「お兄ちゃん!」
弟は毎日
お兄ちゃんと一緒に居ます…。
兄は言葉を使えません…。
それでも
兄はいつも弟と
毎日一緒に暮らせる事が
とっても幸せでした…。
二人で手を繋いで
土手を歩いたり
一緒に空を見て
雲を探したり
風を感じるだけで
とても幸せになります…。
兄は言葉を使いません…。
ある日
父親から
拳で殴られた…。
理由はありません…。
ただ仕事が上手くいかなかっただけ…。
お酒を飲んだ勢いだけ…。
そんな理由で殴られました…。
そんな時代でした…。
言葉を発すれば
言い返せば
今度は弟が殴られる!
そう思うとこの痛さは
自分だけでいい!
兄は自ら声を閉じました…。
どんなに殴られても
兄には弟がいてくれました…。
辛い時は必ず
弟の掌が兄を助けてくれました…。
朝起きると
大好きな弟が居ません…。
玄関に置いてある
釣りの竿がありません…。
兄は慌てて裸足で走り出す…。
池に辿り着くと
弟の声がする…。
「お兄ちゃん!」
弟が足を滑らせて
池で溺れています…。
兄は木の枝を折って
弟に近づける…。
でも届かなくて
泣き出しそうになった…。
その時
身体中が急に熱くなって
「たすけて!」って
大声で叫んだ…。
すると近くの畑にいた
男の人がやって来て
弟を助けてくれました…。
溺れた弟の身体をさすって温める兄…。
「水は飲んで無いから大丈夫!」
そう言うと畑の男の人は
帰って行きました…。
弟を背負って家に帰った…。
その途中
兄は泣きながら弟に謝ってた…。
「たすけてやれなくてごめん…。ほんとうにごめんな…。」
家に着くと
父親が起きていた…。
「何処に行ってたんだ!」
弟をそっと下ろすと
父親が兄に殴りに来た…。
兄はそんな父親を
思い切り突き飛ばした…。
「おまえはゆるさない!」
そう言って弟を背負って家を出ました…。
「おとうとをまもるには、こえをださなきゃだめなんだ!」
何度も何度も呟いた…。
兄はさっき弟を助けてくれた
畑の男の人に土下座をした…。
「ぼくたちを、たすけてください…。なんでもしますから…。」
畑の男の人は理由も聞かずに
自分の家に二人を住ませてくれました…。
兄は畑の男の人から文字を習った…。
次の朝には畑を耕す事を
教えてもらった…。
三人がまるで
本当の家族のように思えました…。
兄はただ弟を守りたかっただけ…。
ただ、それだけ…。
その為には声を出さないと
守れない事を知った…。
自分が文字を知れば
弟も知る事が出来る…。
自分が農業をできれば
弟にたらふくご飯を
食べさせる事ができる…。
お米をを沢山作れば
弟を良い学校に
行かせてあげられる…。
そうやって生きて来ました…。
月日は流れて
今日は弟が長年勤めた会社の
定年退職の日です…。
その最後を会社の人間と過ごさず
大切な兄と過ごします…。
「兄貴、今まで本当にありがとう!」
弟が頭を下げました…。
「兄貴、あの時は辛かったよな?」
弟が兄に話す…。
兄は黙って目を閉じる…。
「俺ね、兄貴の弟に生まれて良かったよ…。」
そう言って兄の掌を包む…。
兄がそっと目を閉じる…。
今まで二人で生きて来た
その年月を数えた…。
目を開けると弟が居る…。
兄は弟が居れば
ただそれだけで幸せだった…。
兄が泣いた…。
弟が泣いた…。
誰かの為に生きる事は
とっても尊い…。
守りたい人が居ると
人は必ず強くなれる…。
目を凝らせば
大切な事は
この世に沢山ある事を
神様はそっと
兄弟に教えてくれました…。
兄は涙を拭きながら笑った…。
「神様はいるんだよな!だって神様は俺に弟を作ってくれたんだから!」
