ブッシュマン公演『2024÷1984』鑑賞とキュン?とタイ料理 | 野村眞里子のブログ <オラ・デル・テ>

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3月14日(木)、昨年度のエルスール財団新人賞コンテンポラリーダンス部門受賞者、黒須育海さん主宰のブッシュマンの新作公演『2024÷1984』を拝見するため、高円寺の「座・高円寺2」にうかがった。

 

この不思議なタイトルは、ジョージ・オーウェルの『1984』を創作の糸口としたそうだ。1949年に書かれたこの小説は、ある種のSF小説と言えるもので、未来の監視社会の恐怖が描かれている。

 

黒須さんは、その小説での「『監視社会』『改竄』『性』などのキーワードは2024年の現代でもまったく通用している」として、「その問題と葛藤をブッシュマンの角度で掘り下げ、身体もろとも見えざる監視の影に光を当てていきます」とプログラムに記している。

 

黒須さんのダンスは、コンドルズの公演やYou Tubeの動画など――そして昨年の新人賞授賞式では目の前!――で拝見していたが、劇場で私がブッシュマンの新作を拝見するのはこれが初めてだ。黒須さんには「スケジュールの都合がつかず、うかがえません」とあらかじめお伝えしていたが、チラシに書かれていた次の言葉が気になり、急にうかがうことにした。

 

「2024年の僕のただひとつの願いは、

1984年の君の手のひらで眠ること。」

 

あれっ? 「監視社会の恐怖」のはずが、何だか「ラブストーリー」の香りまで漂うではないか! ここは、黒須さん、そしてブッシュマンならではの切口の新作を見届けないわけにはかない。

 

まったく関係ないことに話が飛んで恐縮だが、一瞬40年前のピュアな自分を思い出す。「2024年に出会った人が、40年前の自分に会いに来てくれたらいいのに」などという妄想に少しばかり胸をキュンとさせながら(笑)、座・高円寺2に向かった。

 

 

 

 

 

公演の概要は下記。

 

タイトル:『2024÷1984』

日程:3月13日(水)19:00、3月14日(木)19:00、3月15日(金)14:00

会場:座・高円寺2

出演:江口力斗、手塚バウシュ、中村駿、黒須育海(以上ブッシュマン)、香取直登、髙橋優太(演劇実験室◉万有引力)、鳥越勇作(椿組)、東野祥子(ANTIBODIES Collective)、髙田恵篤(演劇実験室◉万有引力)

 

会場に入ると、タイトルが舞台後ろに投射されていた。全席自由だったので、前から3番目の右端の席に座った。(開演前と終演後は写真撮影可で、SNS投稿も可だそうです。)なお、以下の文中では敬称略。ダンサーの名前がわからなくなってしまった部分は、ダンサーとだけ書かせていただいた。(すみません!)

 

 

 

 

 

明かりが落ちると、舞台センター前方に黒須育海が立っていた。ブッシュマンならではの黒いパンツ姿で、体を奇妙にくねらせている。背中にはバーコードのようなものが書かれていた。一連の動きの後、一人の男性ダンサーが出てきて言葉を発し、四肢を硬直させてあおむけに倒れた黒須を引きずっていく。

 

こうして始まった『2024÷1984』は、30近くのシーンにより構成されていた。そのひとつひとつを正確に思い出すことは困難だが、いくつもの印象的なシーンがあったので、それについて少しだけ書かせていただく。

 

今回の公演での東野祥子の存在感は目を引いた。彼女は、『1984』の奔放な美女ジュリアなのか?

 

東野は、真っ赤なコートドレスを着て、赤いエナメルのピンヒール姿で威圧感を持って登場した。男たちとの若干のやりとりの後、冒頭から舞台中央に置かれていた鉄骨のような舞台美術の上に乗る。すると、その舞台美術はするすると上がって行った。

 

止まった美術の上の東野に手を伸ばす一人のダンサー。手を伸ばす東野。止めようとするダンサーたち。

 

いくつかのシーンを経て始まった黒須と東野のデュオはかなり激しいもので、手に汗握った。個人的には、二人がすれ違って後ろ向きになる瞬間のポーズが絵としてとても美しく、気に入った。

 

緑色の上着とズボンをはいて椅子に座るダンサーたち、髙田恵篤の語り、椅子を使ったかなりリスキーな動きや椅子取りゲームのような動き。

 

一列に並んだダンサーたちが、伝達ゲームのようにして一連の動きを送っていくシーンは、「改竄」をイロニーを込めて表現したように見えた。東野が「そうじゃない、こうよ!」とばかりに訂正したところも、面白い。

 

終盤近くの、舞台下手寄りでの黒須のソロが素晴らしい。明かりもよかった。

 

立てられた舞台美術から飛び出す、手、手、手。時々顔や体。そこに東野も混じる。

 

最終盤では、立てた美術によって隔てられた上手奥の空間に、東野が立つ。ゆったりとした手の動きから体全体の動きへ。彼女は「女神」のようにすら見えて来る。これも一つのイロニーなのか? こちら側では、椅子を使って踊るダンサーたち。

 

こうして、休憩なし約1時間30分の公演が終了した。大きな拍手。

 

 

 

 

 

観終わると、チラシの2行から私が抱いた「妄想」も、あながち見当はずれでなかったかもしれないと感じた。つまり、「2024年の僕のただひとつの願いは、1984年の君の手のひらで眠ること」というメッセージは、作品にある種のふくらみを持たせ、観客の興味を搔き立てたに違いないから。たとえ、それが作り手の「思い」とは少しずれたとしても、それはそれで黒須さんは気にしないはずだ、たぶん。(笑)

 

(黒須さん、さすがに作り方がうまいな~。これまでコンセプトだけで押しまくるダンスもずいぶん観てきたが、時として眠くなったこともある。笑)

 

終演後、会場にいらした舞踊評論家の石井達朗先生にご挨拶してから、高円寺の行きつけのお店のひとつ「バーンイサーン」でタイ料理の夕飯を食べた。注文したものは下記。

 

生ビール。赤ワイン。突き出しのえびせん。ヘンクントード(海老すり身包み揚げ)。ガイガパオラーカオ(そぼろ掛け目玉焼きのせごはん)。どれもおいしい。

 

 

 

 

 

 

 

かなり無理して予定をこじあけてうかがったブッシュマンの『2024÷1984』だったが、実に面白かった。拝見できて本当によかった。ダンサーそしてスタッフみなさま、お疲れさまでした!