流れ行く者: 守り人短編集 (新潮文庫)の感想バルサ13歳タンダ11歳の時の物語。バルサがカンバルからジグロと共に逃げ出してから7年。本編ではほとんど語られる事がなかったジグロという人物を垣間見る事が出来た。短編集でタンダの住む村の情景が詳しく描かれ幼いバルサとタンダの心の交流が良い。そしてジグロはバルサに普通の親とは違った方法で彼女を護る。自分がいつ死ぬとも分からないこと自分が死ねばバルサは自分で自身を守るしかない。だがバルサはジグロに護られるだけではなく重傷で高熱を出して倒れたジグロを救ったのはバルサの機転と介抱によるもの。
読了日:10月18日 著者:上橋菜穂子
雪密室 (講談社文庫)の感想法月綸太郎と父である法月警視が活躍する。法月警視は信州の山荘「月蝕荘」へ招待される。そこには他に四組の客が招かれていた。翌朝招待主の篠塚が離れで首を吊って死んでいるのを発見される。母屋と離れの間は雪で覆われ発見者の足跡しかなかった。招待客は皆篠塚に弱みを握られ強請りの対象になっていて誰もが殺害動機がある。現場には犯人の足跡がなく離れには鍵がかかっているという二重密室。法月警視は孤軍奮闘するが分が悪く息子の綸太郎に応援を頼む。エピソードが最初と最後にあり趣向を凝らしているのが良い。
読了日:10月18日 著者:法月綸太郎
あなたのための誘拐の感想高輪署管内で少女誘拐事件が起こる。犯人から警察に通報するよう指示がありその犯人はゲームマスターと名乗る。4年前ゲームマスターからの挑戦に敗れ被害者を殺害されてしまった忌々しい事件。その事件で刑事だった上原は辞職していたがゲームマスターは上原を出せと要求。上原は指示に従い東京都内を走り回る。巧妙な言葉のトリックに騙されながら解いていき念願の解決を果たすも実は真実は違い…。その結果再び人質は殺される。ラストにタイトルのあなたのための誘拐の意味が解った時の驚きには参った。
読了日:10月19日 著者:知念実希人
失踪者の感想山岳カメラマンの真山は10年前に登攀している最中クレパスに落ちた友人である樋口の遺体を引き上げる為南米ペルーに聳えるシウラ・グランデ峰を登っていた。だが発見した遺体を見て真山は驚愕する。その遺体は10年前より歳を取っていた。樋口は生きていたのを何故隠したのか、生還したことを明らかにしなかったのか?何故再びシウラ・グランデで死んでいたのか?真山は樋口の真相の謎を追ううちにある事に気づく。現在と過去を行き来しつつ真山と樋口の出会い次第に育む友情そして決別と描かれ樋口が同じ場所で死んだ理由には重大な秘密が。
読了日:10月19日 著者:下村敦史
野火 (新潮文庫)の感想フィリピンのレイテ島を舞台に敗兵となった田村の死を覚悟した上での極限の彷徨が描かれ戦争の残虐さを目のあたりにした。太平洋戦争末期レイテ島で病気のため追い出された田村が飢えに苦しみながら熱帯の山野を彷徨う。そこで彼が体験するのは人が人を喰うという凄惨なもの。だが田村は最後まで人としての尊厳を守るが食うものに困り果てた挙句にとうとう食人というタブーを犯してしまう。戦争を知らない私は軽軽に語ることは出来ない。とても難しい作品だと思う。
読了日:10月20日 著者:大岡昇平
おしい刑事 (ポプラ文庫)の感想推理力が抜群で華麗に犯人を追い詰めるのだが必ずといって最後の最後にまさかの展開が起き横出刑事に手柄を持っていかれてしまう「惜しい刑事」と呼ばれる押井刑事。短編集5話でラストには上司たちにまで屈せざるおえなくなってしまった押井刑事。残念で不憫な押井刑事もっと頑張ってほしかった。
読了日:10月21日 著者:藤崎翔
向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)の感想ミチオがS君の首吊り死体を見つける所から始まるしかし警察が到着した時にはあったはずの死体が忽然と消えていた。そんな不可思議から夏休みのある日S君がクモに姿を変えて現れる。自分は殺され死体を見つけてほしいとミチオと妹のミカは事件の真相を追い始める。登場人物は皆どこか壊れていてヒステリックな母親、変態性癖の教師、死体の足を折る犯人など、そしてこの人物もというくらいある物に生まれ変わっている。違和感を感じながら段々と真相と共に明らかになるラスト。意外な展開と衝撃、人間の狂気と残酷さに胸を押しつぶされる物語だった
読了日:10月21日 著者:道尾秀介
虫たちの家の感想九州にある通称虫たちの家にはネットにより傷つけられた女性達が名前を捨て暮らしている。名前が分かるとネットで調べられてしまうので代表者が名付けた虫の名前でお互いを呼び合い本名は知らない。そしてネットの利用は禁じられていた。だが自分の居場所を守る為掟を破りネットで一人の女性の過去を検索してしまう。ところが虫たちの家に戻ってみると今までの行動が全てばれていた。居場所を守る為の行動が逆に居場所を失うことになってしまうネットと復讐という怖い内容であるが女性達が名前を取り戻し新たな人生を歩むという希望があり良かった。
読了日:10月22日 著者:原田ひ香
総理に告ぐの感想ノンフィクションライターの小林は大物政治家の回顧録のゴーストライターの仕事を依頼される。その元政治家は与党の幹事長まで勤めた人物から現総理の隠されたスキャンダルを聞かされる。だが公安からマークされていたのをすんでのところで逃げ出す。小林は警視庁の黒澤にたよる。黒澤はNEO(特別治安室)に異動したばかりでNEOにもたらされたスキャンダルを立場上追い込むことも出来ず小林はひょんな事からテレビ番組で…。ラストにかけての展開は迫力があり政治家の圧力に屈しざる負えないマスコミだったがスカッとする結末面白い。
読了日:10月23日 著者:永瀬隼介
白衣の嘘の感想医療の世界が舞台の短編ミステリー。具合が悪くなり病院や医師へ信頼こそすれ疑うことを忘れがちだが本当にそれでいいのだろうか。医者も人だからいろいろ葛藤もあるだろう。人というのは時に本心を表されなくうまく動けなくなることもある。それぞれの物語の結末はグッと胸を突かれ心に残る。病院で起こる人間模様を見事に描かれていると思う。
読了日:10月23日 著者:長岡弘樹
新装版 マジックミラー (講談社文庫)の感想湖畔の別荘で持ち主の妻が殺された。夫とその双子の弟が疑われるが彼らのアリバイは完璧だった。だが被害者の妹は疑いが晴れず姉の大学時代の恋人だった推理作家空知と共に探偵の小桑に調査を依頼。双子の兄弟の完璧なアリバイを崩すことから途中で起きた双子兄弟の殺人事件の犯人が持つアリバイ崩し、そしてラストの二重の大仕掛けには度肝を抜かれた。初期の作品でシリーズではない読み切りのミステリー面白かった。
読了日:10月25日 著者:有栖川有栖
犯罪小説集の感想犯人捜しでも動機探しでもない人間を描くことがミステリーという短編集5話。貧困や周囲の環境により陥る悲哀を感じる犯罪、裕福であったり栄光の頂点に立った人間が自業自得で落ちていく姿。人間の弱さをここまであぶり出している見事な描写に圧倒された。
読了日:10月25日 著者:吉田修一
いなくなった私へ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)の感想人気絶頂のアーティストの梨乃は渋谷の雑踏で目を覚ます。だが誰も梨乃とは認識してくれない、それに自分の自殺のニュースが大型ビジョンで流れていた。生きているのに死んだと思われ家族でさえも分かってくれない。そんな彼女の理解者は大学生の優斗と彼女の自殺現場を見てショックを受け車道に飛び出し轢き逃げされ亡くなった小学生の樹だけ。その他の人には20歳の女性にしか見えず、輪廻の泉に纏わる手記が所々に挿入され梨乃は生きているのか死んでいるのか。しかし全ての謎が繋がり明るい未来が開かれるラストは良い。
読了日:10月26日 著者:辻堂ゆめ
ヒカルの卵 (徳間文庫)の感想卵にかけては人一倍愛情を注ぐお人好しの養鶏農家のムーさん。村おこしのため限界集落の山奥に出来た卵かけご飯専門店を開く。初めは村おこしに消極的だった村の人たち皆を盛り上げようと巻き込んでしまう心意気なムーさん。小さな村に暮らすあったかな人たちの笑いあり涙ありの日々。ムーさんの両親双方の言葉はとても素晴らしく更にはムーさんの友達も皆温かく卵かけご飯が無性に食べたくなった。
読了日:10月26日 著者:森沢明夫
魔神の遊戯 (本格ミステリ・マスターズ)の感想御手洗が日本を去ってからスウェーデンの学者仲間とのお茶会で語られた事件。凄惨な事件に絡む幻想的なエピソード。曇り空から聴こえる魔神の咆哮、ロドニーの不思議な記憶、魔神の仕業としか思えない死体の切断状態と現実ではありえない幻想的な謎。その謎の全てが現実的、理論的な解決がされているのは圧巻だった。物語全体を通して仕掛けられた古典的なトリック私は見事騙された。
読了日:10月27日 著者:島田荘司
教室の灯りは謎の色の感想塾で起こる謎を高校生の遥と塾の講師の黒澤が解決していく。遥は父と義母の3人暮らし、義母が働く高校へ通っていたがある理由から不登校に。黒澤のアドバイスが独りだった遥の気持ちを少しずつときほぐしていく。遥は少しずつ心を開き前向きに人とも関わろうとするように。読後感も良い青春ミステリー続編を期待したい。
読了日:10月28日 著者:水生大海
漂う子の感想主人公はカメラマンだが定職がなく父親とも確執があり恋人と結婚に踏み切れず結婚や子供を持つことに躊躇がある。教師である恋人から教え子が行方不明になりその女児を探すことからNPOと関わりある事件に巻き込まれていく。居所不明児になった女児。現実でも本書でも決定的な対応策がなく本書に出てくる子殺しは社会の罪というのが印象に残った。日本は豊かに見えるが戸籍がない子供や住民票がある住所に居住しないで就学もままならない行方不明の子供がいることを本書を読み学べた。早く居所不明児という子供達を救うことが出来ればと思う。
読了日:10月28日 著者:丸山正樹
深追い (新潮文庫)の感想事故死した夫のポケベルに夕食のメニューを送り続ける妻の心に迫る「深追い」。郊外にある三ツ鐘村と揶揄される三ツ鐘警察署を舞台に綴られた短編集。それぞれ独立したストーリーになっているのだが、ひとつひとつ読み進むうちに警察官としてひとりの人間としての葛藤を通し主人公達それぞれの立場から見た警察の有り様を通して極めて特殊な警察という組織が立体的に浮かび上がっている。深追いで見られる楚々とした優しさが良い。
読了日:10月29日 著者:横山秀夫
十年交差点 (新潮文庫nex)の感想10年というテーマに5人の人気作家達が自由に物語を書いたもの。それぞれの個性がカラフルにきらめく読み応え満点のアンソロジーというだけあり正にその通りで意外な結末の作品や幸せということについて考えさせられる作品、切ない作品など多彩な作品を満喫できる面白いアンソロジーだった。
読了日:10月29日 著者:中田永一,白河三兎,岡崎琢磨,原田ひ香,畠中恵
ミハスの落日 (創元推理文庫)の感想表題作のミハスの落日他世界5都市を舞台に描かれたミステリ短編集。すべて現地取材を敢行した上でミステリとしての意外性や驚きを盛り込んでいる。現地の空気に触れて想像力を刺激され短編集を書かれているのが素晴らしい。意外性というので「ミハスの落日」や「カイロの残照」は特に面白かった。
読了日:10月30日 著者:貫井徳郎
日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ (新潮文庫)の感想学生時代に茶道を始めた著者。始めたばかりの頃の稽古場や茶会でのいろいろな出来事や珍事を回想。年を重ねるにつれ茶道の見方や季節の味わいなどに目覚める過程と共感することが多い。人生いろいろとあるが今を生きることの大切さ日日是好日の考えを教える茶道で救われることがあるというのを受けとめた。
読了日:10月30日 著者:森下典子
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