一昨日(3月4日)の朝起きると、前夜ヘレス・オフフェスティバルでその雄姿を拝見したバイラオーラの林結花さんから「ランチをご一緒にいかがですか?」というメッセージが来ていた。
現在、結花さんはスイス在住のためなかなか会えない。二つ返事でOKして待ち合わせ場所に向かった。最初に予定していたお店は急にこの日の開店時間が遅くなって入れなかったため、以前いっしょにランチを食べたことのある「アルカサバ」にうかがった。結花さんのパートナー、ギャビンさんと3人でのランチだ。
12時半はスペインとしては少し早い。まだランチの用意はできていなかったため、タパスを頼むことにした。にんじん、じゃがいものアリニャダ(酢やオリーブで味付けされたもの)とサルピコン。サルピコンには、カニカマも使われていた。(笑)
揚げ物が食べたいという3人の意見で頼んだものが次の二つ。イカのフライとクロケタス。どちらも軽くさくっと揚げてあっておいしい。
急いで仕事に行くギャビンさんを見送った後、デザートのチーズケーキは結花さんと私でシェアして食べた。
この日のランチでの話は、前夜の結花さんのライブと私のロルカフェスティバルのことが中心となった。
「あんな素晴らしいアーティストと共演できるなんて、私本当に幸せです!」と喜びをかみしめる結花さん。
「スタンディングオベーションがすごかった!」と、私とギャビンさん。
「スタンディングオベーションをしていただいたのは初めてで、びっくりしました。」
「それだけでなく、3拍子のアンコールの手拍子もあったわ」と私。
「そうそう」とギャビンさん。
「えーっ、気がつかなかった!」と結花さん。
(もったいない!)(笑)
午後は事務仕事に専念し、気づいてみればもうビジャマルタ劇場の公演の時間が迫っていた。ホテルから猛ダッシュ。すると、私同様ダッシュしている人が多かった。みなさん、オルーコの公演を観て、そのままビジャマルタに駆け付けたようだ。私はチケットが売切れで観られなかったけど――。
私は1階の前から7列目の下手寄りの席だった。偶然にも隣りの方から、「以前クルシージョでいっしょだったことがあるわよね?」と話しかけられた。イタリア人の女性。
(ヘレス・フェスティバルって、年に1度しか会えない世界中の人に会える貴重な機会だ。)
舞台を見ると、幕が開いて明かりがついた状態だ。そこに大きな袋を引きずったヘスス・カルモナが下手から登場する。ガシャンガシャンと大きな音をさせながら――。
引きずってきたものは、大量のタンバリンだった。やがて、5人のダンサー(バイラリン/バイラリーナ)が登場し、タンバリンと戯れる。立っているヘススの手に次々タンバリンを乗せたりもする。まるで、コンテンポラリーダンスの作品を観ているような錯覚に陥る始まりだった。
メモを取りながら観ていなかったので、どういった曲がどのような順番で入っていたかを正確に思い出せなくなってしまったが、女性によるマントンの踊りもあれば、両袖からお腹を上にしてブリッジの状態で登場した男女のデュオもあり、カスタネットの技で圧倒した男性の踊りもある。
ヘススもさまざまな曲種を踊ったが、「ソレア」の基本的なエスコビージャのメロディーを全部4連で取って踊ったり、圧倒的な回転で押しまくったり…というテクニックの部分と、細やかな表現のどちらも素晴らしく、どんどん惹きつけられていく。
公演のタイトル『TENTATIVO』は「仮の」という意味。つまり、ヘススのコンセプトは、完成された作品を観客に届けるのではなく、自分たちが提示するものから観客が何かを受け取り、それぞれのストーリーを作り上げてもらうことにあるようだ。
とは言え、ダンスの完成度は圧倒的だ。「本物のダンスは、何も説明することなく、すべてを語ります」と、フェスティバルの『TENTATIVO』解説ページに書かれているのもうなずける。
最終章で、ヘススが身につけた衣装もとりわけ印象的だった。全身真っ白で、長すぎる袖の上着、さらに白い光沢のあるケープ、スカート、そしてすっぽりとかぶったお面。その姿でずっとたたずんでいる。やがて、「震え」のようなタコンのサパテアードが始まり、それが他の5人に伝わる。そして、ダンサーが次々とヘススから衣装をとっていき、それを椅子に乗って観客に見せる。
特異な衣装から比較的ノーマルな白い衣装になって、「ブレリア」を踊り続けるヘスス。これもなんと見応えがあったことだろう!
圧倒され続けた1時間半だった。大きな拍手。
カーテンコールでは、なんと6人がタンバリンを使って「セビジャーナス」を踊り、観客を楽しませてくれた。もちろん、私も大いに楽しんだ。
終演後、タンバリンや最後の特異な衣装や、その他さまざまなことの象徴的意味を考えたりもしたが、よくわからない。そこで、結論を急がないことにした。
劇場の外に出て、待ち合わせをしていたグラナダ公演のお手伝いをしてくださるNさんと初対面。カンタオーラの遠藤郷子さんと三人で、劇場近くの大混雑のタバンコへ。まずは乾杯。チーズもスペイン生活の長いNさんが注文してくださった。いい味だった。
テーブルと椅子が空いて座ってからは、Nさんと公演の打ち合わせもできた。また、ヘレス・フェスティバルに来ていらっしゃる初対面のお二人とも話したり、いっしょに写真を撮ったりした。
こうして、ヘスス・カルモナの衝撃的な作品を観たエキサイティングな夜が過ぎて行った。






























