スペイン国立バレエBプロとアントニオ・ナハーロ氏 | 野村眞里子のブログ <オラ・デル・テ>

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昨日は、スペイン国立バレエのBプロを観に行った。今回の日本ツアーはAプロを2回、Aプロのリハーサルを1回、そして今回Bプロを拝見したので、これで4回目だ。


アントニオ・ナハーロ氏が芸術監督をつとめる今のスペイン国立バレエは、どんなに忙しくても時間を作って観に行く「価値」がある舞踊団だと、私は思っている。


土曜日は午前中ロシア語のある日。プレッシャーで押し潰されそうになりながらも、昨日もなんとか出かけた。授業の前に先生に検定試験に合格した報告をすると、とても喜んでくださった。


「私、野村さんはぜったい受かると思っていたわ。それにしても、よかった、よかった! 次は3級ね!」


(ハイ、頑張ります……)


授業は相変わらず数字の格変化だ。次々に例文を読んで訳すのが続いたので、「今日は少し楽かな?」と思ったら、これが大間違い。「それでは、今訳したものを全部別の数字に直して格変化してもらいましょう」と先生がおっしゃり、1人まとめて6問ずつ計5回あたった。(汗)


そんなわけで、全員ヘロヘロになって授業終了。宿題になっていた数字の格変化のプリントを提出して教室を出た。1だけでも26種類の変化を覚えなければならない。(涙)










(これじゃ、いつ落ちこぼれても不思議はないかも。)(笑)


午後は仕事を大急ぎで済ませ、渋谷のオーチャードホールに向かった。終演後ナハーロ氏と面会できることになっていたので、一日早いお誕生日プレゼントとエルスール財団の機関紙――ナハーロ氏のインタビュー記事の載ったもの――も持参した。











少し早めに着いたので、劇場内のカフェでシャンパンを飲むことにした。窓の下は、すでにクリスマスの装いだ。








Aプロの初日同様、私の席は最前列のほぼ中央だった。近くにバイラオーラの石井智子さんがご家族でいらしていたのでご挨拶。


17時30分に5分押しで開演した。プログラムは下記のとおり。なお、当初の予定では1部と2部の上演順は逆だったそうだが、演出上の都合で下記のように変更したそうだ。


<第一部>


「サグアン」
1. 序曲:シギリージャとトナー(振付:マルコ・フローレス)
2. 出会い:カンティーニャス・デ・コルドバ(振付:メルセデス・ルイス)
3. プエルト・カイマン:グアヒーラとミロンガ(振付:マルコ・フローレス)
4. カルメンシータの下宿:タンゴス(振付:ラ・ルピ)
5. マントンのソレア(振付:ブランカ・デル・レイ)
6. 思い出の風に(振付:ブランカ・デル・レイ、ラ・ルピ、メルセデス・ルイス、マルコ・フローレス)


「サグアン」とはアラブ起源のスペイン語で「玄関」を意味する。新進気鋭の振付家からベテラン振付家までの4人で作られた組曲は、まさしく観客をフラメンコの世界へと誘う「玄関」のようだった。


すべてのシーンが美しく魅力的だったが、私がとりわけ気に入ったのがメルセデス・ルイス振付の「カンティーニャス・デ・コルドバ」。パレハ(デュオ)で踊るモニカ・イグレシアスとマリアーノ・ベルナルに魅せられた。2人の圧倒的な存在感、美しさ、フラメンコ性に、最前列で観ていてクラクラした。


「マントンのソレア」は、私の師でもあるブランカ・デル・レイ先生の振付だ。マントンとは、四角い大判の刺繍入りのショールで、多くの場合三角形に折って使用する。それを体に巻き付けたり、振り回したりするのが見どころで、フラメンコやスペイン舞踊を踊る人は、いかにそれを美しく見せるかにこだわる。


でも、3年前にブランカ先生のクルシージョ(ワークショップ)に参加させていただいた時、私の固定観念は大きく変わった。


すなわち、「マントンは美しさにだけこだわっていてはだめ。マントンには無限の可能性があり、どんな使い方だってできるのだから、自分で枠を作ってはいけない」ということだ。


こうして、マントンを聖母マリアのベールのように見立ててかぶったり、四角形のまま使ったり、ファルダ(スカート)にはさんだり、バタ・デ・コーラ(裾を長く後ろに引きずるフラメンコ衣装)のように使ったり、ネジネジに巻いて蛇のように床を這わしたり……と、さまざまな方法を学んだ。昨日の公演ではその時のことを思い出して、なつかしかった。


休憩をはさんで二部。いよいよアントニオ・ナハーロ氏の新作振付だ。


<第二部>


「アレント」(振付:アントニオ・ナハーロ)
1. オリヘン(起源)
2. ルス(光)
3. アニマス(魂)
4. アセチョ(見張り)
5. セール(本質)
6. アレント(息吹)


とにかく、ものすごい新作だった!


前回の振付「セビリア組曲」は――今回のツアーではAプロに入っていて3回拝見した――、セビリアの魅力をふんだんに盛り込んだ百花繚乱的な作品で、「スペイン国立バレエの芸術監督」というたいへんな重責を担ったナハーロ氏が、「伝統」と「新しさ」のバランスを考えながら作ったという印象だった。


一方、今回の作品はアントニオ・ナハーロ氏の才能を自由にあますところなく表現するもの、これまでのスペイン舞踊の枠を大きく拡げたコンテンポラリー・ダンスのような作品だった。


発想のオリジナリティーに加え、照明も、衣装も、ダンサーのテクニックも、舞台美術も、斬新な振付も、シーンとシーンのつなぎも、選曲も、その何もかもがすばらしい極上のアート。このような才能ある振付家と同時代に生きていることに、誇りすら感じた。


これは「アニマス」の斬新な衣装――バタ・デ・コーラのような衣装に見えたが、途中で「しっぽ」の部分が外され、それをダンサーたちがマントンのように振り回し、シーンの最後にはフライング装置まで使って天井に釣り上げた――から取れて、私の膝に飛んできた羽根。








(2012年に真駒内セキスイハイムアイスアリーナで開催された「全日本フィギュアスケート選手権」での、高橋大輔選手の世界歴代最高得点を記録した伝説的フリー・スケ―ティング、「道化師」のラスト・シーンを連想してしまった。)


観客の反応は熱狂的だった。最前列の私も立ち上がり、周囲のみなさんと「ブラボー」を繰り返した。


終演後、大急ぎで楽屋へ。大使館関係の方など先客が2組あったが、少し待ってアントニオ・ナハーロ氏にお祝いの言葉を直接伝えた。


「あなたの新作の大成功に対し、心からのお祝いを申し上げます」と少々かしこまった表現を使い、ナハーロ氏にお祝いのベシート(キス)をした。


「あの作品、気にいってくれましたか?」
「はい。もちろんです! 振付も、音楽も、ダンサーのテクニックも、衣装も、照明も、とにかく何もかもすばらしくて、とても気にいりました。」
「ありがとうございます。ところで公演は何回ご覧になったのですか?」
「4回です。」
「それは嬉しい。セビリアやマドリードでもご覧になりましたか?」


その時、今回のジャパン・ツアーのコーディネートをしていらっしゃるフラメンコ研究家/フラメンコジャーナリストの志風恭子さんがこちらに近づいてみえて、ナハーロ氏に「楽屋の入口に飾られている花は、彼女からのプレゼントですよ」と耳打ちしてくださった。


ちなみに、お贈りしたのはこのようなお花。(写真は依頼した花屋さんのホームページからお借りしました。)オーチャードホールはロビーには花を置かず、楽屋に置くシステムだ。東京の新しいホールはこうしたところが多い。








「あんなに素敵なお花を本当にありがとうございます」と、ナハーロさん。持参したお誕生日プレゼントもお渡しした。間もなく帰国となるので、荷物に詰めやすい軽いものを選んだ。芸術監督の必需品(!)ボールペン――黒い牛革巻の高級感のあるもの――とボールペンをおさめて首からかける黒いちりめん(裏が紫)の日本的なテイストの布ケースだ。


さらに財団の機関紙には「うわー、素敵な新聞だね!」と満面の笑みを浮かべてくださった。


(本当に優しくて、親切な方だ。)


最後に記念写真を撮らせていただき、楽屋を後にした。








夜風は冷たかったが、公演の熱気とナハーロ氏の温かさのおかげで心地よく感じられた。