でえだらぼう | アトリエぽーぽー

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『アトリエぽーぽー』は、創作を楽しむ絵画教室。
講師あけやまひかるは、お月謝袋やレターセットなど、クラフト製品の販売も行っています。
このブログは、生徒さんと保護者さまへ発信していますが、
絵や工作について、みなさまのご参考になれば幸いです。

でえだらぼう



5年生に読み聞かせしました。

ちょっとわんぱくなクラスなので、吸引力の強い、インパクトのある本を選びました。


でえだらぼうは、三十まで足が立ななんだ。

えずごという、藁で編んだゆりかごに、けつを入れて、座敷っぱいにねそべって、

うえー

うえー 

と泣いておった。


と冒頭を読むと、教室が鎮まりました。

聞いている子どもたちの目が、本に釘付けになります。

語り口も独特だし、新居広治さんの版画は力強いし、なにより、こんな大男が赤ん坊と同じなのです。いったいどういうことだろうと、気になりますよね。


でえだらぼうは「足なえ」で、生まれてこのかた、立ったことがありませんでした。

泣き止むのは「ままを食うときだけ」で、ばさまがちりれんげ(スプーンでは小さすぎるから)で、食べさせてあげるのです。


あるとき、旅人の「しわんだじさま」が、でえだらぼうの右の頬と左の頬を、ひとつずつ力いっぱいひっぱたくと、でえだらぼうは、「びっくらこいて」泣き止みます。

じさまが「でえだらぼう、立て!」と言うと、なんと立つではありませんか。


「立ったら立てるもんだなや」


「立ってみると、この部屋はちいせいのう。おらあ、あたまがつかえるや」


でえだらぼうは、しわんだじさまが、旅立つとき、一緒に行こうとします。

引き止めるばさまに、

「泣くなや、ばさま。おらは今まで三十年間、腰を抜かして迷惑をかけたが、世間を見てきたら、今度は死んだじさまの分まで、ばさまサ孝行するでのう」


じさまの荷物を持とうとすると、しかしその小さな袋は、地面に根が生えたかのように、びくともしません。

今となっては馬一頭、自分の頭より上に軽々と持ち上げることができる、でいだらぼうに、持てないとは、いったいどんな重いものが入っているのでしょう。

じさまは答えます。

「おらが耕しとる畑の土がはいっとる」


ここは労働の尊さを伝えようとしている場面でしょう。

新居広治さんといえば、プロレタリアートの代表ですから。

まだ働いたことのないでえだらぼうには、畑の土は重いんですね。


じさまは別れるとき、

「おまえは世間を見に歩いてるだ。よおく世間を見るがよい。おまえが一つ、人さまのために良いことをすれば、、そのたんびに一尺、背が高くなる」

と言いました。

でえだらぼうは、早速、大石を担いで、道の穴を埋め、むりむりと松の木を倒して橋をかけ、ずんずん大男になっていきます。


やがて南の端につくと、そこではてんぐがぶんぶん飛び回って、やりたい放題。

百姓は畑を取られ、若者は労働を強いられ、女は虐待され、ひどいありさまです。

「もう三十年間も、こんな目にあいどおしだ」という若者に、

「三十年と言えば、おらが生まれてこのかた腰を抜かしている間だ。ばさまにちりれんげでままを養ってもらって、うえーうえーと、ないていた間だ。その間、おまえがたはこんな目にあっていたのか! ほんとにほんとに、おら、申し訳ねえ」

そう言って、てんぐに戦いを挑みます。


この戦いは長い年月を要しましたが、ようやく、てんぐを追い払うことができました。


「だどもでえだらぼうは、この国の南の国ざかいで、てんぐの国の方を向いて、今でもずんがと突立っておるそうだ。

そしていまでは、山よりももくもくと背が高いそうだ」


めでたしめでたしと言いたいところですが、死んだじさまの分まで、ばさま孝行するがはずだったのでは?

と、ちょっぴりばさまが気の毒なのでした。