石井智子スペイン舞踊団公演『みだれ髪 情熱の歌人・与謝野晶子』初日を観る | 野村眞里子のブログ <オラ・デル・テ>

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昨日は、石井智子さんが2月19日~20日に日本橋劇場で開催されている『みだれ髪 情熱の歌人・与謝野晶子』の初日を拝見した。

 

 

 

 

 

コロナ禍の中での公演開催は、通常でもたいへんな劇場公演、とりわけ創作フラメンコ公演を、よりいっそう困難なものにしたと思う。

 

すなわち、コンセプトと内容の精査、助成団体とのやり取り、後援者とのやり取り、チケット販売代理店とのやり取り、劇場とのやり取り――私が昨年10月に引退公演を開催した際には、コロナ禍ということでテレワークをしている相手先が多く、すべての進行が遅かった――演出・構成・振付・美術・衣装を練る、共演者決定、共演者のケア、テクニカルスタッフ・制作スタッフ決定、稽古スケジュール組み立て、スタッフ総見の調整……等を、クラスターどころか、一人の感染者も出さないようにしながら行っていかなければならない。本当に、本当に大変だったろうと思う。

 

でも石井さんは、「文化芸術は、人々の心に希望の光を見出し、生きる活力を与える人生に不可欠なもの」という強い思いで公演を実現された。心からの敬意を抱きながら劇場に足を運んだ。

 

初日は、緊急事態宣言の影響で開演時間が18時に変更になった。チケットへの連絡先記入確認、手指消毒、検温などを受けて、一つおきに席を設けたホール内へ。今回、受付でのプレゼント預かりや出演者面会はできないと予想されていたので、スタンド花をあらかじめ贈らせていただいた。受付に飾っていただいていて、感謝。

 

 

 

 

 

以下出演者とプログラム。本日ご覧になる方は、ネタバレしますのでご注意ください。

 

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<出演者>

 

バイレ:石井智子、南風野香、井上圭子、中島朋子、石井智子スペイン舞踊団(松本美緒、小木曽衣里子、清水真由美、福田慶子、樋口万希子、角谷のどか)

カンテ:川島桂子、井上泉

ギター:鈴木淳弘

ピアノ:野口杏梨

チェロ:高橋麻理子

カホン:岩崎蒼生

 

<プログラム> ※途中休憩なし、ただし演奏をともなう換気時間あり

 

●プロローグ

朗読 石井智子

 

1.自由に生きよ! 自由に恋せよ!

「アレグリアス」 石井智子

 

2.こよひ逢ふ人みなうつくしき

「グアヒーラ」 松本美緒、小木曽衣里子、清水真由美、福田慶子、樋口万希子、角谷のどか

 

3.白萩と白百合 ――晶子と登美子――

「カーニャ」 石井智子、南風野香

 

4.目覚めし女たち

「アストゥリアス」 井上圭子、中島朋子、松本美緒、小木曽衣里子、清水真由美、福田慶子、樋口万希子、角谷のどか

 

5.思ひ乱るる

「シギリージャ」 石井智子

 

6.太陽と薔薇

「カンティーニャス」 南風野香、井上圭子、中島朋子、松本美緒、小木曽衣里子、清水真由美、福田慶子、樋口万希子、角谷のどか

 

7.寂寥 ――エピローグ――

「タラント」 石井智子

 

与謝野晶子に寄せる石井の思いが作品として結実した、素晴らしい公演だった。あえて与謝野鉄幹役を選ばず、女性だけで描くという大胆な切り口に、石井の潔さを感じた。

 

石井の朗読、美しい映像を使ったオープニング、そしてV衿の白に紫の差し色の入った着物風の衣装を着た石井が踊る「アレグリアス」。冒頭から与謝野晶子の世界に引き込まれていく。

 

すべてのシーンがしっかり作り込まれていて美しかったが、私がとりわけ印象に残ったのは、「カーニャ」と「アストゥリアス」と「シギリージャ」だった。

 

「カーニャ」は、月間文芸誌「明星」創刊者与謝野鉄幹に恋する「明星」の若きスター与謝野晶子と山川登美子を、石井とゲストの南風野がデュオで踊った。歌と恋のライバルでもあった二人だが、姉妹のように親しく、登美子は身を引く形で父親の決めた婚約者と結婚し、その後夫の結核に感染して30歳で亡くなったという。そうした2人の関係を、迫真の踊りで魅せた。女性同士のデュオもいい!

 

「アストゥリアス」は、婦人解放運動を展開した平塚らいてうの発刊した日本初の女性文芸誌「青踏」の創刊号の冒頭を飾った与謝野晶子の詩「山の動く日来る。かく云へども人われを信ぜじ……」をモチーフにした作品。チェロの緊張感あふれる音色に、カスタネットがからむ。衣装は、ゲストの井上と中島が金色、舞踊団の6人が銀色のもの。V襟ではないものの、着物風のデザインで帯もそれぞれ衣装と同色の金と銀、全員が不思議な髪飾りをつけていて面白い。フォーメーションもテクニックも素晴らしかった。

 

石井は今回の公演でソロを3曲踊ったが、3曲ともシーンの意味を確実に伝えていた。「シギリージャ」は、チラシとプログラムの写真で着用の衣装で踊った。とてもよく似合っていた。鉄幹との恋を成就させるため親兄弟も故郷も捨てて東京に出てきた晶子だが、鉄幹の不実に憤り、悲しみ、他の女性への嫉妬に苦しむ。石井の踊りは、そうした晶子の感情を表わし、秀逸だった。川島の朗読や日本語の歌詞も、このシーンを大いに盛り上げていたと思う。

 

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終演後、石井智子さんは自らマイクをとり、観客に緊急事態宣言下での来場に謝辞を述べられ、この公演にかけた思いや今後ご自身のやるべきことについても話された。思わずもらい泣きしてしまうほどの熱い思いだった。

 

智子さん、初日おめでとうございます。出演者、スタッフのみなさま、すてきな舞台を本当にありがとうございました。あと一日頑張ってください!