「ストレイ 悲しみの化身」(2019年作品)感想 | 深層昭和帯

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オルガ・ゴルデツカヤ監督によるロシアのホラー映画。出演はエレナ・リャドワ、ヴラディミール・ヴドヴィチェンコフ、セバスチャン・ブガーエフ。

 

 

<あらすじ>

 

外科医のイゴール・ベロワは、妻のポリーナ、息子のヴァーニャとともに幸せに暮らしていた。ところが、警察からヴァーニャが死んだとの連絡が入る。遺体の損傷が激しく、誰とも知れないと思ったイゴールは、息子の死を受け入れないまま3年が過ぎた。

 

養子を受け入れる話となり、ふたりは孤児院を訪れる。そこでポリーナが、片目を撃ち抜かれた死体を発見した。そして孤児院の子供が「墓場から死者が蘇る」と噂していると聞かされた。その後、ポリーナは孤児院の子供ではない「悪魔」と名付けられた浮浪児がいることを知る。

 

その子は個人の人間ではなかったために警察に連れていかれたが、忽然と姿を消し、イゴールらの前に現れた。ポリーナは彼を気に入り、ヴァーニャと呼ぶようになった。イゴールは気に入らなかったが、彼を養子に迎え入れることに同意する。

 

しばらく一緒に暮らすうち、精神障害があるように暴れるヴァーニャの面影が、徐々にヴァーニャに近づいてきた。名前もヴァーニャと呼ばれることになり、彼こそが自分の本当の子供だとポリーナは信じ込んで、誕生日も同じ日にした。

 

ヴァーニャの粗暴さはまるで治らず、MRI検査を受けさせようとすると突如叫び出し、その声により機器を破壊してしまった。イゴールはこのままではいけないと、少年のことを詳しく調べ始めた。すると、火災現場から助け出されたのが彼で、助けたのがポリーナが見つけた遺体の男だった。

 

ポリーナが妊娠した。するとヴァーニャが嫉妬して胎児に攻撃を始めた。ポリーナはヴァーニャを警戒し始めたが、逆にイゴールは本当の息子だと思い始めていた。だが周囲の人間は少年を危険視していた。ヴァーニャがどんな存在なのかわからないまま、彼に頼まれ少年院まで送ろうとしていた警官が死んだ。

 

ヴァーニャを轢き殺した犯人であるペーチャとターニャが何者かに殺され、お腹の中の子を守ろうとしたポリーナも殺された。すべては突然現れたり消えたりするヴァーニャの仕業だった。イゴールは妻と生まれるはずだった子を失い悲しみに暮れる。

 

ヴァーニャに化けているのは、何かの存在だった。それは、愛する者に化けて心に傷のあるものに近づく、人間ではないものだった。イゴールはヴァーニャに睡眠薬を飲ませて隔離した。そして自分は田舎の家に引きこもった。その家の中には、ポリーナそっくりの何かがいた。

 

<雑感>

 

ロシアのホラー映画。戦争が始まってから、ロシアの映画は極力避けたりまともに感想記事を書かなかったのだが、この映画はかなりまともなホラーで、ハリウッド作品よりはるかに面白かったので、久しぶりにまともに評価する気持ちになった。

 

愛する者に化ける怪物のような存在を、そうと知らずに受け入れてしまうイゴールとポリーナ。ふたりはぐちゃぐちゃになった我が子を、我が子だと受け入れずにいたことで、我が子そっくりに化けた怪物に寄生された。怪物は真似ることはできるが、学習能力に乏しく、粗暴さが抜けない。一方で、愛されるコツだけはわかっている。

 

自分が愛されなくなる恐怖に憑りつかれており、愛情が自分以外に向きそうになると対象を殺す。また変身した人間の恨みの感情を引き継ぎ、復讐もする。そんな厄介な怪物を、怪物だと知りながら、イゴールは妻のポリーナとして受け入れる。

 

愛したい人間と、愛されることで人間に寄生する怪物。おそらく怪物は、生存本能として愛されようとする能力を身に着けたが、愛自体は理解していないように見えた。あくまで人間に寄生するための能力なのだ。蚊の針が、人間に痛みを感じさせないように進化したようなものだ。そういう進化をした何かなのだ。

 

このクリーチャーの造形(原型は不明)が気に入った。愛玩動物は、本気で愛されようとするものだが、こいつはそうした動物や爬虫類の知性はない。もっと得体のしれないものなのだ。人間の皮膚に寄生している微生物のように、ただ寄生するだけ。姿かたちが大きいので、人間の愛情を生存のために利用する。

 

☆5.0。こういうアイデアのある作品は嫌いじゃない。