーデザインコースに通った方がいいですよね?」すると、デザイナーからは思いがけない返事が返ってきました。「学校なんて通わなくても私が一から教えてあげるから大丈夫よ!Don’t worry!」こんな幸運なことがあっていいのでしょうか。

 

その日から専用の作業用デスクが用意され、未経験の私がジュエリーのデザインをし、デザイナーに作製方法を教えてもらいながら、ジェムストーンを使ったネックレスやピアスを作る毎日が始まりました。もちろん最初は店に並べる商品はできないので、一定のレベルに達するまで指導を受け、徐々にデザインのコツがつかめるようになり、さらにデザインしたものを作製できるようになっていきました。今思い返してもこのショップとの出会いは本当に奇跡でした。

 

ところで、そこは小さなショップだったので、私の作業机の数メートル先には社長のデスクがありました。アルバイト初日に、社長とイギリス人のバイヤー担当のスタッフがこんなやり取りをしていました。「納得できません!私のアイディアをもう一度聞いてください!」おそらく20代半ばの若い女性バイヤーのスタッフが社長のデスクに手をつきそう言ったのです。「分かったから、もう一度説明してみて。」と、彼女の言葉に社長は優しく耳を傾け始めました。その後、彼女は冷静に自分の意見を述べ、社長は彼女の意見を尊重しながらも随所で自分のアイディアを伝え、最後にはお互いに納得のいく結論に達したようでした。日本の会社で働いていたころはそのような光景は見たことがなかったので、初出勤の日に目の当たりにした社長と若いスタッフとのミーティングの光景に私はかなり衝撃を受けました。

 

この店で過ごす時間が長くなるにつれて、実はスタッフと社長の信頼関係ができているからこそ、バイヤーの彼女のみならず、他のスタッフ達も社長に堂々と自分の意見を言える雰囲気の職場であることが分かりました。私はここで結局2年間働きましたが、スタッフのチームワークが良く、まるでファミリーのようなとても居心地の良い環境でした。社長がスタッフの意見に共感し、しっかりと耳を傾け聴いてくれるからこそ、スタッフと建設的な意見交換ができ、それが良いショップ運営につながっていたのだと思いました。

 

日本で生まれ育った私の感覚では、上司に自分の意見を伝えることはとてもハードルが高いことです。上司ではなくても、相手が自分と全く異なる意見を持っていたとしたら、自分の意見を正直に伝えることに躊躇する人も多いのではないでしょうか。もしくは自分の意見が絶対に正しいと信じ、相手の意見を受け入れられないこともあるかもしれません。でも、コミュニケーションで大切なことは、自分の意見が優位にあると決めつけず、対等な立場で共感し、その上で相手の話を敬意をもって聴き、自分の意見も伝えることではないでしょうか。

 

英語コミュニケーション講座では、「コミュニケーションの基礎」として「共感」と「A Good Listenerになる」というテーマがあります。ロンドンのアルバイト先での経験は、まさに英語コミュニケーション講座で学ぶことを身をもって経験できた日々でした。次回でこのショップでの経験談は最後になります。どうぞお楽しみに。

 

作業中のデザイナーさんの様子 2005年

 

島根大学 英語コミュニケーション講座講師 Cathy