花菱
「(スマホで通話をしたまま入ってくる)うん。うん。
 どんな感じ?
 ・・・そうか。」


「おかえ・・・。」

花菱
(通話中のジェスチャー)


(『了解』の合図をする)

花菱
「(通話中)いや、こっちもいなかった。
 あとでもう少し探してみる。
 ・・・うん。それじゃ(通話を切る)。」


「なんかあったの?」

花菱
「いや、大丈夫。ただいま。」


「おかえり。」

花菱
「どうだった、花火。」


「うん。うちのベランダからも見えた!」

花菱
「よかったー。」


「ホントにあれ打ち上げたの?」

花菱
「ホントだよー。」


「すごーい!
 これで一人前の花火師ね!」

花菱
「オレはやるときはやる男なんだよ。」

バイブ音
「ウィーン。ウィーン。」

花菱
「あ、ごめん。」


「うん。」

花菱
「(スマホで通話する)もしもし?
 ・・・もう少し捜索範囲を広げてみるか。
 そうだな。半径3キロ圏内にしよう。
 あとでオレも向かうから。それじゃ。」


「何?なんかあったの?」

花菱
「大丈夫大丈夫。
 それより、花火キレイだったろ?」


「最高!
 特に最後の大玉!
 えーと・・・、なんていうんだっけ?」

花菱
「六尺玉。」


「それ!すごい迫力だった!」

花菱
「歴史に残る大玉だからね。」


「親方も褒めてくれたんじゃない?」

花菱
「(トーンが落ちて)うん・・・。」


「・・・え、なに?」

花菱
「・・・いや、あの・・・。」


「なになに?」

花菱
「・・・親方、行方不明なんだ。」


「え、どういうこと?事件とか?」

花菱
「まだちょっとわからない。」


「警察には?」

花菱
「まだこれから。
 とりあえず今、みんなで探してる。」

 


「あぁ、さっき電話してたのって・・・。」

花菱
「そう。

 オレも着替えたらもう一度現場に戻って探す。」


「親方を最後に見たのは?」

花菱
「花火大会直前の最終打ち合わせでは全員が確認してる。」


「その後は?」

花菱
「打ち上げ中はわちゃわちゃしてたけど、
 みんな別々のタイミングで親方を見てる。」


「でも全てが終わったら・・・。」

花菱
「いなくなってた。」


「警察に連絡した方がいいんじゃ・・・。」

花菱
「いや、案外ひょこっと出てくるんじゃないかと思って。」


「あなたはいつ最後に親方を見たの?」

花菱
「大会の中盤でチラッと見たな。」


「そうなんだ。」

花菱
「最後の六尺玉を入念に確認してた。」


「まぁ、目玉だもんね。」

花菱
「自分の背丈と六尺玉の大きさを比べたりしてて。」


「それ、確認なの?
 ちなみに六尺玉って何センチ?」

花菱
「180センチくらい。
 親方より一回り大きい。」


「ふーん・・・。
 で、自分と六尺玉のサイズを見比べてたんだ・・・。」

花菱
「そうそう・・・。」


「・・・。」

花菱
「・・・。」


「・・・。」

花菱
「・・・。」


「そん・・・なことないわよね?」

花菱
「ないない!」


「よぎった?」

花菱
「ちょっとだけ!」


「ないわよね?」

花菱
「ないない!」


「危ない危ない。
 そんなわけないわよ。」

花菱
「もっと現実的な可能性を考えないと。」


「そうよね。
 えーと、花火大会前に親方何か言ってなかった?」

花菱
「六尺玉の技術的な話をしてたな?」


「技術的な話?」

花菱
「どのくらいのエネルギーで花火は打ち上がるのかとか。」


「なんか難しそうな話ね。」

花菱
「例えば親方と同じ60キロくらいの重さの物体が
 球の上に乗ってても打ち上がるのかとか・・・。」


「あー・・・。」

花菱
「・・・。」


「・・・。」

花菱
「・・・。」


「違・・・うわよね!」

花菱
「違う違う!」


「そんなことしないわよね!」

花菱
「大の大人が!」


「仮にも親方と呼ばれてる大人が!」

花菱
「孫もいるであろう大人が!」


「危ない危ない・・・。
 どうしてもある仮説が頭をよぎるんだけど。」

花菱
「違うから。
 仮説を考えるとしても、もっと可能性の高い仮説を考えないと。」


「そうそう。
 ・・・ちなみに花火大会前の親方の格好は?」

花菱
「頭にハチマキ。」


「ハチマキ。」

花菱
「上は法被。」


「法被。」

花菱
「下は動きやすいズボン。」


「ズボン。」

花菱
「あと、パラシュート。」


「パラシュ・・・違うわよね!」

花菱
「違う違う!」


「そんなことないわよね!」

花菱
「絶対ない!」


「でもパラシュートつけてたのよね!」

花菱
「見間違いかも!」


「見間違いよね!」

花菱
「見間違い!」


「怖い怖い・・・。
 いろんな状況が一つの結論を示してる気がして・・・。」

花菱
「やめて。
 だとしたら、引き金を引いたのは自分ってことになるから。」


「そうね。
 今、親方探してるんだっけ?」

花菱
「自分も着替えたらもう一度現場に戻るけど。」


「一応・・・、
 一応地面だけじゃなく、
 上も見た方がいいんじゃない?」

花菱
「一応ね。」


「一応よ、一応。
 ないと思うけど一応。」

花菱
「(スマホを操作)とりあえず上も探すように同僚にはメールしておいた。」


「あとは花火大会中に気になることとかあった?」

花菱
「わちゃわちゃしてるときに何かつかんだ気がする。」


「つかんだ?」

花菱
「パラシュート的なものを。」


「パラシュート的なものを?」

花菱
「で、そのまま人の流れに引っ張られて、取っちゃった気がする。」


「パラシュート的なものを?」

花菱
「親方から。」


「親方から?」

花菱
「で、直後に六尺玉の打ち上げになって。」


「パラシュート的なものを着けてないまま?」

花菱
「親方の声で『バカバカバカバカ』って声が聞こえたけど。」


「『バカバカバカバカ』?!」

花菱
「そのまま点火した。」


「しちゃった!」

花菱
「『待て待て待て待・・・』って声を最後に親方は行方不明になった。」


「『待て待て待て待』?!」

花菱
「これ、そのときのパラシュート(パラシュートを机に置く)。」


「決定的なのが出た!

 そして、まだ持ってた!」

花菱
「とりあえずこれから着替えて、もう一度現場に行くから。」


「探すのね。」

バイブ音
「ウィーン。ウィーン。」

花菱
「(スマホで通話する)もしもし。
 あぁ。これから向かうとこ・・・え?!」


「どうしたの?」

花菱
「見つかった?!」


「よかったじゃない!」

花菱
「打ち上げ現場から2キロ離れた杉の木の枝に引っかかってたって。」


「やっぱり上も見ておいて正解だったわね。」

花菱
「親方の様子は?
 ケガとか?
 ・・・あ、そう。」


「なんだって?」

花菱
「ピンピンしてるって。」


「2キロも吹っ飛ばされたのに?」

花菱
「もう次の花火大会のための筋トレを始めてるって。」


「その筋トレはなんのため?
 基礎体力のため?飛ぶため?」

花菱
「うん。うん。
 わかった、じゃ1時間後に(通話を切る)。」


「1時間後?
 え、親方見つかったのに出かけるの?」

花菱
「うん。飲み会!」


「ホント、打ち上げが好きね。」

 

 

 

 

 

 

 

【コント・セルフ・ライナーノーツ】

気がつかない内にやらかしてたタイプのコント。

 

文章にすると長いですが、途中ハイスピードのやり取りがある想定です。

それでも他と比べると演じる時間は長めかもしれません。

 

動きの少ない会話劇なので、演出よりも純粋に演者の力が光るコントだと思います。

練習用にもぜひどうぞ。

 

 

【過去コントを5本チョイスしました。こちらもどうぞ。】

【コント】ライオン
【コント】今日はクリスマス#3
【コント】落語
【コント】ベルマーク
【コント】レストラン

 

 

 

【コメント募集中】

今後のコント作りの励みになるので、ぜひ、感想をお聞かせください。

 

【実演したい方へ】

本ブログのコントは自由に演じていただいて構いません。

アレンジや改変も自由です。

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