ザシキワラシ  そして、無敵オタクの死の病床 | 黄昏黒猫屋敷ー布人形とイラストの小部屋

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世間からかなりずれている管理人、黄昏黒猫堂こと黒猫が自作人形やイラストを発表しつつ、ニート、ひきこもりなど生きずらさを考える。(画像一覧で作品を見ていただけるとうれしいです。)

 ザシキワラシは、元は座敷童子という愛らしい妖怪でした。人間世界の片隅で暮らしていましたが、人形に姿を変えて黄昏森にやってきました。「ワラシちゃんはどうして黄昏森に来たの?」、と聞かれると、「もう、人間の世界でアタシの住む場所が無くなってしまったの。人間は野良猫たちからさえも住む場所と命を奪ってしまうの。だからあたしのような力の弱い妖怪も住めなくなってしまったの。」、そう言ってザシキワラシは寂しそうに微笑みました。

 

 今日は、4時で早退して、末期がんを患って入院している元同僚のT氏を見舞ってきました。彼とは僕が癌になる前、同じ部署で4年ほど組んで仕事をしていました。T氏は天涯孤独で家族もなく、職場でも周囲に合わせることができず、孤立していました。孤立しているにもかかわらず、彼は職場では無敵でした。上司が一言彼に何かを言うと10倍で言い返してくるので(しかも猛烈なマシンガントーク)、上司も結局折れてしまい、周囲も触らぬ神に祟りなし、と遠巻きにしている感じでした。そんな彼でしたが、不思議と僕とは馬が合い、結構楽しく一緒に仕事ができました。彼はけっして攻撃的な人物ではありません。ただ、意味のない同調を求められるのをひどく嫌っていただけでした。僕と彼が上手くやれたのは、僕が職場の付き合いに興味がなくて、とっとと仕事を終わらせて自分の世界に戻りたいというタイプだったからでしょう。

 彼は、いわゆるオタクでした。金曜の夜の高速バスで東京に向かい日曜の夜の最終の高速バスで帰るまで、東京のアキバで過ごしていました。夜はカプセルホテルやネットカフェに泊まり、週末のアキバを満喫していました。アキバが彼の「世界」で、彼のアパートの「2次元もの」やフィギィアが彼の現実で、日常は彼にとってあくまでも仮初のもので、日常の人間関係は些細なものに過ぎなかったようです。彼が職場で孤立していてもやっていけたのは、それをまったく意に介さない程の「無敵のオタクの世界」を持っていたからではないかと、僕は短かく浅い付き合いながらも、そう感じました。彼の生き方に是非を言うつもりもなく、僕の趣味と合うわけでもありませんが、面白い奴もいるものだな、と思っていました。僕もどちらかというと変人の部類で、タイプは違っても、なんとなく彼とは仕事がしやすかったです。

 そんな彼に癌が見つかって、しかも、もう手の施しようのない状態の末期癌。入院してからしばらくして、彼から退職願が出されたと聞き、「ダメなのだな。」と思いました。今は隣の部署なので彼の情報は耳に入ってきます。「見届けなければ。」なんとなくそう思い、今日、彼に会いました。もう骨格標本のような痩せて萎れた体は口を開くのもやっとの様子でした。とても話ができる状態ではありません。身寄りもなく、親族が見舞いに来るわけでもない。彼は力なく、「ありがとう。」といい、やっとの思いで手を差し出しました。その手を握ると、まるでミイラのように細く、崩れてしまいそう。礼を言われる筋合いはない。僕はただ、強大な、「もうひとつの世界」を持った人間と生きているうちに会っておきたかっただけです。彼の世界はくだらないと言われるかもしれない。キモイ、気味の悪い世界と思われるかもしれない。でも、それは鋼鉄のように強かったと思う。「満足できたかい。」、と聞きかけたけど、やめた。それを僕が知る必要はない。それはいずれ、僕自身が僕に問うことになる。「ありがとう。」という言葉だけでいい。

 

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