いっぱいのかけそば | 溢れる想い 〔ポエムのささやき〕

溢れる想い 〔ポエムのささやき〕

心から溢れた言葉をつなげて、文章にしてみました。
あなたの小さな何かになれたら嬉しいです。

本当なら

去年までなら

年越しは駅前の

老舗の蕎麦屋で

年越し蕎麦を

食べていた…。

でも今年は

そうも行かない…。

私が倒れて

今、病院のベッドで

横になってる…。

「悔しいなぁ〜」

そう呟くと

夫の顔が浮かぶ…。

夫は本来

蕎麦よりも

うどん派だ…。

そんな夫を

私は蕎麦派と

引っ張った…。

無理に

強引に

こっちの世界に

引っ張った…。

「来年も、よろしくね…。」

私は毎年

大晦日に

老舗の蕎麦屋で

あなたに

一年の感謝をする…。

あなたは

蕎麦をすすりながら

ちょっと頷く…。

それが我が家の

年末のルーティンでした…。

ベッドで

うとうとしてると

廊下から大きな足音…。

『はぁ、はぁ、はぁ…。』

あなたが私の

病室に入ってきた

するとテーブルの上に

そっと何かを置くんだ…。

『買って来たよ…。』

ビニール袋から

丼がふたつ…。

あなたは私に

その丼をそっと

手渡してくる…。

蓋を開けると

それはお蕎麦だった…。

いつも行くお蕎麦屋から

ここまでは一時間…。

もう汁は蕎麦に

吸われちゃって

ただの塊に

なっちゃってる…。

あなたはこれを

一時間かけて

私に持って来てくれました…。

少し急いで

少し焦って…。

あなたが

これを持って

電車を乗り継いでいる

その姿が

目に浮かぶんだ…。

固まった蕎麦を

口にする…。

一時間も経っているのに

こんなにも温かい

温かすぎて

涙が溢れる…。

鼻水をすすりながら

蕎麦を食べる…。

今年も

あなたと一緒に

年越し蕎麦を

食べられた…。

「来年も、よろしくね…。」

今年も、また

この言葉をあなたに

言うことが

できました…。

私、頑張るよ…。

頑張って退院したら

老舗のお蕎麦屋に

一緒に行ってね…。

私は病室じゃなくて

あの老舗のお蕎麦屋で

いつも決まった

あの場所で

あなたに言いたい…。

ありがとう、あなた…。

こんな女を

妻に選んでくれて

本当に

ありがとう…。

何十年も

私の側に居てくれて

本当に本当に

ありがとうございます…。